異能バトルの絶対王者が異世界落ち

チョーカー

『異能殺し』 異世界召喚

 「———さま… ゆ…さま……」

 誰かが俺を呼ぶ声がする。
 まどろみだった精神が回復していく。
 瞳を開くと―———

 「誰だ? お前は」

 声の主を探すが、周囲は暗闇。気配は希薄。
 そして、膨大な量のカルマが残滓している事がわかった。
 警戒心を強めるも、連続した戦闘が原因だろうか、体の動きが鈍い。

 「私の名前は、アスカ姫と申します」
 「アスカ……姫? …だと?」

 俺の人生で姫を自称したヤツは5人いた。
 どいつもヤバいヤツだったが……

 「失礼します」

 なぜかカーテンが開かれるような音。
 どうやら、周囲は暗幕のように布で囲まれていたようだ。
 暗闇に慣れた俺の目は、光に強い刺激を受けた。

 「ウっ」

 一瞬、視界が閉ざされたが、すぐに回復する。

 「初めまして。私がアスカ姫です」
 「……西洋人? いや、それにしては……混血児ハーフか。いや、今はダブルと言うのか」

 近年、ハーフと言う言葉は差別用語にしようという動きがあるらしい。
 たぶん、インディアンをネイティブアメリカンと呼ぶ運動同様に廃れていきそうだが……

 「ハーフ? ダブル? 意思疎通魔法をすり抜ける言葉でしょうか?」

 「魔法? あぁなるほど」と俺は納得した。
 異能力者には、自分の都合のいいように能力を呼ぶ奴もいる。
 『魔法』『超進化』『悪魔の力』『神の御意志』etcetcエクセトラエクセトラ

 「それで、アンタは何の『魔法』と使ったんだ?残っているカルマだけでも凄い量だぞ」
 「カルマですか? あぁ、私たちの世界では魔力の事ですね。 私が使った魔法は召喚魔法です」
 「……召喚? 俺を呼び寄せた? それはおかしい。俺を移動させるだけでここまでのカルマは必要ないはずだが……」

 俺は、振り返り、自分が寝ていた場所を確認する。
 地面には、五芒星の魔法陣。 それらしい雰囲気は出ている。
 しかし、違和感が拭いきれない。 

 「それでは勇者さま、こちらへどうぞ。皆が待っています」
 「……勇者さま? 皆……だと?」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「————っ! なんの冗談だ? これは?」

 俺の目前には兵士がいた。まるで中世の騎士だ。
 俺が立っているレッドカーペットから左右に分かれ、列を形成していた。
 そして、兵士たちのその奥。一際、目を引く豪華な椅子。
 流石の俺でも何となく、理解した。

 (あれって玉座ってヤツだよな。だとしたら……ここは異世界か?)

 俺だって異世界に飛ばされた経験は何度かある。
 異次元に飛ばす能力者は何人かいて、実際に戦った事もある。
 しかし、あの時は、カルマでできた糸を手繰ったり、空間そのものを破壊して戻ってきたのだが……

 (ここでは、その方法も使えないか。余程、遠くまで飛ばされたか……)

 「おぉ、そなたが異世界で最強の戦士。勇者であるか」

 気がつけば奥の椅子に人がいた。 
 見た目から職業がわかる。 間違いなく、あれは王様だ。

 「はい、どうやらそのようで」

 俺は当り障りのない返事をした。

 「この国は魔王率いる魔人軍から攻撃を受けている。どうか……どうか、勇者さま、お力添えいただけませぬか……」

 王が俺に近づき頭を垂れる。それだけで左右の兵士たちが「おぉ王よ」と嘆き始めた。

 (まるで演劇の一幕みたいだな)

 現実感が喪失していた俺は、そんな感想しか抱けなかった。

 「お父様、どうかご自愛ください。勇者さまは必ず、我らが国―――ジュパ国をお救いになられます」

 アスカ姫は駆けつけると王の体を支え、瞳を濡らしながら俺を見つめてきた。

 (……ずるいな。これ。断れなくなってきやがったか)

 俺は、流されるまま―———覚悟を決める間すら許されずに勇者さまとやらになる事に決まった。
 しかし―———

 「お待ちください」

 そう声を上げる者がいた。
 ソイツは列の中にいた騎士だった。
 その並びは王の玉座に一番近い場所————つまり、騎士の中で一番、エライ奴って事だ。

 「その者が真に勇者に相応しい者か。それを見極めなければなりません」
 「ほう……ライスよ。では、どうしろと言うのだ?」
 「はい、我が王よ。騎士が実力を量る方法は1つのみ……」

 (どうせ、決闘だろ?)

 俺はそう予想してみた。そして結果は―———

 「決闘のみでございます」

 大当たりだった。嬉しくない当りだ。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「おいおい、ライスくんとやら、こんな場所でおっぱじめようって事じゃないだろ? ……なんだっけ?閲覧の間だったか? いや、なんか違う気もするけど……取りあえず戦う場所じゃないだろ」

 俺は挑発交じりに軽口を叩いて見せた。
 真面目で礼儀正しくて、何よりも忠義がある奴には効果がある。
 精神を揺さぶる効果が……な。

 「そのような挑発は御無用」
 「ん? なんだって?」
 「我が、心は常に明鏡止水。この戦いは、貴方の勇者としての資質を問うだけのもの……つまりは通過儀礼ですよ」
 「あぁ、なんだ。いつもやってるわけ? 勇者を召喚するたびに?」

 「……」とライスは無言だった。
 なるほど、俺のより前に召喚されて魔王軍とやらに戦わされた前任勇者がいるみたいだな。
 ……嫌な事を思い出させられる。 まるでカルマを貯めるために噛ませ犬として戦わされたあいつ等……祖父の『死滅計画』を思い出した。

 「……で? いつ? どのタイミングで始まるの?」

 「既に始まっています」とライスは鞘から剣を抜き、剣先を俺に向けるように構えを取った。

 「じゃ、好きにやらせてもらうぜ」


 

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