魔王の娘に転生したので学園生活楽しみたい!
第2話「暇つぶし」
自分が魔王の娘ということは渋々受け入れる事にした。
元の世界に戻る方法も分かるわけがないし、ここから逃げるとしても、ここは未開の世界なのだ。餓死して死ぬだけだろう。
しかし、魔王の娘って実際何すればいいんだろう。
もしかすると魔王の後継者っていう立ち位置になるのかな。
それとも、特にそんな決まりや仕来りとかは無くて村人Aみたいな感じになるのかな。
むしろそっちの方が有難いんだけど。
イメージ的には魔族で一番強い人が魔王になるんじゃないかと思うから大丈夫でしょ。
私なんて最弱だと思うし。
大丈夫だよね?
────────────
それから二年が経ち、私は無事三歳となった。
その頃には喉や肺が発達したのか喋ることができる様になった。
正確には喋りやすくなったと言えばいいか。
この国ではセト語という言語で話しているらしいのだが私には日本語にしか聞こえない。
転生特典とかでオートで翻訳してくれてるのだろうか。
それとも元々セト語と日本語は殆ど一緒ということなのだろうか。
だがセト語の文字は読むことができなかった。
一度セバスに頼んで魔王城の書庫へ行ってみたところ、本の背表紙にズラッと見た事も無い文字が並んでいた。
それを見た途端、目眩がして気絶してしまったけどセバスと一緒にいた為、直ぐにベットに運んでくれたそうだ。
セバスには毎回迷惑をかけてる気がする。
そして念願の二本足で立つことができた。
壁を使って初めて立った時はめちゃくちゃ嬉しかった。
当然、父親ダグラスも興奮していた。
その日はずっと上機嫌だったのを覚えている。
最近では城の散策も立入禁止の部屋以外は行き尽くしてしまい、ものすごく暇だった。
スマホもない、テレビもない、外に行く事もできない、何をすればいいのか。
そんな事を考えていると文字を教えるという提案があり、私もそれに賛成した。
言語を覚えるのは将来何かと便利だろうと思ったからだ。
場所は私の寝室で行った。
セト語で書かれた絵本をセバスの読み聞かせの様な感じで勉強している。
絵本の内容はとても面白いとは言えなかった。
残酷な昔話だったり、何がめでたしめでたしなのか意味がわからなかったり。
だが言語を覚えるのは案外容易だった。
セバスの教え方が分かりやすいのだ。
質問には丁寧に分かりやすく答えてくれるし、分からなかった所をもう一度読んでくれたりしてくれた。
だけどまだ完全に覚えたわけではなく、1秒くらい頭の中で考えてからでしか一文字を書くことができないけど。
ここら辺は慣れるしかないと思う。
時々書庫に行ってみるのもいいかもしれない。
私が書庫で倒れてから1人での出入りは禁止されていた。
父親は過保護すぎるのではないかとは思う。
魔王である故、仕事で忙しく私の事をあまり見れていない現状で心配なのは分かるのだが、流石にもう大丈夫なんだけどな。
それに誰も見つからずに書庫へ向かうのが潜入ミッション見たいで楽しかった。
見つかった時はめちゃくちゃ怒られるのだが。
私はいつもの様に部屋からチラッと誰もいないのを確認し部屋から出る。
足音が響かない様に忍び足で歩き、廊下の曲がり角で止まる。
曲がった先に誰もいないかチラッと確認する。
「こんな所で何をなさってるのですか」
「⋯⋯ッ!?」
突然、声がして息が詰まる。
足音も気配もなく近づき声を掛けられたから心臓が止まるかと思うぐらいびっくりしてしまった。
息を整えた後、声の発生元である人物に顔を向ける。
毎日声を聞いている人物だ。振り向く前から正体は知っている。
「ちょっとセバス!いきなり背後から声掛けないでって言ってるでしょ!」
「そう言われましても⋯⋯。こちら普通に近づいただけなのですが。まあ知り合いにも同じ事を言われますがね」
洗濯物を持ったセバスに怒る。
魔王や私の身の回りの世話を殆どセバスが担当している。
セバスはいつも紳士服を着ており、執事の様な格好をしている。
洗濯物を持ってるセバスを見ると執事っていうより家政婦みたいに思えてくる。
セバスはいい嫁になりそう。
セバスの言葉に疑問を抱いたので聞いてみる。
「知り合いの人にも言われてるのに直そうとは思わないの?」
「昔からの習慣なので直ぐには難しいですね」
「昔からの習慣?」
そういえばセバスの昔のことなんて聞いたことなかった。
この際聞いてみることにした。
「⋯⋯。それはそうと、先ほど魔王様からそろそろリディアに魔法を教えても良いんじゃないかと仰っておりましたがどうなさいますか?」
「え?あ⋯⋯、魔法?」
話を逸らされてしまった。
話したくないということね。
そういう事なら深く追求しない。
私、器でかいし。
そんな事より魔法の事だ。
やっぱりこの世界には魔法という概念が存在するらしい。
魔王とか魔族とか存在するのだから魔法もあるんじゃないかと思ってはいたけど、未だにこの目で魔法を見たことが無い。
控えめに言ってめちゃくちゃ気になる。
「自分はリディア様にはまだ早いんじゃないかと思うのですが、やりたいですか?」
「やる!!!やる!!!絶対やる!!!」
「そうですか、では明日の昼食後から始めましょうか」
翌日。
寝ていた私をセバスに起こされる。
めちゃくそ眠い⋯⋯。
小学生の遠足前日の夜はこんな気持ちなんだろう。
興奮しすぎて目が冴えて中々眠れなかった。
「おはようございます、リディア様」
「⋯⋯ぉはようぅ⋯⋯。ぐぅ⋯⋯」
何とか起き上がり挨拶を返すが座ったまま夢の中へ。
「朝ですよ、起きてください」
セバスに2度目の呼び掛けにビクッと身体が反応する。
頑張って半目を開け、欠伸をする。
「今日は一段と寝癖が凄いですね、後で直してあげます」
そんな事を言われ髪触ってみる。
すると所々跳ねまくっていて触っただけでも酷いのが分かった。
兎に角、いつもの様に中庭に設置してある水入りの木樽がある場所へ向かう。
セバスはそれを見届けた後、シーツを回収し始めた。
水入り木樽にはワイン樽の様な蛇口があり、そこから水が出るようになっている。
水は誰かが魔法で生成しているらしい。
魔法で生成しているのでいつも新鮮で飲むこともできる。
水で顔を洗い、眠気を覚ます。
樽の横にある乾いた布で顔を拭く。
当然鏡などないので顔や髪型は確認できない。
セバスに身だしなみを整えてもらうため自分の部屋に向かう。
途中、廊下で丁度通りがかったメイドに話しかけられる。
「おはようございます。朝食が出来ておりますので準備が出来ましたら食堂へお越しください」
「あい」
メイドからそう言われたので後で向かうとしよう。
この髪型にノーリアクションとはロボットみたいだ。
部屋に着いた所で丁度セバスの仕事も終わった様だ。
私のベットを見ると新品かの様にシワが1つもない状態だった。
「髪を整えましょうか」
「おねがいね」
セバスは内ポケットから櫛を取り出し私の髪を束ねる。
櫛はあるのに何故鏡がないんだろうと何時も思う。
何処か別の国にあるのだろうか?
髪が綺麗にまとまり、朝食が出来ているということなので食堂へ向かう。
約7m×1.5m程の机に私と父親のダグラスが座る。
するとメイド達が料理を運んできた。
セバスやメイド達は別の場所で食事をしているらしい。
朝食は固いパンとスープだった。
金持ちみたいな生活なのに食事は見窄らしい。
まあこれが普通なんだろう。
スープの味は絶品だし文句はない。
朝食を済ませると、眠気も完全に覚め、頭の中で今日のスケジュールを確認する。
今は日本でいう8時というところか。
魔法の勉強は昼からと聞いているのでそれまで暇だ。
何しよう。
また書庫にでも行こうかな。
勿論内緒で。
朝食も食べ終え、メイド達が食器を片付け始める。
「リディア、今日は魔法の勉強するらしいな。」
「はい、父様」
「俺も見に行きたいのは山々なんだが丁度今日は大事な用事があって行けるかわからん。呉々も怪我をしないようにな」
ダグラスは見にいけない事にかなり残念がっていた。
仕事で授業参観に行けなかった親の気持ちと一緒だろう。
あれ?なんか何時も見ている様な言い方だったけどどういう事だろう。
セト語の勉強は私とセバスだけでしかいないはずだ。
まあいいや。
朝食を食べ終えた私は早速書庫へ向かう。
何時もはこんな朝から行かないので人の動線が予想できない。
いつもより用心深く行こう。
誰にも見つからず無事に書庫に着く。
いつもより人気が少なく案外楽に行けた。
もしかしたら皆朝食を今食べているのかもしれない。
兎に角、暇つぶしをしよう。
────────────────
──数時間後。
「ここに居ましたか」
「ひゃ!?」
夢中で本を探していると、突然背後から肩を触られ声が聞こえた。セバスだ。
本当びっくりするからやめてほしい⋯⋯。
これがずっと続くかと思うと心臓が二個でも足りない気がしてきた。
「もうお昼ですよ。昼食を済ませましたら魔法の勉強しましょうか」
「う、うん」
もうそんな時間になっていたのか。
やっぱり本というものは時間が経つのが早い。
そうして私は持っていた本を、元の本棚へ仕舞い、セバスと共に食堂へ向かった。
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