私の世界〜「部活の後輩と付き合ってみた」スピンオフ〜

きりんのつばさ

その罰









俺達は同じ高校に入った。
せっかく高校生になったし、翔子にもっとアタック
してみようと色々手を尽くしたのだが
……全部失敗した。
誕生日を祝ったり、色んな場所に連れていった。
だが全て空振りだった。
そして気がついたら1年生が終わっていた。
2年生になると例の事件が起きた。
クラスの中心人物である三浦亜紀が翔子を虐めると
脅してきた。
クラスの連中は知らないだろうが三浦という女子は
腹黒いでは表しきれない人物であり、こいつによって
転校した生徒は何人もいた。
なのでこいつは言ったら本当にやりかねなかった。
だから俺は三浦と付き合う事になった。
その事を告げた際の翔子の顔は未だに忘れられない。
俺は改めて酷い事を翔子にしているんだと思った。
そして俺が付き合っている間は三浦は本当に翔子には
何も手を出さなかった。
どんなに俺が犠牲になっても翔子さえ、俺の守りたい人が
無事ならそれで構わなかった。

しかしそれの思いはすぐに途切れる事になった。
三浦の陰謀によって俺は嵌められ
クラスで悪者扱いをされた。その後クラスどころか
学校中で同じ様な扱いをされてしまった。
そのため学校にいづらくなり転校する事になった。
転校していく中で一番心配だったのが翔子だった。
彼女は俺にやや依存気味であったため。俺がいなくなった
後できちんときちんと暮らして行けるか心配だった。
転校する日にちは最後まで告げなかった。
ただ翔子のお母さんだけには伝えた。
その時に
「ねぇ広樹君、翔子と最後に遊んでしてもらいたいの
あの子の為にお願い出来る?」
と言われ、俺は二つ返事で答えた。
そしてデート当日、いつもパーカーばかりだった翔子が
いつもと違う服装で目の前にきて俺は気の効いた
言葉をかける事ができずに
「今日は服装決まっているじゃん」
としか言えなかった。
「〜〜〜ッ!?」
何故か翔子は顔が真っ赤になっていた。


俺らが遊ぶのに選んだ場所は電車で1時間ぐらいの
場所にあるショッピングモールだった。
そこで俺らは
ーー話題の映画を見たり

ーーゲームセンターでプリクラを撮ったり
(なおこの時、俺は最後まで渋っていたのだが
珍しく翔子が自分の意見を譲らず
俺が諦めたのであった)

ーーフードコートで一緒に食べたり

ーーカフェでお茶したり

まるでカップルが行う様な事をしていた。
翔子は珍しく終始笑顔だった。
「うへへ……えへへ……」
「……」
ただ笑い方がやや不気味だった。
しかし楽しい時間はすぐに経ってしまうものである。
気がついたら帰る時間になっていた。
そしてホームで帰りの電車が来た。
何故か俺はその時翔子の手を握っていた。
「ひ、ひ、広樹 ︎電車……乗らないと……」
「……」
そしてそうしているうちに電車は行ってしまった。
「なぁ翔子」
「な、な、何かな?」
「もしさ……俺がどこかに行くとしたらさ……
翔子を誘ったら来るか?」
「い、い、いきなり……ど、ど、どうしたの?」
「心配すんな、もしもの話だ。とりあえず答えてくれ」
「う、うん……私は……付いて行くよ。
私は……広樹に……付いて行くよ」
俺は翔子にこの質問をした事を後悔した。
翔子に俺に未練を残してどうする。
「そうか……
すまん、今の質問は忘れてくれ」
「ねぇ広樹……何でこんな事聞いたの?」
「いや思いつきだ、さっ帰ろうか」
「広樹……?」
「あっ、あとさ翔子」
「ん?何かな?」
「翔子は何があっても変わらないでくれよ」
「え……?」
もし翔子が今回の事件の真相を知ったら何をするか
正直分からない。だけど翔子には出来ればそのままで
いて欲しかった。
だから俺はこの時にこのような言葉を言った。
そして帰る時に俺は前から渡そうとしていた
花の髪留めを渡した。
翔子の長い髪の毛に似合う様な髪留めを。
もらった瞬間、翔子が泣き始めて驚いた。
「……つけて」
「はい?」
「これ、つけて」
「あの……翔子さん?」
今日の翔子は随分自分の意見を通してくる。
「……つけて」
「はい……全く……」
また俺が折れて、翔子から受け取った髪留めを
彼女の長くて綺麗な髪につけた。
「……えへへ」
「ま、まぁ喜んでくれたならいいや」
その後、俺は翔子に明日から学校に行くという
嘘をつき別れた。
そして次の日の朝、俺は翔子の前からいなくなった。




「広樹!? 話さないで!! 私なら大丈夫だから!!
もう少しで救急車来るから大丈夫!! だから……」
目の前で翔子が泣いている。
(あぁ、そういえば俺はナイフで刺されたんだよな……
畜生油断した……)
刺された場所が真っ赤に熱せられた鉄が
当てられた様に熱い。
先程までナイフがあった場所を触ってみるとそこには
真っ赤な血が沢山付いていた。
翔子をみると髪は乱れているものも傷は無いようだ。
「そうか……良かった……良かった」
俺は一安心した。
あの時、俺がいなくなってしまった事によって翔子は
とても変わってしまった。
もしもだが俺があの時隣で一緒にいれば翔子はあのまま
変わらずに済んだのだろうと思う。
「あの時は何が何でもお前の近くに
いてやるべきだった……
いやいなければならなかった」
「そんなの今はどうでもいいよ!!
お願いだから喋らないで!!」
翔子は必死に叫ぶ、翔子ってこんな大きな声出せるんだと
この時に不謹慎だとは思うが思った。
「ねぇもう1人にしないでって!!
また1人になるのは耐えられないよ!!
嫌なの!! あんな思いをするのはもう嫌!!」
やっぱり俺の判断は間違っていたのだろう。
何故なら俺の大好きな翔子に寂しい思いをさせて
しまったのだから。
(その罰が当たったのか……まぁ俺には
そんな罰がお似合いなんだろうな……)
だんだんと意識が遠のいていくのが分かる。
徐々に翔子の顔が霞んできた。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
お願いだからそんなお別れみたいな言葉言わないで!!」
薄れゆく意識の中で俺は最後に翔子に呼びかけた。
「なぁ……翔子……」
「嫌だ聞きたくない!!」
「俺の幼馴染でいてくれてありがとう……
そして……大好きだ……」
ただの自己満足だろうと思うが、最後にこれだけは言って
起きたかった。

ーー俺が翔子の事を大好きだって事を

「ねぇ広樹……? ねえって……?ねえってば!!
嫌……嫌……嫌ぁぁぁぁぁーー!!」
そこで俺の意識は途切れた。





次回で広樹視点はおしまいです。



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