雫の想像主
第1章 再誕の想像主(4)
4話 世界が変わろうと同じ事
僕の初撃は木刀で受け止められ、鍔迫り合いで押されていた。
「頑張って下さいっスよ、ノエルっ!」
アレスさんは力を入れて刀を押し込み、僕はそれを利用し力を抜いて、回るように下から斬りあげる。
「応用力いいっスよ!でも、まだまだっスね!」
だがいとも簡単に防がれてしまい、僕は思考を巡らせながらなんとか剣撃を捌いていく。 
「ほらほら、早くしないと負けてしまうっスよ〜?」
軽い口調とは裏腹に、最初の様子見から攻めに変わった事で、一撃一撃が鋭く重く変化し、そしてなによりも速く正確なその剣筋に押され始めた僕は、嫌いな力を少しずつ解放して行く。
「っ!」
視界がモノクロの世界に切り替わり、自分の体の中からブチブチッと何かが引き千切られる嫌な音が脳に響き、僕は訪れる激しい痛みを無視して彼女に斬りかかる。
「うおうっ!?」
僕の突然の変化に驚いたが、神様なだけあって難なく対処されてしまう。
「びっくりしたけど、全然対象可能っスよ!」
僕は力を瞬間的に解放し、やっと目で追えている程の剣速を急激に倍加させる。
「よっ」
「……ッ!!」
ぎりぎりの所で躱されてしまったけど、アレスさんが後ろに飛んで距離を取ろうとするのを、僕は『今の』全速力で肉薄した。
「今のはちょっと見えなくて冷やっとしたっスよ……じゃあ、次はマジっぽく行くっスね!」
瞬間、僕の剣が勢いよく弾かれて砕け散り、ガラスの破片のように散らばったものを無視して後方に飛び退くと、僕は意識を集中する。
「まさか壊されるとは思いませんでした。それじゃあ、『刀以外』を使います」
僕の掌に砕けた破片が液体となって集まり、それを二つの双剣に姿を変えて両手に握る。
「休んでる暇ないっスよ!」
僕は瞬時に危険を感じて後ろに飛ぶと、アレスさんの木刀が僕の目の前を通り過ぎると同時に、ドォンと爆発音と共に爆風と床の破片が辺りに弾け飛んだ。
「っ!」
僕は破片を双剣で捌きながら、爆風に吹き飛ばされた身体のバランスを取って地面に降り立つ。
「…………」
僕の視界の先にあるのは、アレスさんを中心とした円状に抉れた床で、木刀とは思えない状況を作っていた。
「思いの外頑張るっスねぇ、オレサマと一緒で感がいいのかは分からないっスけど……でも、まだ弱いっスね」
アレスさんは一瞬で僕の前に現れると木刀で薙ぎ払い、僕は剣で受け流すのに失敗して、両方の武器を遠くに弾かれた。
「力が足りないっス、それじゃファースワールドの勇者クラスっス……あの創造主に勝つなんて夢のまた夢っスよ?」
そう言って僕の首に木刀の峰を押し付けて話すアレスさんを視線から外し、その言葉に疑問を抱く。
「そんな事、どうでもいいです。だってこの世界に僕の母さんもあの子もいないし、あの塵供も居ない……そもそも僕は生きる意味が無い」
僕はそう言って顔を上げると、アレスさんは真剣な表情で僕を見据えていた。
「復讐したいっスか?」
その言葉に、僕はゆっくりと確かに頷くと、アレスさんは暫く目を瞑り考え、ある提案を出した。
「分かったっス、ここの居る間にオレサマに勝ったら、『それ』の事を教えるっス」
その言葉に、僕は目を見てアレスさんに聞く。
「嘘では、ないですよね?」
アレスさんも真っ直ぐに視線を合わせ頷いた。
「嘘はつかないっスよ」
僕は暫く視線を合わせていたが、身体の限界が来た瞬間に崩れる様に座り込んだ。
「ヒール」
その聞き覚えのある声を耳にし、強烈な睡魔が襲ってくる中、魔法らしきものを使ったディーテを見ると、彼女は優しく微笑み返した。
「安心してください、私達が側に居ますから」
僕はその言葉に、お母さんに似た安心感を感じて、ゆっくりと瞼を閉じた。
☆☆☆
ゆらゆらと、心地良い感覚に僕は目を覚ました。
「……んん…………ここ、は?」
目を開けると、僕はアレスさんの背中に負ぶさっていた。
「お、起きたっスか?」
何故か緊張しているアレスさんに不思議に思いながらも返事を返す。
「はい、お陰様で体も軽くなりました」
「そ、それは良かったっスねぇ」
僕は首を傾げ、横に歩いているディーテのほうに視線を向けると、ディーテは口元を手で隠して微笑むだけだった。
「着いたっスよ〜」
長い廊下を歩いて着いたのは、多分食事をする部屋の前で、その部屋に料理を乗せたワゴンが扉の向こうに入って行くのを見た。
「アレスさん、もう歩けるので下ろしてください」
「了解っス」
下ろして貰い、僕は扉の方に歩いて開けると、部屋の中は会合の時とあまり変わってなく、もう他の神達が座っていた。
「早くここ座れよぉ、もうマジで腹減って死にそうだから食べようぜ?」
アロハシャツを着た美青年、ポセイドンさんは爽やかな笑みを僕に向け、隣の席をぽんぽんと叩いて誘ってきた。
「……ボケイドンうるさい……それにその席は……ヘパイストスの」
「ああ、ヘパイストスさんは工房でまだ作業中だから大丈夫だって」
「……それでも……だめ」
アテナさんは相変わらず無機質な目でポセイドンさんを窘めると、僕に視線を向けてじぃっと見つめてきた。
「席は会合の時と一緒ですよね?」
僕の質問にディーテが頷くのを確認して、僕達は自分の席に移動して座る。
「皆席に着いた事だしー、それじゃー、『頂きます』」
変わらない風習に思わず頰を緩めると、僕もみんなと同じ様に手を合わせて言った。
「相変わらず肉は美味いな!」
そう言ってステーキを次々とポセイドンさんが頬張るのを見て、僕もナイフとフォークを使ってステーキを切り分けて口に運ぶ。
「っ!?……美味しい」
噛んだ瞬間に旨味が口に広がり、あまりの美味さに僕はびっくりする。
「……当たり前……この牛肉は……デメテルが育てた薬草を……餌にしているから……旨味をさらに向上させて……しつこさも無く……さらに臭みもない」
僕はアテナさんの話を聴きながら、程なくして完食してしまった。
「ご馳走様でした」
僕は手を合わせてそう言うと、食べ終わった皿を給仕の女性が手際よく片付けてくれたが、ふと、その人の背中の翼を見ていると、反対の席に座っていたアレスさんが説明してくれる。
「ああ、そう言えば初めて見るっスよね。背中に翼が生えてるのは天使族の証っス。この世界では彼らがメイン種族っスけど、下界には他の獣人族とかエルフ族、龍人族から人族やら他にもいろんな種族が混在しているっスけど、天使族はここだけっスから向こうからしたらかなりのレアみたいっスね」
その事を聞いて、ふと僕は質問する。
「……たまに見かける黒い翼を持った人達はなんと呼ばれてるんですか?」
僕の意図に気付いたのか、少し悲しげに顔を歪めた。
「黒天使族っスよ、間違えても堕天使と言って忌む様な真似はしないっス。どちらかと言えば黒天使の方が魔力の質と量が多いっスからね……下界では堕天使と忌み嫌っているっスけど」
僕はそれを聞いて、どこも一緒の事をするんだと、失望した。
「……何処の世界でも、そこは同じなんですね」
「そうっスね……」
いつのまにか溢れたその言葉に、アレスさんはさらに、表情を暗くした。
☆☆☆
鍛冶場の炉で焚かれている赤い火が、二人の影を壁に映す。
「……受け取れ」
男は手に持った大人の頭ほどの大きさの麻袋を少女に投げ渡す。
「ん……計画通り行けてるみたいで何より」
少女は中身を確認してそう言うと、ドアノブに手をかけて外に出ようとすると、後ろから男が声をかける。
「本当に、『メア』と会えるんだろうな、もし嘘だったら、俺はお前ら全員根絶やしにしてやるからなッ!」
男は声を荒げるが、少女は背を向けたまま言葉を紡ぐ。
「やりたければやればいい、その代わり約束は守ると『創造主』からは言われてるから、そっちから破ったら、どうなるかは分かってるよね」
男は苛立たしげに頭を掻くと、吐き捨てる様に言う。
「ッ……早く出て行け!」
「ん、言われなくてもそうする」
少女はそれだけ言うとドアを開けて出て行き、残された男は重い足取りで炉の近くに置いてある椅子に座ると、頭を抱えて俯く。
「……『メア』、俺は間違って、いないよな」
返事のない言葉を待つ様に言う男の目は、火に照らされる右の赤い目とは裏腹に、左の青い目は悲しげな深い色を滲ませいた。
僕の初撃は木刀で受け止められ、鍔迫り合いで押されていた。
「頑張って下さいっスよ、ノエルっ!」
アレスさんは力を入れて刀を押し込み、僕はそれを利用し力を抜いて、回るように下から斬りあげる。
「応用力いいっスよ!でも、まだまだっスね!」
だがいとも簡単に防がれてしまい、僕は思考を巡らせながらなんとか剣撃を捌いていく。 
「ほらほら、早くしないと負けてしまうっスよ〜?」
軽い口調とは裏腹に、最初の様子見から攻めに変わった事で、一撃一撃が鋭く重く変化し、そしてなによりも速く正確なその剣筋に押され始めた僕は、嫌いな力を少しずつ解放して行く。
「っ!」
視界がモノクロの世界に切り替わり、自分の体の中からブチブチッと何かが引き千切られる嫌な音が脳に響き、僕は訪れる激しい痛みを無視して彼女に斬りかかる。
「うおうっ!?」
僕の突然の変化に驚いたが、神様なだけあって難なく対処されてしまう。
「びっくりしたけど、全然対象可能っスよ!」
僕は力を瞬間的に解放し、やっと目で追えている程の剣速を急激に倍加させる。
「よっ」
「……ッ!!」
ぎりぎりの所で躱されてしまったけど、アレスさんが後ろに飛んで距離を取ろうとするのを、僕は『今の』全速力で肉薄した。
「今のはちょっと見えなくて冷やっとしたっスよ……じゃあ、次はマジっぽく行くっスね!」
瞬間、僕の剣が勢いよく弾かれて砕け散り、ガラスの破片のように散らばったものを無視して後方に飛び退くと、僕は意識を集中する。
「まさか壊されるとは思いませんでした。それじゃあ、『刀以外』を使います」
僕の掌に砕けた破片が液体となって集まり、それを二つの双剣に姿を変えて両手に握る。
「休んでる暇ないっスよ!」
僕は瞬時に危険を感じて後ろに飛ぶと、アレスさんの木刀が僕の目の前を通り過ぎると同時に、ドォンと爆発音と共に爆風と床の破片が辺りに弾け飛んだ。
「っ!」
僕は破片を双剣で捌きながら、爆風に吹き飛ばされた身体のバランスを取って地面に降り立つ。
「…………」
僕の視界の先にあるのは、アレスさんを中心とした円状に抉れた床で、木刀とは思えない状況を作っていた。
「思いの外頑張るっスねぇ、オレサマと一緒で感がいいのかは分からないっスけど……でも、まだ弱いっスね」
アレスさんは一瞬で僕の前に現れると木刀で薙ぎ払い、僕は剣で受け流すのに失敗して、両方の武器を遠くに弾かれた。
「力が足りないっス、それじゃファースワールドの勇者クラスっス……あの創造主に勝つなんて夢のまた夢っスよ?」
そう言って僕の首に木刀の峰を押し付けて話すアレスさんを視線から外し、その言葉に疑問を抱く。
「そんな事、どうでもいいです。だってこの世界に僕の母さんもあの子もいないし、あの塵供も居ない……そもそも僕は生きる意味が無い」
僕はそう言って顔を上げると、アレスさんは真剣な表情で僕を見据えていた。
「復讐したいっスか?」
その言葉に、僕はゆっくりと確かに頷くと、アレスさんは暫く目を瞑り考え、ある提案を出した。
「分かったっス、ここの居る間にオレサマに勝ったら、『それ』の事を教えるっス」
その言葉に、僕は目を見てアレスさんに聞く。
「嘘では、ないですよね?」
アレスさんも真っ直ぐに視線を合わせ頷いた。
「嘘はつかないっスよ」
僕は暫く視線を合わせていたが、身体の限界が来た瞬間に崩れる様に座り込んだ。
「ヒール」
その聞き覚えのある声を耳にし、強烈な睡魔が襲ってくる中、魔法らしきものを使ったディーテを見ると、彼女は優しく微笑み返した。
「安心してください、私達が側に居ますから」
僕はその言葉に、お母さんに似た安心感を感じて、ゆっくりと瞼を閉じた。
☆☆☆
ゆらゆらと、心地良い感覚に僕は目を覚ました。
「……んん…………ここ、は?」
目を開けると、僕はアレスさんの背中に負ぶさっていた。
「お、起きたっスか?」
何故か緊張しているアレスさんに不思議に思いながらも返事を返す。
「はい、お陰様で体も軽くなりました」
「そ、それは良かったっスねぇ」
僕は首を傾げ、横に歩いているディーテのほうに視線を向けると、ディーテは口元を手で隠して微笑むだけだった。
「着いたっスよ〜」
長い廊下を歩いて着いたのは、多分食事をする部屋の前で、その部屋に料理を乗せたワゴンが扉の向こうに入って行くのを見た。
「アレスさん、もう歩けるので下ろしてください」
「了解っス」
下ろして貰い、僕は扉の方に歩いて開けると、部屋の中は会合の時とあまり変わってなく、もう他の神達が座っていた。
「早くここ座れよぉ、もうマジで腹減って死にそうだから食べようぜ?」
アロハシャツを着た美青年、ポセイドンさんは爽やかな笑みを僕に向け、隣の席をぽんぽんと叩いて誘ってきた。
「……ボケイドンうるさい……それにその席は……ヘパイストスの」
「ああ、ヘパイストスさんは工房でまだ作業中だから大丈夫だって」
「……それでも……だめ」
アテナさんは相変わらず無機質な目でポセイドンさんを窘めると、僕に視線を向けてじぃっと見つめてきた。
「席は会合の時と一緒ですよね?」
僕の質問にディーテが頷くのを確認して、僕達は自分の席に移動して座る。
「皆席に着いた事だしー、それじゃー、『頂きます』」
変わらない風習に思わず頰を緩めると、僕もみんなと同じ様に手を合わせて言った。
「相変わらず肉は美味いな!」
そう言ってステーキを次々とポセイドンさんが頬張るのを見て、僕もナイフとフォークを使ってステーキを切り分けて口に運ぶ。
「っ!?……美味しい」
噛んだ瞬間に旨味が口に広がり、あまりの美味さに僕はびっくりする。
「……当たり前……この牛肉は……デメテルが育てた薬草を……餌にしているから……旨味をさらに向上させて……しつこさも無く……さらに臭みもない」
僕はアテナさんの話を聴きながら、程なくして完食してしまった。
「ご馳走様でした」
僕は手を合わせてそう言うと、食べ終わった皿を給仕の女性が手際よく片付けてくれたが、ふと、その人の背中の翼を見ていると、反対の席に座っていたアレスさんが説明してくれる。
「ああ、そう言えば初めて見るっスよね。背中に翼が生えてるのは天使族の証っス。この世界では彼らがメイン種族っスけど、下界には他の獣人族とかエルフ族、龍人族から人族やら他にもいろんな種族が混在しているっスけど、天使族はここだけっスから向こうからしたらかなりのレアみたいっスね」
その事を聞いて、ふと僕は質問する。
「……たまに見かける黒い翼を持った人達はなんと呼ばれてるんですか?」
僕の意図に気付いたのか、少し悲しげに顔を歪めた。
「黒天使族っスよ、間違えても堕天使と言って忌む様な真似はしないっス。どちらかと言えば黒天使の方が魔力の質と量が多いっスからね……下界では堕天使と忌み嫌っているっスけど」
僕はそれを聞いて、どこも一緒の事をするんだと、失望した。
「……何処の世界でも、そこは同じなんですね」
「そうっスね……」
いつのまにか溢れたその言葉に、アレスさんはさらに、表情を暗くした。
☆☆☆
鍛冶場の炉で焚かれている赤い火が、二人の影を壁に映す。
「……受け取れ」
男は手に持った大人の頭ほどの大きさの麻袋を少女に投げ渡す。
「ん……計画通り行けてるみたいで何より」
少女は中身を確認してそう言うと、ドアノブに手をかけて外に出ようとすると、後ろから男が声をかける。
「本当に、『メア』と会えるんだろうな、もし嘘だったら、俺はお前ら全員根絶やしにしてやるからなッ!」
男は声を荒げるが、少女は背を向けたまま言葉を紡ぐ。
「やりたければやればいい、その代わり約束は守ると『創造主』からは言われてるから、そっちから破ったら、どうなるかは分かってるよね」
男は苛立たしげに頭を掻くと、吐き捨てる様に言う。
「ッ……早く出て行け!」
「ん、言われなくてもそうする」
少女はそれだけ言うとドアを開けて出て行き、残された男は重い足取りで炉の近くに置いてある椅子に座ると、頭を抱えて俯く。
「……『メア』、俺は間違って、いないよな」
返事のない言葉を待つ様に言う男の目は、火に照らされる右の赤い目とは裏腹に、左の青い目は悲しげな深い色を滲ませいた。
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