天才軍師は俄か仕込の生兵法
キキ対タケルの試し合い
―――家の裏庭―――
鍛錬に使われる事もあり、それなにの広さだ。
キキは、使い勝手を確かめるように軽めに木刀を振るう。
木刀
それは木を材料に刀を模して造られた物。
剣の稽古で真剣の代用品として使用されるものだ。
しかし、人々は忘れやすい。
木で殴られれば、骨は簡単に折れる。当たり所が悪ければ死ぬことすらあり得る凶器だ。
キキは瞳を爛々と輝かせ、嬉々とした表情で木刀を振るい始めた。
11歳のタケルに対して手加減をするつもりはないらしい。
もしかしたら、怪我くらい負わせて、タケルの代わりとしてローウェンを護衛に……と皮算用をしているのかもしれない。
自然とタケルの視線はキキからローウェンに移った。
ローウェンはニヤリと笑う。
(あの親父! わざと姫を焚きつけたのか!)
タケルは父親の意図に気付く。
ローウェンは、タケルにとって父親であり、同時に剣と魔法の師匠でもある。
そして、剣と魔法の鍛錬となれば、意外とスパルタ指導なのだ。
逆に言えば、タケルはキキに勝てると踏んでいるのだ。
この様子では、キキは本気で振るって来るだろう。
対して、タケルは―――
(まさか、護衛対象を怪我させるわけにはいかないよな……)
自分が負ける事は一切考えていなかった。
どう手加減するのかを考えていた。
鬼姫と異名を持ち、この歳で戦場に駆ける。
実力で織田陣営の将にとして武勲をたて、そして父親の親衛隊に実力で選ばれるほどの相手にして……だ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「それじゃ、見合って……開始!」
父親の声で戦いは始まった。
どう攻めるか? 俺は考えた。
相手―――姫はまだ無防備な状態。 構えすらとら――――
ミッシ―――
異音。
なんの音だ?
姫の方から聞こえてきた。
特におかしな事はない。
姫は無防備――――いや、構えを取った。
両手に持った木刀を―――天を突くように高く上げる構えだ。
ただ、それだけ。半身の状態ですらなく、両足は横に並ぶ。
左右対称の構え。
ミッシ、ミッシ
異音は続いている。
一体、何をして――――俺は気づいた。
姫は木刀の柄を握り潰すような握力で握り、雑巾絞りのように内側に力をいれている。
全身から感じられる圧力。 その正体は、全身の筋肉を動員させる尋常ではない力み。
そこから姫の狙いが分かる。
剣の間合いに入れば、一撃必殺の剣檄を浴びせる。
もしも、振り落とされる剣を、横にした木刀で防御しても防御そのものを叩き折るつもりなのだ。
例えば、崖から転げ落ちてくる1tの落石を木刀で防げる方はないように――――
受けるどころか、僅かに掠っただけで俺は地面に叩きつけられる。
「……ほう」とローウェンの呟きが聞こえた。
「これは、少しだけ姫の実力を侮っていたかな?」
このクソ親父め!
俺は声に出さない悪態をつく。
しかし、父親を恨んでも仕方ない。
「さて―――」と姫の攻略法を考える。
実を言えば、姫の構えは明確な弱点がある。
あの構えでは――――人間の筋力は長時間持続しない。 いつでも、間合いに入った俺に剣檄を浴びせれるように姫は力みを維持している。
1分……長くても2分も俺が動かなければ、剣の威力は大きく低下する……
だが、それではダメだ。
たとえ、そんな方法で勝ったとしても姫は否定してくるだろう。
「この卑怯者! 恥知らずめが!」と罵ってくる未来が見える。
だから、俺は前に出る。
姫の木刀がうねりをあげて、振り落ちてくる。
それを俺は――――
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