雫の想像主

ポテト男爵

第1章 再誕の想像主(2)

2話 それぞれの始まり


「私の名はゼウス、このヘイヴニルの守護に尽力する者です」

そう言って僕に頭を下げたのは、背中に白い翼を生やした青年で、吊り目がちの瞳の色は澄んだスカイブルー、オールバックにされた金髪は鳥の羽根をあしらった髪飾りで止め、残った髪は後ろに流しているイケメンだ。

「いや〜本当待ち草臥れてたよ〜俺達?後もう少しでアテナ一号が出動していたかもよ〜?あ、俺の名前はポセイドンだからよろっ」

茶化す様に呑気な声を上げた青年も、負けず劣らずのイケメンで、アロハシャツにビーチサンダルを履いた、気の良さそうな印象を与える人だ。
ちなみに肌の色はアレスより少し黒っぽく、目の色はコバルトブルーで、髪の色は水色で短髪だ。

「……調子に乗るな……ボケイドン……それ以上言うと……体と首を泣き別れにする」

その男の声に反応したのは、まだ外見から言えば10歳にも満たない幼女で、小さな顔にはルビーを思わせる瞳に寝ぼけ眼で、髪はクリーム色のおかっぱに近い短髪に、頭の上に寝癖らしき髪がピョコンと立っているが、感情を表す様に、生き物みたいに揺れ動いている。

「……いつもの絡まりだから気にすることはない……言い忘れていたが、背の低い女の名前はアテナ、そして俺の名前がハデスだ」

そう言ってよろしく頼むと言ったのは、灰色のパーカーを着た青年で、ネックウォーマーを着けた上にパーカーのフードを被っていて顔は分かりづらいが、その間から見えるアメジスト色の瞳はとても鋭利で、まるで先の尖った刃物を印象づける。

「ぁ、あの!わ、私の名前はデメテルです、その、えと、よ、よろしくお願いしますっ!」

急に椅子から立ち上がって自己紹介をしたのは、真っ白な白衣にまん丸い眼鏡をかけた女性で、平凡な顔の頬にそばかすがあって、瞳の色は緑色に髪は黄緑色のウェーブがかった長髪だ。

「あーあたしの名前はヘスティア〜、まーある程度の相談は受けるから、えーと、テキトーによろしくー」

そう言って身の丈に合っていない紺色のジャージの袖をぴらぴらとさせる少女は、髪の毛をあまり切る習慣がないのか、手入れをあまりしてなさそうな長い薄ピンク色の髪が床に着いていた。
でも、1番特徴的なのは両目を隠す様に付けている安眠マスクだろか。

「相も変わらず今日も実にお美しい……ちなみに天都では今フュルームなる物が人気らしく、それを先程出来立てで取り寄せたんですが、後で一緒にお茶でも如何でしょうか?」

ディーテを茶会に誘う男の容姿はこれもまた良く、髪は茶色で青と赤のオッドアイを持っており、一つ一つの仕草が高貴な貴族を感じた。

「乃恵琉様の席はアテナの右横になります」

そう言ってゼウスが指をパチンッと鳴らすと、僕の席の椅子が勝手に動いた。

「緊張しなくてもいいわよ、何かあれば隣にいるアテナに聞きなさい」

ディーテさんは耳元で囁いて、アレスも僕にサムズアップすると席に向かう。

「ふぅ……よし」

僕は気を引き締めて席にむかい座ると、アテナから厚めのファイルを渡された。

「これは?」

「……簡単に纏めた……資料と……日程表……今はこれを読んで」

彼女がファイルを開けて指差した資料を取り出す。
そこには戦線の状況、補給物資要求書だった。

パンパンッ

皆、各々の会話を止め、手のひらを鳴らした張本人、ゼウスに視線を向ける。

「よし、それではこれより、神々の会合を始める。まずは戦線における状況だが、これは前の報告と変わらず、年齢がばらばらのゾンビ軍団、しかもその大多数が異なる世界線の人間を材料に作ってるだけでなく、何らかの手法でそれぞれの力はファースワールドの勇者並みに強化されている。今はアポロンとペルセポネ、ヘルメスが担っているが、これからの事を考えてハデス、ポセイドンにも戦線に出てもらいたい……出来るか?」

二人はそれぞれ応用に頷く。

「……ああ」

「俺も別にいいぞ〜」

「よし、次は補給物資だ。ヘパイトスとデメテルには悪いが、次の戦場の激化を予想する為、いつもより多めに作ってもらいたい。可能か?」

その問いにヘパイトスが立ち上がり、右手を胸に当て左手を開き自信ありげに頷く。

「そんな物簡単ではないか、この私に任せなさい」

デメテルはおどおどしながらも頷いた。

「は、はいっ……あ、でも、材料となる薬草などがもっと必要になるので、あの、調達、お願い出来ますか?」

ゼウスが問題無いと頷くと、デメテルは安堵しながらも緊張して言葉を噛んだ。

「わ、わかりましゅたっがんばりまひゅっ!」

「ぷぷぷー、てるてる噛みまくり〜」

からかうようにヘスティアは笑うと、ゼウスはそれを視線で窘める。

「乃恵流様、この後はアテナに部屋を案内させますので、アテナについて行ってください。それと分からない事があれば、明日の朝に専属のメイドが一人来ますので、そちらに聞くといいでしょう。他に聞きたい事はありませんか?」

僕は終始考えて、首を振る。

「大丈夫です、ゼウスさんありがとうございます」

僕の感謝の言葉を聞いて、ゼウスは照れる様にはにかんで謙遜する。

「いえいえ、気にしないでくださいおと……乃恵流 様」

僕はその言葉を聞き、この神様達は『今の僕』を『昔の僕』と重ねているのだろうか?と思い、少し考え事をすると、自分を切り替える様に終わりを宣言する。

「それでは、これで神の会合を終わりにする。各種持ち場に戻れ」

ゼウスの終了を聞くと、それぞれ行動に移り始め、その中にこっちを向いて手を振るディーテやアレスも見たが、ヘパイトスは最後まで僕を睨みつけていた。

「……」

僕はヘパイトスの出た扉を見つめていたが、後ろから僕の服を引っ張る感覚に振り向くと、アテナが服を摘んで見上げていた。

「……手を出して」

僕はそれに従い左手を差し出すと、小さく柔らかい感触を感じた。

「……手を離したら……駄目だからね?」

そう言うと彼女は、手に持っていた大きな本を中に浮かばせ、あたりに青白い光を放ちながら勝手にページがめくれていき、あるページで止まると、その小さな口から詠唱らしきものが紡がれる。

「……全知の書、1373p魔法『瞬間移動』」

アテナは言い終わると、そのページを破り、それがさっきよりも強く光り輝き視界を奪うと、僕は瞬間的に浮遊感に襲われて意識を失った。

☆☆☆

薄暗い廊下を、一人の少女が歩いていた。

「……」

コツ、コツと鳴り響く足音は、目の前に現れたボロボロの鉄製の扉の手前で止まり、錆び付いた嫌な音を出しながらそれを開ける。

「遅れてすまなかった……他の者達にも伝達したが、十中八九来ないだろう」

少女は無表情で謝ると、部屋の隅で体育座りをしていた少年は少女に右手を向け。

「遅いんだけど一体何様のつもりなの?僕は一人がいいって分かってて遅くしたのかな?君はなんで門限を約束を規則を規律を守れないのかな?次遅かったらお前を肉箱にするからな」

そう言って手の平をぎゅっと握りしめると、後ろの鉄の扉は音を立てる事なくそこそこ大きい鉄箱になった。

「なぁ、そんな事より早く殺しに行こうぜ?オレもぉオレのコレクション達もぉ、殺りたくて殺りたくてしょうがねぇんだよぉ?」

「はあーうるさい黙れ口閉じろメンヘライカれ女がただでさえ僕は一人がいいってのに仲間とはいえ同じ空間に何人もいる事に嫌気がさしてるんだよ分かったら静かにしろよ!なんで僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだイライラするイライラするイライラするクソがッ!!」

少年が苛立たしげに頭を掻き毟り、眼鏡を掛けた少女に手を向けると、近くにいた魔法少女のコスプレの様な衣装に身を包んだ女性が間に入る。

「も〜、そんな酷い事言っちゃいけないんだよ?たとえ嫌いでももっともっともぉっと好きにならなくちゃ!この世界は愛で満ち溢れているんだから!」

「お前ら本当に怒らせる才能あるよね無自覚なの意図的なのまあそれはいいよただ今は我慢出来ないくらい腹たってんだよッ!肉箱になりたくなかったらそこどけッ!!」

少年は目を血走らせ、前に立つ女に手を向けて握り締めようとした時、少年の目の前に突然光の文字が浮かび上がった。

『そうじゃ喧嘩はいかんのぉ、少し落ち着くのじゃ』

少年はその文字を読み終わり、少し離れた所にいる老人を見やると、不服そうながらもしぶしぶと手を下げた。

「ちっ……爺さんが言うなら黙ってて置いてやるけど仲良くする気は無いからな次は問答無用でミンチ箱にしてやるからな分かったら僕に関わるな喋り掛けるな耳障りな音を出すな」

「へいへい、わかってるよぉそんなこたぁ」

「チッ……感に触る嫌気が指す腹立たしいよまったく」

少年の言葉に肩をすくめた少女を見て、そう不平不満をブツブツと呟く。

「愛しの方から御告げが来ましたわっ!」

椅子に座っていた神官の服装をした女性が立ち上がり、周りはそちらの方に顔を向ける。

「ねぇねぇ『【θ】シータおねえちゃん』めいれいはなんだったの?」

その女性は問いかけて来た幼女の頭を優しく撫でると、聖女の様な微笑みを浮かべた。

「大丈夫よ、ちゃんと御告げを一言一句違わずに教えてあげるから、今はお兄ちゃんのところにいなさい?」

幼女はその言葉にこくりと頷くと、青いジャージを着た青年のところに戻る。

「おにいちゃんおんぶして?」

「可愛い妹の頼みならなんでも聞いてあげるからな!そぉれっ!」

そのやり取りが終わるのを見届け、聖女は御告げを皆に伝え始めた。

「それでは改めて……『かのお方がセカンドワールドに顕現された。これより、作戦Bに移行する。それぞれ担当の作業に速やかにつけ』以上が御告げの内容です」

その言葉が合図となり、それぞれが動き出す。

「よし!ゆうしゃとしてわるいやつをころしまくるぞ!」

「よぉし、斬って抉って刺して楽しむかぁッ!」

「……わたしは他のみんなに伝えてくるわ」

遅れて着た少女はそう伝えると、背を向け部屋を後にする。

「アールさん伝言お願いしますね」

その返事をする事はなく、暗い廊下に消えて行くのを見て、聖女は一人になった部屋で熱いため息を溢す。

「やっと貴方の夢が叶うのですね……例えこの命に代えてでも、遂行してみせます……全ては義父の為に」

聖女は月明かりの差し込む窓辺に近づき、その身を照らしながら祈った。

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