雫の想像主

ポテト男爵

第1章 再誕の想像主(1)

1話 目覚め


頬を撫でる温かい風、それに乗って草木の爽やかな匂いが鼻をくすぐる。

「〜♪〜〜♪♪」

よくお母さんに歌ってもらった子守唄と共に、暖かい手でゆっくりと頭を撫でられる優しい感覚が、僕の意識を徐々に覚醒させる。

「…………おかぁ……さん?」

起きたばかりで視点が合わず、ぼやける視界に捉えた人物に問い掛けるが、その人物はゆっくりと顔を横に振った。

「ごめんなさい、私は貴方のお母さんではないの」

目をこすり、一つ瞬きをしてもう一度見ると、確かにその人物は僕のお母さんではなかった。
その前にこんなに美しいという言葉が似合う女性を見るのは初めてで、瞳の色は茶色、目は垂れ目で泣きぼくろが妖艶さを際立たせている。
金髪は腰までふわりとしたストレート、シルク素材の真っ白な純白のドレスのようなものを着て、首には真珠のようなネックレスを下げていた。

「…………いいえ、貴方が歌っていた歌が、死んだ母がよく歌ってくれた子守唄に似ていたので勘違いしてしまった様です」

僕がそう言うと、彼女は悲しげな表情を浮かべて僕に謝る。
だが、この出来事に『あの男』が関与している可能性を否定出来ない為、僕は表情や雰囲気を変えずに、この女性に対する質問の内容を考える。

「そうだったの……それは、悪い事をしたわね……今度からは控える様にするわ」

「いえ、別に控えなくてもいいですよ、僕は逆に歌って欲しいくらいですから……あの、聞きたい事があるので、質問してもいいでしょうか?」

僕はベッドから上体を起こし、真剣な目付きで見つめると、その人物は微笑みを浮かべて深々と頷いた。

「分かったわ、出来る限りの質問に答えるよう努めるわ」

僕は努めて冷静に質問をする。

「簡単に纏めると質問は三つ、一つ目は此処は何処なのか、二つ目は貴方の名前、三つ目は……貴方達の目的が何かです」

彼女は微笑みを絶やさずに、そっと指を三本立てた。

「一つ目、此処は天界のヘイヴニルン城と言う、神々が住まう城内の客室である事
二つ目、私の名前はアフロディーテ、愛の女神と崇められる者である事」

「愛の女神アフロディーテ、それはギリシャ神話の?」

僕の問いに頷くと、先程の優しい微笑みを消して、真剣な表情で最後の問いに答えた。

「三つ目、私達の目的は二つ、想像主の復活と、それに対して対立する『創造主』との戦争に勝つ事です」

☆☆☆

「……僕に、戦争で敵を殺せと?」

彼女、ディーテ(アフロディーテは長いので略した)は申し訳なさそうに話し出す。

「貴方はもう、誰も殺したくないと思うのは、貴方がそうなる前も尚変わらない事は重々承知しています」

話に引っかかりを覚えながらも、僕は臨戦態勢をやめずに聞く。

「私達も戦わせたくありません、私達だけで勝てるのならば、そんなことはお願いしません……でも、私達だけでは勝てないのです。神と謳われても、結局私達は『貴方方』に作られた子供達、その盤上はどうやってもひっくり返すことは出来ないのです」

「……」

「まあそうでしょうね、現実味のない話をほいほいと信じるよりは、断然にいいわ……本当だったらこのまま、順を追って説明したい所だけど、今は適任の子が居ないから神の会合が終わった後にするわね」

僕は少し考えた後に、渋々了解した。

「……分かりました。でも、僕は完全にあなたの事を信じれないので、ここから出て行ってくださ『バタンッ!!』……」

僕が扉の方を向くと、一人の女性が仁王立ちしていた。
その女性は、瞳は銀色の切れ長で顔も整っており、腹筋が板チョコの様に割れとても引き締まっている。
髪型は銀髪のポニーテールで露出度の高い鎧を着ており、そこから覗く健康的な小麦色の肌は、何処ぞやの戦闘女性民族の様な感じだ。

「オイ〜っス!神の会合始まるっスよ〜って……ん〜?」

どうやらディーテを呼びに来たらしく、僕の存在に気づき歩み寄ると、
しげしげと見つめて。

「ああ〜っ!想像主様が起きてるっス!!」

そう歓喜の声をあげて僕に抱きついてきた。

「やっと会えたっス!ずっと会いたかったっスよ〜!!」

害意がないからいいけど、この力だったら普通に骨を何本も持っていってるんじゃないかな?

「アレスほどほどにしなさい、彼はまだ目覚めたばかりなんだから、離さないとそのまま死んでしまうわよ?」

その忠告を受けて力を弱めるも、離さずにディーテを恨みがましく睨んだ。

「そう言っていつも抱きついてたっス!オレサマはもう騙されないっスよ?」

ディーテは言う事を聞かない事に腹を立てたのか、少しずつ空気が変わる。

「あら、義姉ちゃんの言う事が聞けないのかしら?」

有無を言わさぬその気迫に当てられているアレスは、それに全く影響を受けず。

「ディーテ義姉さんよりもアテナの方が怖いっスよ〜……ここで、するんスか?」

背中にさしている大剣の柄に手をかけ、好戦的な眼で笑う。

「……そう、言う事が聞けないのなら仕方ないわね」

そう言うとディーテは、青く光り出した右手をアレスに向け。

「あの、早く神の会合に行かないと、そのアテナさんに怒られるんじゃないですか?」

僕は間に入るように言うと、彼女達は臨戦態勢を解いた。

「忘れてたっス!アテナに怒られるの嫌っスよ!!」

「そうだったわね、ゼウスとかにとやかく言われるのも怠いから、行きましょうか」

僕は場を治めた事に内心ほっと一息つくと同時に、足元に青白い光を放つ魔法陣が浮かび上がる。

「大丈夫っスよ、今から会合の場所に転移するだけっスから」

一瞬周りの視界がブレて浮遊感を感じた後、いつの間にか大きな扉の前に立っていた。

「……本当に、転移したんですね」

僕は飽きれ半分で呟いた。

「まあ、前いた世界には魔法なんてないっスから仕方なしっス」

彼女は残念と肩を竦める。
……ふと気になる事を思い、僕はディーテに聞いた。

「そういえば、神の会合ということなら、ギリシャ神話の神様が勢揃いですか?」

「いえ、今は戦争真っ只中なので、幾人かは戦場で戦っていますよ」

「そうっスね〜、今会合に参加してる神はアテナ、ポセイドン、ハデス、ヘパイトス、デメテル、ゼウス、ヘスティア、後はディーテ義姉さんとオレサマと想像主様っスね」

確かに今は敵と戦争中と言っていた。
なら勢揃いする事が難しいのは当たり前か。

「まあ取り敢えず扉開くから、行くっスよ〜」

アレスを先頭に、僕達はゆっくりと開く扉の中へ足を進めた。



「おはようございますそして、ようこそ想像主、『東野 乃恵琉』様」

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