村人が世界最強だと嫌われるらしい

夏夜弘

希望 2

 レデモンを目指す烈毅達は、平和そのものと言ってもいいほどに静かな道を歩いき、約三十分が経った。モンスターがいない新鮮さに、ナーシェら初めて来た者らは、そわそわと落ち着きがなかった。

「そんなに周りを見渡しても、モンスター一匹いやしないわよ?」

「そ、それは分かってるけどさ……やっぱ癖で警戒してあるいちゃうのよ」

「私もです……」

「レーナまで……あんた達、ちょっとは気を抜くって事も覚えなさい? ほら、ルノを見なさい? スキップしながら鼻歌歌ってるのよ?」

「は、鼻歌? あれは歌なの? さっきからなんか耳障りな音が聞こえたと思ってたんだけど、まさかあれじゃないわよね?」

 音程はまるで合っておらず、歌とはお世辞にも言えない程酷い雑音を発するルノは、迷惑を掛けているとは思わず何も知らないかのように鼻歌を続ける。

「ミーシュ、あんたあれ止めてきてよ。私そろそろ限界」

「え、嫌よ。あんな気持ちよさそうにしてるのに、それを止めるなんて私には出来ない」

「ならレーナ、あんた行きなさい」

「わ、私も歌は下手だから人のこと注意できない……です……」

「はぁ……じゃあもう私が行くわ。ちょっとルノ〜? 鼻歌止めてくれない?」

「え? 私、鼻歌なんてして無いわよ?」

「はぁ? じゃ誰が……」

『すまん……我だ。少々うるさかったか?』

「「「あんたかよ!!!」」」

「お前ら元気だな……楽しそうで何よりだけど。……っと、ほら、もう見えてきたから気を引き締めろ〜」

 烈毅のその言葉に、一同は前に見えてきたとてつもなく広いレデモンを見て、驚愕の表情になる。最初は、烈毅とミーシュもこんな顔をしたものだ。

 門に近づいていくと、そこに二人の門兵が立っており、鋭い目付きでこちらを見てくる。最初は少し構えた体勢だったが、烈毅とミーシュの顔を見た途端背筋を伸ばし、深く一礼した。

「お久しぶりでございます! 良くぞ来てくれました! ささ、どうぞお通り下さい!」

「ああ、ありがとう」

 門はその二人によってゆっくりと開かれる。なんの躊躇いもなく進む烈毅とミーシュの後を追い、ナーシェ達も入って行く。そして、目の前に広がる未知の存在や建造物を見て、思わず「うわぁ……すごい」と声を漏らす。

「凄いだろ、この町。俺のお気に入りなんだ」

「お気に入り?」

「ああ。凄い綺麗で、人が良くてな」

「ね、ねぇ烈毅。なんであの人達は耳と尻尾が生えてるの!? って言うか人なの!?」

「あ、そうか。お前らは初めて見るのか。あれは妖狐って言ってな、あの尻尾で強さが分かるんだよ。そして何より柔らかい」

「や、柔らかい?」

 そう言った烈毅の顔を見たナーシェは、疑問の表情を浮かべる。烈毅の今のバッドステータスを知っている彼女は、まさか烈毅からそんな言葉が出るとは思っていない。もう少し殺伐とした感じで行くのかと、てっきり思っていた。

『烈毅、まさか今楽しんでいるのか?』

「ん? そうだけど、それがどした?」

 ファイアも同じ事を思っていたのか、その答えにファイアも同じく驚いた顔をしていた。その顔を見て、烈毅自身もそれに気づく。

「あれ? 俺、なんか前より理性が戻ってる?」

『やはりそうか! だが何故だ?』

「分からない。ただ、ここに来た時から少し考えが和らいでいたと言うか……」

『うむ……この世界の性質なのか?』

「よく分からん。それより、今はキュウ達の元へ行かないとならんから、先を急ごう」

『そうだな。それで、そのキュウとやらがいるのは何処なのだ?』

「ここから何日かかかる距離の場所にある。だから走って行かないと……」

「ひぃっ! ま、まさかまたあれを……」

「どしたの? ミーシュ」

「いや、今烈毅が走って行かないとって……」

「いや、それは聞いてたけどそれがどうしたの? ただ走るだけでしょ?」

「ナーシェは知らないだけよ……烈毅の乱暴さと恐ろしさを……」

「乱暴? 恐ろしさ? はっ、そんな、鬼でもあるまいし、ただちょっと本気で走るだけでしょー?」

 そう言って、ナーシェは烈毅の元へ近寄っていき、どう走るのかを聞きに行く。その背中姿を見て、ミーシュは、サムズアップし、「ナーシェに幸運あれ」と叫ぶ。

 そして五分後―

「いやぁぁぁぁぁあ!!! おろしてぇぇぇえ!」

「やっぱり私も担がれるのね……カクッ(魂が抜け落ちた)」

「ば、バカナーシェ! 暴れるな! 落としちまうかもしれんだろ!? ミーシュを見ろ! 凄い大人しいだろ!?」

「それは魂が抜けてるからよぉぉぉぉぉお!! カクッ(魂が抜け落ちた)」

「あっ、なんか落ち着いた。それなら良し」

 残りのクルル、ファイア、レーナ、ルノは、クルルがルノを、ファイアがレーナをお姫様抱っこして移動した。

 それから、休憩を多く取りながら進んだため、前よりも時間が掛かったが、いよいよ宮殿付近にたどり着く。

「おーい、二人とも。着いたぞー」

「「…………」」

「反応がない……ただの屍のようだ」

「「生きてるわ!」」

「おお、生きてた」

 それから、二人は二度と烈毅には担がれないと心に決めた。

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