村人が世界最強だと嫌われるらしい

夏夜弘

好きだからこそ 1

 その後、クルルとミーシュ達の仲を深めてもらうべく、一緒に特訓をしてもらう事にした。烈毅は、一人自室に篭もり、この後の行動をどうするかを決めかねていた。

「リバースワールドに行けって言ってたけど……今はそれどころじゃないんだよな〜」

 復讐の為、今は他の事などどうでもいいと思ってしまっている烈毅は、あの夢の中であった人物の言っていたことは後回しになっていた。

 王達を殺そうにも、実力が完全に負けていると分かってしまっている今、迂闊に手も出せない。ならどうするか。その答えを見つけられないまま、気付けば小一時間経っていた。

 トントン。

 優しくノックの音が鳴る。

「れ、烈毅? ちょっといい?」

 その声は昔から聞き慣れている、優しい声だった。

「ルノか、入ってもいいよ」

「うん。じゃ、じゃあお邪魔します……」

 よそよそしく入ってきたルノは、何処か怯えた感じだった。それもそのはず、烈毅は復讐のことばかりを考えすぎたあまり、殺気が漏れ出ていることに気がついていなかったからだ。

「あ、ああ、ごめんな、もう大丈夫だから」

 殺気は収まった。が、顔がそうではなかった。ルノは、「本当に大丈夫なの……」と言いたいところを、ぐっと堪え、喉元まででかかったその言葉を飲み込む。

「それで、どうした? 何かあったのか?」

「いや、あのね……」

 ドアを優しく閉め、烈毅がそう問うと、ルノはモジモジしながら一向に話そうとはしなかった。否、出来なかった。

 今の烈毅には、ルノがモジモジしたまま何も喋ろうとしないことに、苛立ちを募らせてしまっていた。貧乏揺すりが次第に激しくなるが、そこでルノは意を決したかの様な顔をし、口を開いた。

「あのね、烈毅。わ、私ね、ほんの少しだけだけど、モンスターと戦えるようになったの!」

 嘘をついてしまった。違う、本当はそんな事を言いたいんじゃない。昔の烈毅に戻って欲しい。それを伝えに来たのに。

「へぇ、それは良いことだね。それだけ?」

「そ、それだけだけど……」

「そうか。じゃあ、完全に戦えるようになったらまた教えて。頑張れ」

 そう言った烈毅の顔は、本心を言っていない、適当にあしらう感じの様子で、ルノに『頑張れ』と言った。

「うん、頑張る……」

 下を向き、ルノはそのままドアから出ていってしまった。

 下を向きながら出て来たルノに、外で待っていた一同は沈黙の表情を向け、心配そうに駆け寄る。すると、何か口元が動き出し、拳をギュッと握る。

「……めた」

「え、何?」

「決めた」

「何を?」

「みんな、今すぐ私の部屋へ集合よ」

「わ、わかったけど」

 そして、言われたとおり皆はルノの部屋へ集まると、ルノは腕を組みながら、淡々と喋り出した。

「みんなは、今の烈毅の事をどう思いますか?」

「そ、それは……」

「多分、みんな同じ事を思っていると思います。なので」

「なので?」

「なので、みんなで烈毅の目を覚まさせ、昔の烈毅に戻って貰えるように頑張ろうの会を結成します!」

「そのままね……」

『そのままだな……』

「い、いいんですよ! 取り敢えず、今の烈毅と私は一緒に居たくありません! はっきり言って!」

 突然大声を出して喋り出したルノに、一同は驚きのあまり、何も言えず、ただルノの話を聞くだけになってしまった。

「私は、この中で烈毅との付き合いが一番長いです。それ故に、過去の烈毅がどんな人物で、どんな性格かを一番よく知っています。そして愛しています!」

「「「「『!?』」」」」

 突然愛してます宣言に、ぼーっと聞いていただけだった一同は、目が飛び出すんじゃないかってくらいに目を見開き、ルノを見つめる。

「好きだからこそ、今の烈毅でいて欲しくない! 好きだからこそ、邪魔かもしれないけど何とかしてあげたい! みんなはそう思いませんか!?」

『わ、我はそのような感情とは無縁だからな……なんとも言えんが、確かに今の烈毅のままは少々気が滅入るな』

「わ、私は別にいい好きじゃないけど? まぁ、でも? 私の師匠とも繋がりがあったみたいだし? 私としても? このまま強くなれないのはいやだし?」

「レーナ、あんた言葉ではそう言ってるけど、顔に『私は烈毅が大好きです』って書いてあるわよ……」

「かか、書いてない!」

「私も賛成」

「おお、人村烈毅という人物は、実はこんなにも愛されるくらいに良い奴なのだな……見直した」

 皆の意見が一致し、その場に先程までのくらいに雰囲気はもうなく、寧ろやる気に満ち溢れて熱いくらいに燃えている。

「よし、みんなの意見が揃った! じゃあ早速始めるわよー!」

「「「おー!」」」『うむ』「お、おー?」

 皆が団結し、ルノの部屋で賑やかな話し声が飛び交う中。

「…………」

 笑い声一つしない烈毅の周りは、とても寂しく、そして、冷たかった。

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