Re:Яe:お兄ちゃんは世界を敵にまわします。

揚げせんべい

序章: 5 思い出の絵本 2


今まで見たこともない混沌と化した世界を見てグラードは嘆きました。

始まりはグラードの力を危険視した者たちが、グラードの力を欲した者たちが、グラードへと手を出したはずだった。しかし、いつからかそれはグラードのいるキュラソラース王国にその手が伸びた。

多くの人々が死んでいく戦い。いつしか何の為に人は死ななくては行けないのか。殺さなくてはならないのか。人々は、自分は何の為に生きているのか。グラードは分からなくなってしまっていた。それからは、奪い奪われを繰り返す戦争へ。各種族間での奪い合いによるこの世界の種の頂点を争う戦いに。

何の為に頂点を決めなければならないのか。王が国を治める。それではダメなのか、と。世界がこのようになってしまったのは元はと言えば自分が引き金だと、現状がどうであろうとこれは自分が止めなくてはならないと。そう思ったグラードであった。

しかし、グラードがいくら強いからと言って世界を、各国の総勢約3億人という戦士達の戦いをこれを1人で鎮めるなど不可能である。故にグラード•バルストは仲間を集めることにした。この不毛な戦争を共に終わらせる仲間を。

まず最初に仲間にしたのが同じヒューマンであり友であったヘルパ・トルートと言う男であった。ヘルパは優男だが実力はキュラソラース王国の中でグラードの次と評されている。しかし、この男ヘルパ・トルートもまた、グラードに勝るとも劣らぬ実力を持つ者なのだ。

さらに仲間を集うべくグラードとヘルパは互いに親交のあった者達に声をかけていくのであった。

そして、グラードとヘルパの元に7人の戦士が集ったのだ。何の因果か。そこにはグラード、ヘルパの2名を入れた八種族、ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ビースト、ドラゴニュート、レヴィーラ、フェルマ、デューマが1名ずつ揃ったのであった。たったの9人、各国の軍勢総数約3億に対したったの9人。しかしこの9人各々が強力な力を有した者達。





そしてその頃、世界を巻き込んだ覇権戦争は各種族の総力戦。争いは、最終局面を迎えていた。

最後の戦いとなるであろう。ここにいる者達誰もが思ったこの場所は後に、決戦の地と呼ばれる地に、8種族の各々の総戦力が集結しいたのです。戦いの狼煙がついに上がると思われたその時、9人の戦士が戦場の、8種族の中央に現れた。

その9人は各々が各種族において《最強》と呼ばれる力を持つ者達。その9人の覇気に、その大きな魔力に、その場にいた全ての者達は圧倒された。そして、しばしの静寂が訪れその静寂の中グラードが口を開き、大声でその沈黙を破る。

「各々の偉大なる種族の戦士達よ!!この戦いは今日をもって終わりとしよう!!…しかし、どうしても今日で終われぬと言うのであれば、私が、私達が全力で貴様らの相手となろう!!!!」

グラードが言い終えると同時に9人全員が各々の武器を構える。武器を構えたことにより9人の気迫は凄みへと変わり、たったの9人がその場の3億人を再び圧倒する。





8種族の各長達は、あの9人を相手にしては行けないと分かっていた。分かってはいたが各々既にもう引き返せないでいた。ここで引き返してしまえば、自分達の国が、己の立場が危うくなる。戦争が長く続いたせいで、この戦争の責任をどこかの国に負わせなければ自分の国が、民が死んでしまうと、他の国に責任を負わせられなければ自分たちの首が危ういと。。。ここで終わらせてはいけない。
ここで終わってたまるかと。もう引き返せないのだと。種の、己の、私利私欲な戦いが導いた結果であった。長達は各々の欲が怒りに変わり、中央の9人へその矛先は向けられ、ついに戦争最後の幕が切って落とされた。

3億人対9人の戦いはグラード率いる9人が有利…否、圧倒的であった。9人がその力を振るえば地形ごと消される者、断裂される者、刻まれる者、潰される者、貫かれる者。そして、灰にされる者、見失う者、塵にされる者、堕とされる者。
この9人を前に3億人もの軍勢はいとも簡単にその数を半分まで削ったのだ。
そして何よりグラード達9人は一切呼吸の乱れがなく魔力もまだ半分以上残っていた。その状況に各種族の長達はこれ以上勝ち目がないことを悟り降伏しました。

これで7年続いた戦争、覇権戦争の最後の戦いは呆気なく幕が下りたのでした。

覇権戦争が終わり、戦争を終わらせた9人は後に英雄に、そして最強のこの9人を、〈九天聖座〉と呼ばれる様になったのです。

それからの世界というものは、各種族が互いに手を取り合い再建に尽力し、当然、争いなど起こすものは居らず、覇権戦争でいがみ合っていたのが嘘のように人々には笑顔が溢れ、国には活気が戻り、そしてこれから幸せな日々を送るのでした。


〜終わり〜


◇◆◇◆◇◆


これ絵本なのに長い…絵に力はいりすぎてるし。何この絵本?色々と、色々と物申したいぞ。しかしなぁ、ルミナとメリアはおとなしく聞いてたけど大丈夫だろうか。

「きゅうてんせいざ?かっこいい、すごい!」

うん!ルミナが目を輝かせてパチパチと拍手をする。ルミナが可愛い過ぎてお兄ちゃんの表情筋が崩壊してしまうよ。

「そうだねぇーかっこいいねぇすごかったねぇ♡」

ルミナが喜んでるならどうでもいいや♪。

「ノール様…この本、変」

ふふっ…よもや2度も君に助けられるとは…思考を復活、いや、元に戻そう。ん?同じことでは?それはさておき、この本は変か…分かる、分かるぞメリア。しかし変な箇所はいくつもある。なのであえて聞かせてもらおうとしようか。

「メリアは何処が変だと思ったんだ?」

「手を取り合って?というところと、争いを起こさないところ、人々には笑顔が溢れ国に活気が戻り幸せな日々を送るというところ…」

「うん、理由は?」

「このトルート・ドゥランティア家のお屋敷に来て、わかったことですが…このお屋敷の人達はおかしい、と思います。それは外を見ればわかると思います」

その意見はごもっともだ。

「続きを…」

「ん…、普通なら、他の人の手を取るってことは協力ですよね?私…私じゃない人達もそんな事はしない、ですから。弱い人間は強い人間に奪われる。これが現実です。だから、その強い人間に従う…殺されないために。」

つまり、弱肉強食。弱い者を守ろうなんてそんな無駄なことはしない。弱い者は弱い故に失うのだから。強者が欲するものを手にし、弱者は駒、道具に過ぎない。故に弱者は強者に従う。あるいは、自分が強いとその力を振りかざしたり、そんな感じの争いならよくある事だ。それが日常であり、常識だ。
だけど、俺の父様は違う。弱い者を守ろうとする。そのせいでこの家は変人扱いを受けるが、この絵本とどこか似ている。

「絵本みたいな世界ならいいなぁ…」

ルミナは俺が開きっぱなしの絵本の最後のページを見て言った言葉だ。
そして、

「お兄ちゃん!私こんな世界に住んでみたい!」

そう言ったのだ。
その時、俺とメリアは目を見開いてルミナを見ていた。


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