異能バトルの絶対王者が異世界落ち

チョーカー

VS魔王戦


 「ヒラ、これを」

 魔王がそう言うと空間が歪む。
 この感覚は―———間違いなく異能のソレ。 魔王が異能力者というのは本当のようだった。 
 そこから現れたのはヒラが使っていた盾を槍。それをヒラに渡すともう1つ取り出す。

 「なんだ、あれは?」

 見ればライスがいた。ライスだけではなくアスカとナナもいる。
 敵兵の制圧は完了したらしい。

 「あれは薙刀……いや、長巻だな」
 「薙刀?長巻?」
 「あぁ、どちらも俺の世界の武器だ」

 薙刀と長巻。どちらも同じ武器とされる場合がある。
 しかし、長巻というのは太刀が変形したもの。太刀を力強く振るうため、柄の部分が長く変化したものとされている。
 要するに威力最優先の太刀だ。
 なるほど、俺は納得する。 
 ヒラの盾と槍は接近戦。中距離では魔王の長巻の一撃が飛んでくるのか……

 「この!」と最初に攻撃を仕掛けたのはアスカだった。
 魔法による攻撃。火球が魔王達に向かって飛ぶ。
 それが戦いの合図になる。
 火球を弾くと同時に前に出る。

 俺はアスカの前に出る。
 すでに異能『異能殺し』の刀は維持できずに消滅している。
 ヒラの突きをカルマで保護した素手で弾く。
 しかし―———甲高い音。

 ヒラの上に乗った魔王は逆サイドから向かって行ったライスに長巻を振るっていた。
 音の正体。それは長巻を受けたライスの剣が叩き折られた音。
 もちろん、それだけでは済まない。 長巻がライスの額に接触して顔が斬られていた。
 飛び交う鮮血。倒れていくライス。

 「この!」と飛びかかろうとする俺をアスカが止める。
 なぜ止める? そう思ったのも一瞬。

 杖を構えたナナが魔力を放つ。
 アスカのソレとは違い、本物の———それも世界最高峰の魔女の弟子。
 白い光が魔王を襲う。魔王に飛びかかっていたら、俺も巻き込まれていただろう。
 しかし、魔王が手をかざす。 黒い光が白い光を飲み込んでいく。
 魔王とナナとの中間地点で爆発が起き、ぶつかり合っていたエネルギーが上空に向かう。

 (コイツ、魔法も使う……いや、まだ異能力を戦いに使っていない!)

 戦いの直前、空間を捻じ曲げて武器を取り出したの異能力に違いないだろう。
 しかし、あれだけの情報量では異能力の正体はわからない。
 いや、そもそも魔王は俺たち相手に異能を使うほどではないと思われている。

 一瞬、倒れたライスの方を確認する。
 いつの間にか俺の背後から飛び出していたアスカが彼を担いで戦線から離脱しようとしていた。
 すでにライスを守るように彼の部隊が集結する。
 そのままアスカも頼んだぞと部隊の1人にアイコンタクトを飛ばすと伝わったように撤退の準備を始める。
 さて―———俺は―――

 ヒラに巻き付けた『アリアドネの赤い糸』は、まだ生きている。
 『猛牛の迷宮』も設置されているままだ。

 「————なら行ける」

 直前で魔王と目が合う。
 挑発するような視線。
 俺は―———

 異能『異能殺し』

 加速を開始し―———

 異能『因果崩し』

 魔王が何かを言った。 それしか感じられなかった。
 感覚が消失していく。 視界は黒く、音は無。
 自身の体温すら感じられなくなり、世界はへ虚無————

 「ダメ!だめぇぇぇ!」

 声がした。今まで聞いた事のない声―———
 それが俺の意識を覚醒させていく。
 閉じていたはずの瞳が開くと、その声の主がわかった。

 「ナナ…お前…声は……」

 呪われた声。聞いた者を不幸にするから喋らなかった彼女の呪詛カースは―――
 術者の意志を超え、呪いの全てを魔王に向けていた。

 「ぬっ、これは……逃げるぞ、ヒラ」

 魔王の体が消失していく。
 撤退していくのか?そう思った瞬間―———

 「『異能殺し』よ。私はお前よりも前の異能戦争の絶対王者だ。今度の異世界戦争は、今までと違うぞ」

 それだけを言い残して―———


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