私の世界〜「部活の後輩と付き合ってみた」スピンオフ〜

きりんのつばさ

とても苦手だ


今回は国木田視点です。








僕らはとりあえず僕が泊まっている
ホテルに向かった。
「……」
道中、樋口さんは一言も喋らなかった。
(そりゃそうだよな……好きな人に会ったのは
いいけど、あんな風に言われたら普通凹むよな。
……しかも樋口さんにとっては何よりも大切な人
なんだから当たり前か)
「あ、あの樋口さん……?」
「……何?」
「怪我は無い……?」
結局、僕はこれぐらいしか聞けない。
もっと心配する事があるはずなのだろうけど
僕は気の利いた発言はとても苦手だ。
「私は大丈夫……国木田の方は?」
「僕は薬とか湿布しとけば大丈夫、かな?」
まぁ、最後の蹴りが予想以上にダメージが大きくて
今も痛いのだが、秘密にしておこう。
(地元に帰ったら真っ先に病院行こう)
そう決心した僕だった。
「ごめんね、国木田」
「えっ、何が?」
「今回、こんな事に巻き込んじゃって……」
「いやいや、いいって!? 僕は自分の意思で
ここに来たんだから自己責任だよ」
「でも……断りにくい状況作っちゃったから……」
「だから大丈夫だって!! ほら僕、今回一銭も
お金使ってないからさ」
そうだ。
今回宿代から交通費に至るまで
全て樋口さんが出している。
……僕は一銭も出していない。
いや、2回は断ったからね?
だけど樋口さんの口車に乗せられてさ?
ここまできたのさ……
「ごめん、国木田」
とさっきからずっとこんな感じだ。
いつもは1を言えば、10以上でからかってくる彼女が
ここまでしおらしくなると僕も対応に困る。
(あ〜、なんか調子狂うな……)
「とりあえず明日の昼頃には都内に戻ろうよ?
お互い大学とかあるだろうし、ね?」
「しばらく家から出たくない……」
「いやいや家に戻らないと……
ってそう言えばここ君の地元だった……」
僕らって樋口さんの地元での同窓会に来ていたんだ。
樋口さんの実家ってここやん……
「だから国木田は1人で帰って、私はしばらく
引きこもっていたい……もう嫌だ」
「彼、広樹君だっけ?
多分彼にも色々と事情があって言ったんだと思うよ?」……
どうも僕には彼がさっき樋口さんに言った言葉が
本心なのかが疑問に感じた。
「いいよ、私はとろいし……すぐに泣くし
人見知りだった頃と何も変わってないし……
広樹は前からそう思っていたんだよ。
だから私は置いていかれたんだ……」
と言うと樋口さんは泣き始めた。
「樋口さん……」
「ごめんなさい……こんな私でごめんなさい……!!
また1人になっちゃう……!!」
「……」
「う、う、う……広樹に嫌われたくないよ……
そんなのやだぁ……それじゃあ私……」
「……」
「うわぁーー!! 広樹ーー!!」



僕は黙ってホテルの部屋を出た。
泣いているところを人には
見られたくないと思ったからだ。
「とりあえず今は好きなだけ泣いてくれ……
あとでいくらでもバカにしてくれても構わないから」
樋口さんにあんな悲しい顔は似合わない。
彼女は終始、人をからかっている方が似合っている。
「僕は同期なのに何も出来ないなんて……
自分の無力さには呆れるよ、全く」

ーー目の前で同期が泣いているのに

ーー何もしてあげられない

ーー手を差し伸べる事が出来ない


「いくらで泣いてくれ……
そして泣き止んだらいつも通りの日常を迎えれるからさ」
せめて彼女が泣き止んだ後に、いつも通りの日常を
迎えてやれるぐらいは僕にもできると思う。
「それぐらいはしなきゃね」
僕は心の中で決心した。

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