幼女先輩は選択肢を三つお持ちのようで?

浪原ヨム

プロローグのようなもの①


 ガヤガヤと教室中に話し声やパンの袋を開ける音、机の脚が床を引っかく音など学校の中、特有の音が響いている。そんな明るい青春のワンシーンのような光景の中、高校一年生俺、真崎まさき達也たつやは重くため息をついた。

「はぁ……」
「どうしたんだよマッキー?」

 おそらく晴れない顔をしているであろう俺の顔を、その理由に気づきながらもニヤニヤと笑いながら覗き込むのは、俺の机に向かい合わせの向きに机を向け、美味しそうに購買の焼きそばパンを食べている友人、和泉いずみ恵一けいいちだ。 和泉は黒髪で色白のイケメンと言っても過言でしかないようなそうでないような……、ズバリ言っちゃうと微妙な容姿をしている。

 和泉は、まるで見せつけるかのごとく、焼きそばパンを持っている右手とは違う左手に購買の手作りおにぎり(ツナマヨネーズ)を持ち、振った。

 この行動だけで殺意をおぼえるのは、俺が悪いのだろうか。ちなみに俺は和泉が悪い方に命百個いのちひゃっこ賭けても良いと思う。どうでもいいけど、命百個って小学校時代を思い出すね。

「ははん。マッキー、今日もパンを一個しか買えなかたんだな?」
「最初から知ってんなら、聞くなよ……さてはお前、ドSだな?」
「そうだぜ! てか、知ってるくせにー」

 和泉は白い歯を見せ、楽しそうに笑う。

 和泉と俺は、中学から今までの四年間を同じ学校、クラスで過ごした冗談を言い合える仲、とは聞こえが良いがむしろ冗談しか言わないクソフレンズ(仮)の域に達してしまっている。

 このクソフレンズ(仮)である俺たちは周りから見ると気持ち悪いとしか、言い表せないだろう。前に、『ホモでは?』という謎の質問が書かれた紙が机の中に匿名で来たことは忘れたことにした。怖くて、クラスメイトの腐女子、前田まえださんにはうかつに近づけない……。結論を言うと、バッチシ覚えてるし犯人バレてる。

「俺も迷わずおにぎりとパンをダブルで買ってみたいわ……」

 俺が自分の手にあるメロンパンを見ながらぼそりと呟くと珍しく、和泉は真顔になった。いや、神妙な顔とも言える。言葉通りだが、実は俺、おにぎりも食べたかったんだ!

「そうだ、マッキーのその悩み解決する方法があったんだよ」

 俺が謎のカミングアウトをしながらも、普段とは違う和泉の重々しい口調で発せられたその言葉につい前かがみになる。

 そして、俺も神妙な顔で頷いて続きを促す。ゴクリと喉がなった気がした。

 いつも冗談しか言わないクソフレンズ(仮)だからこそ、真面目な雰囲気は俺たちを真剣な話へと導いてくれる。みんな! 俺たち、クソフレンズ(真)かもしれないよ!

「マッキーがパンとおにぎり、どっちにしようか悩むと、必ず、どっちか一個を選ぶしかないというのはマッキーの選択肢が『高』と『低』しかないせいで合ってる?」
「ああ。この場合、『高』と『低』は意味が同じなんだけど……『中』がないと結局、一つに絞らなきゃいけないんだよな……」

 この『高』『中』『低』は決して戦闘能力の度合いとか、背の高さとか声のトーンとかではなく、簡単に言うと選択肢の種類のことだ。俺も、和泉も世界中の誰もがこの三つの選択肢の内、二つだけを持って生まれてくる。

 ほとんどの人が『中』を持ち、『高』か『低』のどちらか一つという二択を持っているため、物事の決断でどうするかを決めなければならない場合、イエスでもノーでもないその中間の選択ができる。もちろん、『高』と『低』にも違いはあり、感情が絡む場合プラスを『高』、マイナスを『低』と表現し、選択を迫られる。

 例えば、購買のパンとおにぎりだと、もともと買うつもりだったパンが『高』、購買で見て買う予定ではなかったのに欲しくなったおにぎりは『低』にあたる。もっとも、パンを買いたいが、おにぎりも悩むな〜的な考えの場合だけど。

 もちろん、『中』の選択肢を持たない人もいるがそれはありえないくらい少ない。世界中で数千人という調査結果が出ていて……驚くことに俺はその一人なのだ。

「でさ、マッキーって都市伝説って信じる方?」
「は?」

 神妙な顔のままの和泉から出た言葉は期待外れなものだった。

 こいつは、俺のこの重大な悩みを都市伝説という伝説と言えばカッコいいだろ? 的な……キッパリと言うとただの巷ちまたの噂話で解決しようとしているのか……やっぱり俺たちクソフレンズ(真)かもしれない。

「信じない方だ」

 怒りをおぼえたのも一瞬で和泉の真剣な顔に、こいつも考えてくれてんだなと思い直すことにした。これだから、ホモとか言われんのか……うん、納得納得。

 これまた信じないか信じるかの二択で聞かれてしまったので俺は、信じない方を選択する。これがもし『中』を持つ和泉だったら、【場合による】とか言えたかもしれない。

「そっかー、じゃ、これは単なる噂話として聞いてくれ」

 少し残念そうな顔をして和泉は話を続ける。

「マッキーの悩みは『中』の選択肢があれば解決するんだろうナーと思って調べてみたんだ。『中』の選択肢、三つ目の選択肢を手に入れる方法を」
「だろうナーって……ナニ、その他人事感。ウザッ!……てか、それができたら苦労しねーよ」

 『中』の選択肢は欲しいが、そんな方法があったらすぐ試している。俺も実は調べてみたクチだ。

「まぁまぁ、噂話だしさ……ネットで前、たまたま見つけたんだけど、自分の誰かとの記憶をどこかにあるうさぎの像に差し出せば三つ目の選択肢を手に入れることができるらしい」

 和泉も自信がないのか声にいつもの覇気はない。噂話にしてはよく出来た設定だ、と上から目線で思いながら詳しく聞いてみる。

「うさぎの像?」
「ああ。誰かが体験記とか言って、闇サイトに書いてたのを見つけただけなんだけどな。そのうさぎの像には神が宿っていて……あっ! URL送る方が早いな」
「それ、俺も思った」

 和泉はてへぺろっ♫ と舌を出してから、スマホを取り出してにょきにょきと操作を始めた。てへぺろってこんなにキモイ響きの言葉だったとは……寒気がするぜ。

 俺がキモさに悪寒がするという人生初の体験をしていると机に置いた自分のスマホが震えた。脚のバランスが悪いのか机も揺れる。和泉がURLとやらをチャットアプリで送ったんだろう。

 スマホを手に取り、送られたURLに行ってみると闇サイトぽくスマホの画面が黒くなり白い文字が怪しく浮かび上がってきた。ただでさえ怪しいのにさらに信憑性が薄れていくからやめろってこのサイトの主ぬしに言いたい。

 色々あるが、百聞は一見にしかず。俺は、その白い字を見ることにした。

「【選択肢を手にいれて私は最強になりました体験記】……? ださいタイトルのうえ、最近のラノベのタイトルみたいに長いな……。ラノベのタイトルは見ただけで内容分かるからすごい良いけど、これ何をしたのかサッパリ分かんないじゃん……へぇー最強になったんだぁーすっごぉーい!(けものフ●ンズのサーバ○風)って言って欲しいのかな?」
「いや……俺に聞くなよ……。どうでもいいけど、お前、け●のフレンズ見てたんだな……なんというか、意外」

 どちらもしみじみと口にしたからか、その後は沈黙が続いた。

 俺はスマホを睨み、ひたすら漆黒に浮かび上がる白い刻印(エセ中二病風に言ってみた)を追うことにする。

「結論! このサイトの主ぬしは頭がおかしい。きっとどこかの小説投稿サイトで魔法少女とかでてくるギャグを書いてるヤツだ」
「マッキー、そのジャッジあきらかに私情含んでるから! 偏見パねぇな……おい。あのサイトの作品、結構好きなんだけどなー、俺」

 俺がスマホをふせて机の上に置いて結論を言うと、和泉は何やらブツブツ言っていた。傷ついてんのかしらん。

 この頭のおかしいサイトに書いてあったのは、選択肢に悩んでいた主ぬしが家の近くの森でうさぎの像を見つけ、『像なら仏』という、どこぞのおじいちゃん理論で祈ってみたら、そのうさぎの像から神さまが現れて……誰かとの記憶を差し出せば選択肢を与えるとか言い出した。そしてついに誰かとの記憶を差し出してしまった主は三つ目の選択肢を手に入れるという体験記だった。

 結局、最強にもなってねぇーな!? という感想はおいておく。

「そうそう詳しい画像……てかイラストもあるんだよ!」

 俺が期待して損したという憂さ晴らしにメロンパンにかじりついていると和泉が思い出したという口調でニコニコしながら和泉自身のスマホの画面を俺に見せてきた。

 その画面にあったのは……、

「こっちのうさぎの像は良しとして、なんだこの神さまのイラストは!? うさぎの像を擬人化しただけだし、明らかにZ軸持ってねぇな!? 神さまが巨乳美少女でたまるか! もっと、こう……白いヒゲのおじいちゃんを想像してた純粋な俺に謝れ!!」

 神さまのイラストがヒドかった。うさぎの像の首に青くて丸い飾りがついている一方、神さまは首に青い真珠のようなものがついたネックレスをして、白いワンピースを着た巨乳美少女だった。それに、どこかのラノベからそれっぽいイラストを取ってきたんじゃねぇかと思うくらい上手い。

「謎にキレるのはいいんだけどさ……う、後ろ後ろ……ッ!!」

 いつの間にか、普通にキレていた俺に呆れながら口を開いた和泉は急に何かに気付いて口をパクパクさせ、俺の後ろを驚愕の表情で指差している。

 俺が後ろを振り向くと何も変わったことはない。

「えっ……何かあんの……ぶごっ!」

 急に誰かに殴られた。

 困惑する俺の上から聞き慣れた女子の声が降ってくる。

「あんた今、巨乳って言ったよね?」
「い、言いました……多分?」
「確実に言ったよね?」
「ヒャイッ! そうです……や、やめて、殴らないで、上原サン」

 ヒャイッと言ったときにその女子がYシャツの襟を持ってきたので慌てて頼む。すると、ため息が聞こえて俺のYシャツから手が離れた。俺は椅子に座り直す。そして謝ることにした。

「本当にすみませんでした……」
「悪気はなさそうだし許すわ」

 そう満足そうに言うのはクラスメイト且つ、俺の家のご近所さんの上原うえはら英梨えりだ。制服をきちんと(?)校則ギリギリで着こなし、黒髪を高い位置でポニーテールにしている。切れ長で少し青っぽい上原の目は笑ってなかった。ヒェー怖い。

 そもそもなんで、巨乳の一言にキレたかというと、まな板というあだ名で呼ばれてきた上原は巨乳と聞いてバカにされてると勘違いしてしまったから……だと思う。前にも同じことが他の男子であって、そのときに上原の友達に聞いた。

 上原は俺に画面を見せたまま恐怖で固まっている和泉を見ると、嬉しそうに口を開いた。

「何見てんの?……ってこのイラストって私が好きな絵師さんの絵柄そっくりじゃん!」

 言い忘れていたが上原はアニメオタクである。原作ラノベはもちろんのことイラストレーターにまで詳しい。

 やっぱりこのイラスト、ラノベからの借りパクじゃん……と納得したが違うらしい。

 上原はブレザーの胸ポケットからスマホを取り出すとあるイラスト投稿サイトを見せてきた。確か……ピクサブだ。

「ほら。一緒でしょ? この人一般人なんだよねースゴイなー」

 上原がスゴイ嬉しそうに見せてきた画像はハイライトや色の使い方までうさぎ擬人化神さまのイラストと一緒だった。この人に他人がイラストを依頼するのは難しいし、この人があの闇サイトの主かもしれない。

「へぇー。スゴイ人もいるもんだなー名前は?」
「イナさんって言うよ。何?」
「いや……何でもない」

 俺がそう答えるとちょうど予令のチャイムが鳴った。上原は急いで自分の席に帰っていく。すると、上原が去って呪縛が解けたらしい和泉が机を前に向けながら振り向いて言う。

「そのイナさんにピクサブで連絡取ってみたら?」
「うん。今、聞いてみた」
「はえーな!? でマッキー何て聞いたの?」
「選択肢。うさぎの像。ホントですか? って送ってみたけど」
「こっわ! ストーカーっぽいな……」

 和泉が引き気味に言った言葉にそうかな……? と首を傾げていると手に持ったスマホが震えた。

「あっ、返事来た! 早いな……えっと、そうですよ。うさぎの像の写真送りますね……だって。サイトにそれ載せればいいじゃんって思ったの俺だけ?」
「いや俺も思った……で、その写真は?」

 俺は再びスマホの画面に注目する。そこにはあのイラスト通りの写真があった。それを拡大して和泉に画面を見せると和泉は目を僅かに見開いた。そんなに驚くことかしらん。

「そっくりだな……この都市伝説信じる価値あるかもしれないぜ!」

 和泉が興奮気味にそう言うと本令が鳴って、古典のハゲ教師が教室に入ってきた。

「そうなの……? そうだよね!」

 俺は和泉のその言葉でなぜか一気に信憑性が増した気がした。クソフレンズ(仮)は冗談しか言わないんじゃなかったっけ?

 スマホをスクバにしまうときにちらりと見えたスマホ画面に【神さまの写真見ますか?】と出ていた。ちょっと、さすがに怖いし畏れ多いので後で断ろうと思う俺なのであった。 

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