召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜

夜州

第23話 小さな依頼者


「――何か?」

 俺が一言だけ返すと、途端に冒険者達の表情が崩れていく。

「さっき言った事がわからねぇのか? スラムの餓鬼なんて放っておけって言ってるんだよ? わからねぇのか?」

 俺に声をかけてきた少年も、ガラの悪い冒険者から隠れるように俺の後ろへときた。

「別に貴方達に言われる覚えはありませんが……」
「……この……魔法職の癖に俺たちに文句だと……?」

 プルプルと震え始めるたところで、ギルド職員から注意がきた。

「ギルド内での争いは禁止されております。場合によってはギルド除名か、捕縛しますよ?」

 一人の受付嬢が出てきた事でなんとか場が収まった。しかし三人は「覚えていろよ」と捨てセリフを吐いてギルドを出て行った。
 まさかのテンプレとは……。でも助かった。レベル的に負ける事はないが、まだこの世界に来て間も無くギルド除名されたら、生活できるかもわからない。
 ホッとしてギルド嬢に礼を言う。

「たまに、ああいう人もいるので注意してくださいね」

 その言葉を残し、カウンターの中へと戻って行った。

「案内してくれるかな? その前に俺はトウヤって言うんだ。君は?」
「俺は……レオルって言うんだ。着いてきて」

 俺はレオルに案内を頼みギルドを後にする。
 レオルの後を追うと、人通りのあるところから次第に寂れていき、スラム街へと入っていく。所々から視線を感じる。少年に連れられた冒険者というのも奇異なのかもしれない。
 スラムに入り十分くらいで一つの建物で少年が立ち止まる。

「ここなんだ。住んでるの。早く診て! 回復できる人連れてきたよ!」

 レオルの声に――子供がワラワラと建物から出てくる。
 ……ここは孤児院か何かなのか……。
 出てきたのはレオルよりも幼く、まだ一桁代の少年少女ばかりだった。

「お兄ちゃんがお姉ちゃんを治してくれるの!?」

 まだ幼い少女が期待を込めて俺を見上げる。

「とりあえず、そのお姉ちゃんの具合を診ようか」
「うん、こっちだよー」

 レオルの後を追うと、その後に子供達が着いてくる。
 案内された部屋に入ると、一人の少女がベッドで眠っていた。
 近くにより、顔を見ると、赤くなっており額に手を乗せるとかなり高熱が出ている。

「ハイヒール」「解毒魔法キュア

 魔力を込め魔法を唱えると、女性は光に包まれていく。
 ヒールだけで十分かもしれないが、念のため解毒魔法もかけた。
 光が消えていくと、そこには赤みが引き、落ち着いた呼吸をした女性が眠っている。
 俺と同じくらいの年かな。金髪で胸あたりまで伸ばし、眠っていてもわかるほどの美少女だった。

「これで大丈夫だと思うよ。あとはゆっくりとしてちゃんと食事をすれば……」

 俺の言葉に、子供達は笑みを浮かべ喜びあう。
 子供達の笑みはやはりいいものだな。

 ギュルルるるるるる……

 その中で腹の音が響く。視線を送ると少女が少し恥ずかしそうな顔をする。
 ここにいるのは子供達だけだ。眠っている女性が食事の用意をしてたのだろう。

「お兄ちゃんがご飯を作ろうか? 台所まで案内してくれるかな?」

「「「「ご飯!!!」」」」

 俺の言葉に子供達が喜びの声を上げた。子供達についていくと小さな台所に案内された。
 食材は……何もないな……。
 次元収納ストレージから食材を次々と取り出して並べていく。
 後ろで眺めている子供達から「おおぉぉぉぉ!!!」と声が上がるが、気にせずに料理を始めた。
 肉と野菜を切って次々と次元収納ストレージから取り出した鍋に入れていき、水魔法で鍋を満たす。そして火をかけてグツグツと煮込んでいく。

「ここに何人いるんだ?」
「全員で八人だよ。あとお姉ちゃん」
「そっか、じゃぁあとは……」

 護衛の依頼を受けて、街で買い物をしたパンをいくつか取り出して、食べやすいサイズに切っていく。

「じゃぁもう少しで出来上がるから、パンを持って行ってくれ」

 子供達は皆で切ったパンを持って部屋を出て行く。
 鍋もグツグツと煮えて、味付けを行い味見をする。

「うん。いい感じ」

 出来上がったスープの入っている鍋をそのまま次元収納ストレージに仕舞う。見ていた子供達もいきなり大きな鍋が消えたことに驚きの声が上がった。

「よし、出来たぞ! 食堂へ行こう」
「「「「はーーーい!!」」」」

 食堂に移動し、子供達が用意した器にスープを注いでいく。
 全員に行き渡った事を確認してから食べ始めた。

「美味しい!!」
「お肉が入ってる!!」
「本当だ!? お肉なんて久々」

 子供達はパンを齧りながらスープを啜っている。食べながら浮かべる笑みに俺も思わず頬が緩む。
 俺もそこまで腹は減ってないが、掬ったスープを口にする。

「うん、美味い」

 子供達と雑談をしながら、ここのことを聞いた。やはり孤児院らしい。
 もともとは寝込んでいる少女の親がやっていたが、亡くなり、その跡を継いで少女が一人で子供達の面倒をみているとのことだった。

 そして急に扉が開かれた。

「これは一体、何……?」

 振り向くと、先程まで寝込んでいた少女が立っていた。


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