怠惰の主
異世界:リース
「何やってるも何も、ホームシックになりながらも頑張って生きようとしてるんだが」
甲冑の男は暫し俯いて沈黙した上で、式谷に向き直った。
「ここで何をしている」
待て、同じ質問に今俺が答えたはず。こいつじゃ話にならない的な反応を示すな。
「私達実は旅をしていまして、道に迷ってしまったのです。もし良ければ近くに町か何かあれば、教えていただきたいのですが」
人懐こい笑顔で甲冑の男へと返答すると、男はまた暫し黙りこくった上で踵を返した。
「この辺りの土地について知らないようだな。見たこともない服装もしている……。異邦人、着いてこい。町へ案内してやろう」
「お、それは助かる」
「ありがとうございます」
助かった、のか。これで町まで出られれば、また少し状況もわかるだろう。日本でも外国でも、地球でもなければ、ここがどこなのか。
「なあ甲冑の人よ」
「……」
「おーい? もしもーし!」
「……」
「あ? 無視ですかーい?」
「……」
コスプレ野郎はあろうことか、俺の声を全て無視し始めた。あー始まった始まった。人がカースト下位と判断した途端、こうあからさまな態度とるやつ。いるいる、いるわー。
「異邦人よ、ここは声を出すことも憚られる神聖なる土地だ。町までは静かにしていただきたい」
「あ、そうなの、ごめん。……神聖、ねぇ」
傾斜のある道をひたすらに下り、太陽と思しき恒星が上ってきた方角へと突き進んで行く。しばらくすると、舗装こそされていないものの、切り拓かれた道に入った。着いてきて正解、やはり土地に関しては地元の人間に限る。
そうこうしているうちに、ようやく森を抜けた。そこには穏やかな丘陵地帯が広がっていた。青々しく短く生えそろった草原に、ところどころに木や花が自生していた。
丘陵地帯を下っていくと、やがて先程いた森の辺りから川が流れてきていた。木々のせいで確認はできていなかったが、やはり、歪みに入ったあと着いたのは、山だったようだ。
のどかな川沿いを辿っていくと、遠方に城壁のようなものが見えてきた。川もその中へと引かれているようだ。
「着いたぞ。我々の城下町『アトラヴスフィア』だ」
石造りの壁の奥には、微かに城のようなものが見えてきた。
「じょ、城下……ラ、ラヴ、ラヴ……?」
「アトラヴスフィア、ですよ御影さん」
適応能力高すぎるだろ。スーツ姿で城下町へ入るシュールさ、場違い感、俺の目を貸して見せてやりたいくらいだ。
「あの、よろしいでしょうか。この世界って、どのように呼称されてますか? 私達、学がないもので」
「田舎の出か。この世界は『リース』という名だ。四大国が治め、その一国の地方都市にあたるのがこのアトラヴスフィアなのだ」
町への入り口には門兵が立っており、甲冑の男と同じものを着込んでいた。甲冑の男が門兵に一言断ると、木製の門が開かれた。
中には石や木で建築された家々が立ち並び、市場のような通りで盛んに商売がされているように見える。
いよいよ日本には帰れなさそうだ、という絶望だけが、俺の頭を支配した。
甲冑の男は暫し俯いて沈黙した上で、式谷に向き直った。
「ここで何をしている」
待て、同じ質問に今俺が答えたはず。こいつじゃ話にならない的な反応を示すな。
「私達実は旅をしていまして、道に迷ってしまったのです。もし良ければ近くに町か何かあれば、教えていただきたいのですが」
人懐こい笑顔で甲冑の男へと返答すると、男はまた暫し黙りこくった上で踵を返した。
「この辺りの土地について知らないようだな。見たこともない服装もしている……。異邦人、着いてこい。町へ案内してやろう」
「お、それは助かる」
「ありがとうございます」
助かった、のか。これで町まで出られれば、また少し状況もわかるだろう。日本でも外国でも、地球でもなければ、ここがどこなのか。
「なあ甲冑の人よ」
「……」
「おーい? もしもーし!」
「……」
「あ? 無視ですかーい?」
「……」
コスプレ野郎はあろうことか、俺の声を全て無視し始めた。あー始まった始まった。人がカースト下位と判断した途端、こうあからさまな態度とるやつ。いるいる、いるわー。
「異邦人よ、ここは声を出すことも憚られる神聖なる土地だ。町までは静かにしていただきたい」
「あ、そうなの、ごめん。……神聖、ねぇ」
傾斜のある道をひたすらに下り、太陽と思しき恒星が上ってきた方角へと突き進んで行く。しばらくすると、舗装こそされていないものの、切り拓かれた道に入った。着いてきて正解、やはり土地に関しては地元の人間に限る。
そうこうしているうちに、ようやく森を抜けた。そこには穏やかな丘陵地帯が広がっていた。青々しく短く生えそろった草原に、ところどころに木や花が自生していた。
丘陵地帯を下っていくと、やがて先程いた森の辺りから川が流れてきていた。木々のせいで確認はできていなかったが、やはり、歪みに入ったあと着いたのは、山だったようだ。
のどかな川沿いを辿っていくと、遠方に城壁のようなものが見えてきた。川もその中へと引かれているようだ。
「着いたぞ。我々の城下町『アトラヴスフィア』だ」
石造りの壁の奥には、微かに城のようなものが見えてきた。
「じょ、城下……ラ、ラヴ、ラヴ……?」
「アトラヴスフィア、ですよ御影さん」
適応能力高すぎるだろ。スーツ姿で城下町へ入るシュールさ、場違い感、俺の目を貸して見せてやりたいくらいだ。
「あの、よろしいでしょうか。この世界って、どのように呼称されてますか? 私達、学がないもので」
「田舎の出か。この世界は『リース』という名だ。四大国が治め、その一国の地方都市にあたるのがこのアトラヴスフィアなのだ」
町への入り口には門兵が立っており、甲冑の男と同じものを着込んでいた。甲冑の男が門兵に一言断ると、木製の門が開かれた。
中には石や木で建築された家々が立ち並び、市場のような通りで盛んに商売がされているように見える。
いよいよ日本には帰れなさそうだ、という絶望だけが、俺の頭を支配した。
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