始祖の竜神と平凡の僕。

深谷シロ

I.僕は竜神と出会う

太古の昔。人々が誕生する前の話。この世界には竜がいたそうだ。今となっては人間が支配する世の中となってはいるが、当時は竜が世界を支配していた。


竜と言うと凶暴で凶悪なイメージ。それが第一印象かもしれない。だけど史実は違う。竜は知能が高く、真の平和を築いていた。


さてそんな太古の昔と今。何故このような話をしたのか。僕の前にはある一人いったいの竜がいるからだ。


「えーっと……。君は?」


「ずっと言ってる。私は竜神・・。太古の昔から世界を統べる存在。」


正直、傍から見ると危ない人だった。別に外見がという訳では無い。先程からも分かる通り発言が、だ。この手前にいる二十歳前ほどの女性は自らを竜神と名乗っている。


この世界において竜神は崇め奉られる唯一神であり、その名を汚す行為は不敬罪に値して打ち首からの晒し首となる。最大の辱めを受けた後、骨は遺族に届けられることは無い。それほど危険な事を目の前の女性はしている。


「……一旦、落ち着け僕。」


「……頭大丈夫?」


「あんたがだよ!!!」


やりきれない気持ちでいっぱいだった。どうすればこの女性におかえり願えるだろうか。ここは宿である。あまり大きな声は挙げられない。僕が不審者扱いだ。僕が止まっている宿なのに。目の前の女性が侵入者なのに。……はぁ。


「どうかしましたか?」


「あ、いえ!何でもないです!」


案の定、宿屋の女将さんが来た。危なかった。今日は最低な日だな。はぁ。


「取り敢えずどうして僕の部屋に来たのか教えてくれる?」


「分かった。あなたを探してた。場所聞いた。入った。」


「どうやって宿屋の人にバレずに入れたの?」


「こうやった。」


竜神と名乗る女性は椅子に座っていたが立ち上がった。そして手を翳すと女性の目の前の空間に人一人が通れる広さの穴が空いた。……亜空間。偉大な魔法使いしか使えないとされる亜空間魔法。超難関な魔法だ。僕も初めて見た。ということは……本当に竜神なのか?……いやいや、嘘だろう。こんな危ない人が竜神であってたまるものか。僕は知らず知らずの内に冷や汗をかいていた。


「僕は………………逃げる!!」


僕は男として恥ずかしい。どうしてこんな選択を僕がしなければならないのか。普通ならばあちらさんがお帰りになる場面な筈なのに。僕、何も悪くないよね?


宿から飛び出た僕は一目散に街の外を目指した。僕が泊まっている宿屋は田舎の小さな街にある。静かな暮らしを求めた各地の仙人や大魔法使いが余生を楽しむ。そんな街だ。僕はこの街で生まれた訳では無いが、これと似たような街出身である。


こんな剣と魔法な世界だが、僕は剣術が優れている訳では無い。勿論、魔術が優れている訳でも無い。では他が優れているのか?そんな筈も無い。平凡な一般市民だ。竜神とか何とか、そんな事態に一般市民を巻き込まないで欲しいものだ。


街から出た僕は森に入った。時間帯は正午過ぎではあるが、森の中は薄暗い。当然の事ではあるが、魔物も出現する。僕は夢中のあまりにそれを懸念する事を忘れていた。だからこそ今、ピンチである。


前方には悪狼イビルウルフ。背後にはウッドゴーレム。右には月熊ムーンベアー。左には牙鼠ファングマウスがいた。どれも群れを成している。


この森には普段これほどの魔物は出現しない筈だ。どれもD級指定の僕の力では手に負えない魔物だ。この中で一番弱い牙鼠ファングマウスでさえも二十体以上いる。これは〈魔物騒動モンスターフェスタ〉である。魔物の大量出現の事を指す用語の事。僕ほどの実力であれば、100パーセント・・・・・・死ぬ。


だからと言って……だからと言ってここで諦めるのはとても愚かしい。最大限抵抗するのがこの世界のルールだ。僕がそれを遵守する必要も無いが、ここではそれに乗っからせてもらうとしよう。


「【砕け散れ、爆散せよ】……【エクスプロージョン】ッ!!」


火魔法が一つ【爆散】の魔法。僕は最も弱い牙鼠ファングマウスの群れに対して魔法を発動した。広範囲の魔方陣が展開して、魔方陣の上にいた牙鼠ファングマウスが全て詠唱通りに爆散した。だが殲滅出来た訳では無い。後方に待機していた残りが一斉に襲ってきた。同時に他の魔物達も我先に、と襲ってきた。慌てて僕は結界魔法が一つ【防御】の魔法を発動する。


「【固く守れ、守護せよ】、【プロテクション】!!」


次は僕の下に魔方陣が展開。僕を取り囲むように光の防御の結界が張られた。これである程度の攻撃は防ぐ事が出来る。二つの上級魔法を発動したことで僕の魔力が残り僅かとなってしまった。次で決める。


「【焼き尽くせ、地獄の業火で、焼失せよ】……【インフェルノ】!!」


火魔法が一つ【業火】の魔法。先程までの上級魔法よりも高難度な魔法である至高魔法を発動した。視界に入る全ての魔物を焼き尽くしたようだ。これで大丈夫かな……。大分意識が遠のいてきた。魔力切れなようだ。そろそろ休も────え?


視界に入る全ての魔物を倒したが、視界外の魔物がまだいたのだった。繁殖期が重なることで発生する魔物騒動モンスターフェスタだが、今回のそれは異常なようだ。僕の【守護】もそろそろ魔力切れで解除されそうなのに……。僕は歯を食いしばった。ここで死ぬ訳にはいかない。そう易々と死んでたまるか。


「すー。はー。」


僕は一度深呼吸をする。そして両頬を叩き、気合を入れ直す。


「よし、いくぞ。……【響き渡れ、死の四重奏で、命を散らせ】────」


そのまま意識が遠のいた。不可抗力だった。何故か猛烈な眠気が襲ってきたのだった。当然、魔力切れも近付いてはいたが、それは我慢すればギリギリ大丈夫であった。謎の眠気が僕の意識を刈り取ったのであった。


倒れた青年の前に一人の女性が立つ。そして奏でる。〈起源の魔法オリジンマジック〉である竜が使いし魔法……竜魔法を。


「……【変革せよ】【ワールドカスタマイズ】。」


竜神は世界を変える力を持っていた。

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