最強の種族が人間だった件 ~ エルフ嫁と始める異世界スローライフ ~
正しい魔法の使い方
新しい仲間を得ることに成功した俺は、さっそく家の中のライムと遊ぶことにした。
「ライム。お手」
「キュー!」
「ライム。おかわり」
「キュー!」
声をかける度にライムは触手を伸ばしてくれる。
どうやらライムは俺の言葉を理解しているらしい。
今回のことでハッキリと分かったことがある。
この世界での人族は、迂闊にトイレに行くことも出来ない程の凄まじい影響力を持っている。
俺の存在が明るみに出れば、このアジトとて安全な場所ではなくなってしまう。
これから平穏な生活を送るためには、ライムのような仲間をどんどん集めていく必要があるだろう。
「リア。狩りに行くのか?」
物置の中から弓を取り出したリアは、外出の準備を整えているようであった。
「ええ。まずは主さまの朝食を確保するのが最優先かと」
「ものは相談なんだが……邪魔にならないなら俺も同行できないかな?」
「……とんでもございません。しかし、主さまの手を煩わせるような仕事ではありませんよ?」
「問題ないよ。俺が行きたいから行くだけだしな」
外に出るのが危険な行為というのは理解できるが、流石にずっと家の中で待機しているのも退屈なんだよな。
この世界のことを知るためには、家の外に出て情報を仕入れていくべきだろう。
~~~~~~~~~~
家の外に出てふと視線を上げると、そこで奇妙な光景を目にすることになる。
「あれ……月が2つある……?」
東には赤色の月。西には青色の月。
といった具合に仲良く並んでいた。
「不思議なことを仰るのですね。月とは普通2つあるものではないのでしょうか?」
「…………」
環境が変われば常識もまた変わるというということなのだろう。
この世界の住人たちは、月とは2つあるものという認識でいるようであった。
「主さま。さっそく獲物を発見しました」
暫く森の中を彷徨い歩くと、リアは背負った弓を天に向ける。
弓の向けられた方向に目をやると、丸々と太った鳥が木の枝に止まっていた。
「あそこにいるのはホロホロ鳥ですね。この時期のホロホロ鳥は野鳥としては癖がなく、食用として重宝されています」
リアは流暢に説明をしながらも無駄のない動作で弓を射る。
その直後。
木の枝に止まっていたホロホロ鳥は、バサバサという羽音を立てながらも地面に向けて落下する。
矢のスピードが速すぎて獲物を仕留める瞬間を全く目で追うことができなかった。
「上手いものだな」
「いえいえ。大したことではありませんよ」
リアは謙遜しながらも仕留めたホロホロ鳥を袋の中に仕舞う。
「矢じりに魔法を込めれば威力も上がりますし、ある程度コントロールすることができますから。少し練習をすれば主さまも直ぐに同じことが出来るようになりますよ」
そうか。
さっきの矢には魔法が込められていたのか。
道理で矢のスピードが速すぎると思った。
「なあ。その魔法っていうのは俺でも使えるものなのか?」
「もちろん可能です。魔法とは体内の魔力を使ってこの世界の理に干渉する行為になっています。主さまほどの魔力があれば、直ぐにでも強力な魔法を使うことが出来ると思います」
マジか!?
そういうことは早く言ってくれよ。
格好良く呪文を唱えて魔法を使うのは、中学生の頃からの夢だったんだよな。
「どうすれば魔法を使えるんだ?」
「大切なのはイメージです。まずは何に対して魔法を使いたいか『対象の選択』を行って下さい」
「分かった。対象の選択だな」
そうだなー。
植物なんかを的にしても面白味がないし、せっかくだから俺もリアのように獲物を仕留めてみたい。
どこかに良い感じの獲物はいないものだろうか?
「あ! あの空に浮かんでいる影はなんだろう?」
周囲を見渡してみると、空の上に謎の黒影が浮かんでいるのを確認することができた。
「あれは天竜と呼ばれる魔物ですね。雲の上で生活する天竜は、滅多なことでは地上に降りてこないことで知られています。
基本的には大人しい魔物ですが、100年に1度くらい人里に下りて悪さをするので冒険者ギルドでは高値の討伐報酬が設定されています」
「そうか。あれが竜だったのか」
ここからでは遠すぎてディティールまでは確認することができない。
けれども。
たしかにその影は細長くて蛇のような形をしていた。
どうせだから目標は大きく天竜を対象に魔法を使ってみるか。
「ターゲットを選択したあとはどうすればいいんだ?」
「次は魔法の詠唱の工程です。体内の魔力を使って『どんなことをしたいか?』を頭の中に思い浮かべて下さい。イメージを鮮明にするために呪文を口にしても大丈夫です」
ふむふむ。
要するに詠唱と言っても実際に呪文を口にする必要はないわけか。
せっかくなので俺は以前にリアが使っていた魔法を見よう見まねで試してみることにした。
対象はもちろん空を飛んでいる天竜である。
「火炎連弾(バーニングブレッド)!」
呪文を唱えた次の瞬間。
ここから遥か200メートルくらいの上空に巨大な火の玉が現れる。
火の玉は周囲の雲を蒸発させてしまう程の熱量を秘めており、天竜を目がけて飛んでいく。
俺の魔法を受けることになった天竜は、断末魔の悲鳴を上げる間もなく一瞬で肉体を灰燼に変える。
なんだよ……今の魔法……!?
ドッキリとかじゃないよね……?
こええええええええええっ。
もしかしたら……核兵器並みの威力があるんじゃないか?
「お、驚きました。流石は主さまです! この距離から天竜を仕留めてしまうとは……凄すぎます!」
不幸中の幸いと言えたのは、初めて使った魔法が雲の上の生物を対象にしていたことだろう。
もし森の生物に向けて同じ魔法を使っていたら、ここら辺は全て焼野原になっていたに違いない。
惨事を逃れたことに気付いた俺が、ホッと胸をなで下ろした直後であった。
ドガァァァァァン! と。
突如として凄まじい爆発音が地上に向かって降り注ぐ。
何事かと思って空を見上げると、驚くべき光景がそこにあった。
「月が……消えている……?」
先程まで西の空に浮かんでいたはずの青色の月は、粉々に砕けて、綺麗サッパリと消失していた。
「流石は主さまです! 天竜だけに飽き足らず月まで破壊してしまうとは!」
「……これ、ヤバくないか? 月が消えると色々とこの世界の生態系に悪影響が出る気がするんだけど……」
「そうだとしても主さまが気にする必要はありません。脆過ぎる月が悪いのです」
「…………」
リアの言うことにも一理ある。
俺が悪いんじゃない。脆過ぎる月が悪いのである!
この事態に関してはあまり深入りすると、精神を病みそうになるので俺は思考を停止させることにした。
環境が変われば常識もまた変わるということである。
これから生まれてくる子供たちの常識が『月は1つである』に変わるだけの話だろう。
「ライム。お手」
「キュー!」
「ライム。おかわり」
「キュー!」
声をかける度にライムは触手を伸ばしてくれる。
どうやらライムは俺の言葉を理解しているらしい。
今回のことでハッキリと分かったことがある。
この世界での人族は、迂闊にトイレに行くことも出来ない程の凄まじい影響力を持っている。
俺の存在が明るみに出れば、このアジトとて安全な場所ではなくなってしまう。
これから平穏な生活を送るためには、ライムのような仲間をどんどん集めていく必要があるだろう。
「リア。狩りに行くのか?」
物置の中から弓を取り出したリアは、外出の準備を整えているようであった。
「ええ。まずは主さまの朝食を確保するのが最優先かと」
「ものは相談なんだが……邪魔にならないなら俺も同行できないかな?」
「……とんでもございません。しかし、主さまの手を煩わせるような仕事ではありませんよ?」
「問題ないよ。俺が行きたいから行くだけだしな」
外に出るのが危険な行為というのは理解できるが、流石にずっと家の中で待機しているのも退屈なんだよな。
この世界のことを知るためには、家の外に出て情報を仕入れていくべきだろう。
~~~~~~~~~~
家の外に出てふと視線を上げると、そこで奇妙な光景を目にすることになる。
「あれ……月が2つある……?」
東には赤色の月。西には青色の月。
といった具合に仲良く並んでいた。
「不思議なことを仰るのですね。月とは普通2つあるものではないのでしょうか?」
「…………」
環境が変われば常識もまた変わるというということなのだろう。
この世界の住人たちは、月とは2つあるものという認識でいるようであった。
「主さま。さっそく獲物を発見しました」
暫く森の中を彷徨い歩くと、リアは背負った弓を天に向ける。
弓の向けられた方向に目をやると、丸々と太った鳥が木の枝に止まっていた。
「あそこにいるのはホロホロ鳥ですね。この時期のホロホロ鳥は野鳥としては癖がなく、食用として重宝されています」
リアは流暢に説明をしながらも無駄のない動作で弓を射る。
その直後。
木の枝に止まっていたホロホロ鳥は、バサバサという羽音を立てながらも地面に向けて落下する。
矢のスピードが速すぎて獲物を仕留める瞬間を全く目で追うことができなかった。
「上手いものだな」
「いえいえ。大したことではありませんよ」
リアは謙遜しながらも仕留めたホロホロ鳥を袋の中に仕舞う。
「矢じりに魔法を込めれば威力も上がりますし、ある程度コントロールすることができますから。少し練習をすれば主さまも直ぐに同じことが出来るようになりますよ」
そうか。
さっきの矢には魔法が込められていたのか。
道理で矢のスピードが速すぎると思った。
「なあ。その魔法っていうのは俺でも使えるものなのか?」
「もちろん可能です。魔法とは体内の魔力を使ってこの世界の理に干渉する行為になっています。主さまほどの魔力があれば、直ぐにでも強力な魔法を使うことが出来ると思います」
マジか!?
そういうことは早く言ってくれよ。
格好良く呪文を唱えて魔法を使うのは、中学生の頃からの夢だったんだよな。
「どうすれば魔法を使えるんだ?」
「大切なのはイメージです。まずは何に対して魔法を使いたいか『対象の選択』を行って下さい」
「分かった。対象の選択だな」
そうだなー。
植物なんかを的にしても面白味がないし、せっかくだから俺もリアのように獲物を仕留めてみたい。
どこかに良い感じの獲物はいないものだろうか?
「あ! あの空に浮かんでいる影はなんだろう?」
周囲を見渡してみると、空の上に謎の黒影が浮かんでいるのを確認することができた。
「あれは天竜と呼ばれる魔物ですね。雲の上で生活する天竜は、滅多なことでは地上に降りてこないことで知られています。
基本的には大人しい魔物ですが、100年に1度くらい人里に下りて悪さをするので冒険者ギルドでは高値の討伐報酬が設定されています」
「そうか。あれが竜だったのか」
ここからでは遠すぎてディティールまでは確認することができない。
けれども。
たしかにその影は細長くて蛇のような形をしていた。
どうせだから目標は大きく天竜を対象に魔法を使ってみるか。
「ターゲットを選択したあとはどうすればいいんだ?」
「次は魔法の詠唱の工程です。体内の魔力を使って『どんなことをしたいか?』を頭の中に思い浮かべて下さい。イメージを鮮明にするために呪文を口にしても大丈夫です」
ふむふむ。
要するに詠唱と言っても実際に呪文を口にする必要はないわけか。
せっかくなので俺は以前にリアが使っていた魔法を見よう見まねで試してみることにした。
対象はもちろん空を飛んでいる天竜である。
「火炎連弾(バーニングブレッド)!」
呪文を唱えた次の瞬間。
ここから遥か200メートルくらいの上空に巨大な火の玉が現れる。
火の玉は周囲の雲を蒸発させてしまう程の熱量を秘めており、天竜を目がけて飛んでいく。
俺の魔法を受けることになった天竜は、断末魔の悲鳴を上げる間もなく一瞬で肉体を灰燼に変える。
なんだよ……今の魔法……!?
ドッキリとかじゃないよね……?
こええええええええええっ。
もしかしたら……核兵器並みの威力があるんじゃないか?
「お、驚きました。流石は主さまです! この距離から天竜を仕留めてしまうとは……凄すぎます!」
不幸中の幸いと言えたのは、初めて使った魔法が雲の上の生物を対象にしていたことだろう。
もし森の生物に向けて同じ魔法を使っていたら、ここら辺は全て焼野原になっていたに違いない。
惨事を逃れたことに気付いた俺が、ホッと胸をなで下ろした直後であった。
ドガァァァァァン! と。
突如として凄まじい爆発音が地上に向かって降り注ぐ。
何事かと思って空を見上げると、驚くべき光景がそこにあった。
「月が……消えている……?」
先程まで西の空に浮かんでいたはずの青色の月は、粉々に砕けて、綺麗サッパリと消失していた。
「流石は主さまです! 天竜だけに飽き足らず月まで破壊してしまうとは!」
「……これ、ヤバくないか? 月が消えると色々とこの世界の生態系に悪影響が出る気がするんだけど……」
「そうだとしても主さまが気にする必要はありません。脆過ぎる月が悪いのです」
「…………」
リアの言うことにも一理ある。
俺が悪いんじゃない。脆過ぎる月が悪いのである!
この事態に関してはあまり深入りすると、精神を病みそうになるので俺は思考を停止させることにした。
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