ノンフィクション作品です(タイトル未定)

戌丸愁吉

【1】見知らぬ景色

目が覚めると、そこには見知らぬ天井が広がっていた。仰向けに寝転んだ状態から見える業務用と思われる空調設備が天井に埋め込まれており、丸いスピーカーも見える。なにかを引っ掛けるためなのか、使用意図のわからない丸い形状をしたフックがトライアングル状に同じく天井に埋め込まれている。もう少し見渡してみると、左右にはダスティピンクのカーテンがかかっており、右側には洗面所、左側にはパソコン台のようなものにテレビが固定されていた。視線を下の方にずらしていくと、ピンク色の布団がかけられており、一瞬ベビーベッドなのかとも思ったが、どうやら落下防止用の柵が備え付けられたベッドのようだ。足元の先にある壁にはカレンダーがかかっていて、3月を示している。

ここはどこだ。おれはこんなところでなにをしているんだ。思い出そうとすると強い吐き気に襲われ、全身に痛みが走る。

よく見ると首の動脈部分には管がつながり、腕には点滴針が刺さっている。陰部に違和感を覚えたので、廃墟を覗く少年のように、静かに、こっそりと布団を持ち上げ下半身を覗くと、陰茎にも管が繋がっていることが確認出来た。
ああそうか。少しずつ現実に引き戻されていき、まだまだ正常運転とは言えない自らの脳がショート寸前まで思考を巡らせた結果が出た。

「ここが死後の世界か」

さらに周囲を確認していると、どうやら近くで誰かが会話をしているのが見えた。女性と男性だ。完全には戻っていない意識を少しずつ覚醒させていき、もう少しその両者に焦点を合わせていくと、片方は母だった。もう片方の男性は誰だろう。上下ともに暗めの紺色1色なその人を見ていると、ふとこちらに気付いた紺色が話しかけてきた。

「起きたかな。きみの名前はわかるかい」

未だ朦朧とする意識に鞭を打ち、静かに声を出す。

「イヌマルシュウキチです」
「それじゃあ生年月日はわかるかい」
「19??年1月29日です」
「ここはどこだかわかるかい」
「……わかりません」
「今日が何日かわかるかい」
「……わかりません」

簡単な問答を続け、問い掛けばかり行ってくる紺色の隣でこちらに視線を送ってくる母に向け、今度はこちらから問い掛けてみた。

「お母さん。おれは死んだの?」
「……生きてるよ」

いまにも泣き出しそうな母の表情を目にしておれはやっとなにかを悟り、ゆっくりと目を閉じ、少しずつ過去のことを思い出し始めた。

どうやらおれは失敗してしまったようだ。この事実がまず浮かび、それから懐かしい出来事がたくさん浮かんでくる。そういえばあの日の夜はなぜかタクシーで帰れたな。あそこでおれはおれに誓ったんだ。

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