天才軍師は俄か仕込の生兵法 

チョーカー

織田キキ対服部タケルの勝敗

 
 タケルは極端な前傾姿勢で飛び込んだ。
 キキは剣を振り下ろす。
 その剣は無慈悲だ。 
 例えば、その剣が木刀などではなく、この世界に存在していたない竹刀だったとしても――――
 当たると死ぬ。

 そして、それはタケルに当たった。

 最速の剣はタケルの肩口へ―――― しかし、前傾姿勢だったため、直撃した場所は肩よりも背中に近い。
 ただの木刀が、まるで名刀のようにタケルを切り裂き、そのまま地面に触れると大砲の着弾を連想させるように地面が爆ぜ、両者の姿を消した。
 舞い上がる土煙。
 だからこそ――――砂煙が舞い上がっているがこそ、異変が目に見えた。
 風? 飛び交う砂は外へ―――― 外へと向かっている。
 何が起きたのだろうか? ただわかることは爆心地の中心。
 何かが回転している。 まるで扇風機のように人が回転していたのだ。
 その人物はタケルだった。
 そして、彼が突き出した木刀はキキの胸元に触れていた。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 俺は前に出る。
 姫の剣速は、鍛え上げられた俺の動体視力を遥かに凌駕している。
 だが、肉眼に捉えれなくともわかることもある。
 姫は必ず、剣を振り下ろす。
 そこには駆け引きもなく、フェイントを使わないだろう。
 そして、彼女が剣を振り下ろすタイミングは決まっている。
 俺が必殺の間合いに入った瞬間だ。

 そして、それは来た。

 来るとわかっていても、避ける事は許されず、受けも効かない。
 だが――――

 軽気功

 限りなく自然と同化して、自己を消滅させ地球と一体化するを目的に作られた。
 まさに服部一族の秘伝中の秘伝。
 体から重さが消えていく感覚。重力に従って、空から落ちていく羽のように――――
 背中に何かが触れる感触だけが残る。
 俺の軽気功は、キキの剛剣すら無効化してみせたのだ。
 しかし、それで完全に防げたわけではない。
 視界は地獄。
 俺の肉体は、剣から放たれた風圧に翻弄される羽のように――――地面への着地すら許されない。
 体がバラバラにちぎられていくが如く。
 頭部へ流れていく血液は不規則に、体の毛細血管のいくつかは破裂。
 視界が赤いのは眼球の血管に異常が起きているからだろうか?
 しかし、それでも俺のは手にした木刀を離さない。
 理不尽に宙を彷徨い続ける中、その剣先だけは姫に向かって伸びていった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 「一本それまで!」

 ローウェンは指をまっすぐに伸ばし、タケルの勝利を宣言する。
 キキは、何が起きたのかわからないといった表情のままで固まっている。
 そして、勝者であるはずのタケルは地面に転がり、起き上がる様子はない。
 耳や鼻、そして目からも血液が流れ出ているのがわかる。

 敗者であるキキは無傷。
 勝者であるはずのタケルは生きているのだろうか? それすらもわからないダメージを負っていた。

 唖然としていたキキは冷静さを少しずつ取り戻していく。
 彼女は――――

 (殺した)

 そう思った。 しかし、違った。
 仰向けに倒れた少年は勝利を誇るように固く握った拳を空に向けて突き上げた。
 タケルは意識を失いながらも、肉体が反応したのだ。

 違うことのない確かな勝利を

 それだけは確信していたのだ。

 

 

 

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