異能バトルの絶対王者が異世界落ち

チョーカー

アスカ姫の夜這い

 
 『赤き閃光』

 俺は能力を解放した。
 『異能力戦争の絶対王者』や『異能殺し』と呼ばれる以前の二つ名。
 その元になっていた最初の能力。

 「なっ!?」

 ライスの声だけ轟いた。
 きっと俺の姿を見失ったのだろう。
 俺の能力『赤き閃光』は高速移動。ジグザク走行に限るというデメリットがあり、
 通った後には俺の残像が残り、上から見るとデフォルメされた稲妻のように見える。

 「これが俺の能力の1つ『赤き閃光』だ」

 俺はライスの背中まで瞬時に移動していた。
 声によって俺の存在に気づいたらしい。
 背後を取られるのを嫌う騎士の本能だろうか? 彼から手加減の文字は消えていた。
 振りむくと同時に剣を振る。

 『物理破壊バンカーバスター

 剣は俺の手に触れると砕け散った。

 「なんだと!」

 戦い慣れていない異世界の能力ってのもあるかもしれないが————

 「流石に驚きすぎだぜ。あんた……」

 武器を破壊され、無防備になったライスの腹部に手を添える。

 「物理バンカーぁぁ……」
 「待て待ってくれ。私の負けだ。だから、それを―――」

 「破壊バスターだぁぁぁぁ!」

 俺の掛け声と同時にライスの鎧は砕け散った。
 しかし―――

 「うわあああぁぁぁ……? あれ? ダメージがない…だと……」

 ライスの鎧が砕け落ちるが、ライスにダメージがないのは当然の事だ。

 「この異能力は『物理破壊バンカーバスター』と言って、物体を破壊する事に特化した能力だ。生物には、影響が一切ない。だが……」
 「だが?」
 「勝負はどうする? このまま続けるか?」
 「いや、私の負けだ。勝てる要素が見当たらない。力量差を分らされたと言ってもいい」

 俺はライスに手を差し伸べた。
 彼は一瞬狼狽えたが、俺の手を掴んで起き上がった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「さて、魔王退治ね」

 不釣り合いな部屋に通された俺は天蓋つきのベットにの転がっている。
 本当に国賓扱いだ。

 「しかし、久々に真っ当なベットで寝れるなぁ」

 戦争中は自室に戻る事も出来ず、町中の裏路地で隠れて眠るのが普通だった。
 あの戦いでも拠点アジトくらいは用意しておけば良かったなぁ……
 瞳を閉じて、まどろみの中へ没頭していく途中―———

 コンコンコン

 ノック音が響いた。睡眠を邪魔されて少しばかり不機嫌になる。
 無視してやろうと布団を頭に被せてやるが、いつまでたってもノックは鳴りやまない。

 「しかたがない。……どうぞ!」

 抗議の意味を込めて、ワザと語尾を荒げて返事をした。

 「しっ! 失礼します!」

 意外だった。その声はアスカ姫のものだ。
 彼女はおっかなびっくり入室してくる。
 キョロキョロと様子を窺う様子が小動物を……それも愛玩動物を連想され、睡眠を邪魔された怒りは消えていた。
 それどころか気分がよくなっている。俺には珍しい事だ。

 「何の用ですか? 姫様」

 俺は冗談交じりに声をかけた。
 彼女は「はっはい!」と近づいてきた。
 どこか挙動不審な感じ。初対面の時には凛とした雰囲気があったはずなのに……

 「あの勇者さま……」
 「その勇者ってのはやめてくれないか?」
 「え?その……」
 「初めて会った女性から様付けじゃ、ムズ痒くてしょうがない」
 「では、なんと御呼びいたしましょう? 私、勇者さまのお名前を知りませんので……」
 「そう言えば……そうだったな。俺の名前は楓……いや、俺の事は『異能殺し』と呼んでくれ」

 物騒な二つ名だったためか、姫は「異能殺し……さま」と小さく口ずさんだ。

 「さま付けが問題なんだが、まぁ良い。異能殺しさまとでも呼べ」

 何がうれしいのか、姫は「はい!異能殺しさま」と声を弾ませていた。

 「それで何の用だ?」

 しかし、彼女は「……実は」と言い淀んだ。
 なんだ?何か妙な事になってきたな。よくよく姫の様子を観察する。 

 (コイツの服装ってアレか? あのネグリジェってやつじゃないか?)

 男の部屋に夜に1人で訪れるってわかってるのか?このお姫様は……まるで抱いてくださいって言ってるようなものだぞ。

 「あの……異能殺しさま。私を抱いてください」 
 「……なに言ってやがる? お前」

 あまりにも予想外の言葉だった。
 なるほど。これが色仕掛け(ハニートラップ)ってやつか。
 いや、どうやら俺は混乱しているみたいだ。
 しかし―――アスカ姫は―――

 「私は貴方さまに身を捧げる覚悟でまいりました」

 そのまま、俺に抱き付いてきた。

 (……あれ? 抱くってハグって意味じゃないよな?)


 

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