村人が世界最強だと嫌われるらしい

夏夜弘

妖狐の国に来ちゃいました 4

「さて、こいつをいつまでもここに居させる訳にも行かないから、さっさと『裏の世界』に行っちまうか」

 それから三人は、キュウの案内道理に進んで行った。途中でモンスターに襲われたりしたが、大した危険度でもないため、ミーシュが簡単に駆除してくれた。

 崖際までたどり着いた三人は、少し急といえる程度の崖を降っていき、波が当たりそうなくらい近くに降り、そこで一旦止まる。

「ここからは海を潜る必要があるから、ミーシュ殿の力を借りるぞ?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうなのじゃ!」

 烈毅の肩に乗っていたキュウは、ミーシュの肩へと飛び移り、がっしりと肩に両手でしがみつく。すると、キュウの手が青く光だし、ミーシュからキュウへと魔力が伝わっていく筋が、白い線となって現れる。ミーシュは、平気そうな顔をしているが、額から垂れる汗が、その大変さを物語っていた。

「このまま魔法を発動させるのじゃ。……"空間制御"」

 それが魔法の名前。海の中からここまで来る時に使った魔法だ。周りの空気を使用した量に応じて大きさを変化でき、その空気が無くなるまでその空間は無くならないというものだ。
 キュウを中心に、一辺三メートル程の正方形が形成される。

「この中にいれば安心じゃ。空気が無くなったらこの空間は無くなるが、多く取り込んでいるから問題ない!」

「これはこのまま進めばいいのかしら?」

「そうじゃ。海の中でも自由に歩けるから問題ない! この操作は慣れているからな!」

「へぇ。今度教えてもらおうかしら?」

「無理じゃな。童女には教える力が無いからな!」

「それドヤ顔で言うことじゃないだろ」

 そんなこんなで海へと入っていった三人は、段々と海の底へと近づいていき、それと同時に辺りは暗くなって行く。

「灯りが欲しいわね」

「ああ、それなら俺が持ってるから安心しろ」

「持ってるって、烈毅バック持ってないでしょ? それなのにどこに持ってるの?」

「ああ、見せるの初めてだっけ?」

 そう言って、烈毅は"異次元アイテムボックス"を使う。烈毅の目の前に不自然な形の黒い靄が出現し、烈毅はその中に手を突っ込み、ランタンを取り出す。

「何それすごい」

「これ俺のユニークスキルでさ、なんでも好きなアイテムを入れておく事が出来るんだよ。まぁこれは緊急時以外あまり使わないけど」

「へぇ~。便利ね」

「それなら、童女の母上も似たような事を出来るぞ?」

「え、まじで?」

「まじじゃよ。けれど、母上のには制限があるのじゃ。確か、持てるのは五つまでだった気がしたのぉ」

「ほほぉ……お前の母さんが気になってきた」

「童女を送ったら帰るのじゃろ?」

「予定変更。挨拶してから帰る」

「適当なやつじゃのお主は」

「それが俺だから」

「はぁ……ただの馬鹿ね」

 そんな事を話しながらも、キュウの案内に従いながら海の中を進んで行く。もう既に、辺りに灯りなど無く、ランタンが無ければ方向感覚を失うほどの暗さになっている。

「もうすぐで『門』が見えてくるのじゃ。そこを潜れば童女のいた国じゃ」

「もうすぐか…………あ」
 そこまで来て、烈毅はある事に気づく。

「どうしたの?」

「…………ここまで来たのはいいよ? 来たのは。…………帰りを考えてなかった」

「ほんと見損なった。もう二度とあんたと出かけないわ」

「安心せい。童女がもう一度送ってやるわい」

「ほんと頼りになるわキュウちゃん! 烈毅は死ね!」

「ミーシュちゃん? 貴方怖い顔してるよ? それに、可愛い女の子が死ねなんてはしたない言葉、あまり言うもんじゃないよ?」

「死ね!」

「俺泣きそう」

 そして、それから数分後、先程キュウが言った門が薄らと見えてくる。大きさは二メートルくらいとあまり高くは無いが、どこか異様な気配を漂わせ、思わず烈毅とミーシュはごくりと唾を飲む。

「なに緊張しておる。ただ潜るだけじゃ、もっと気を楽にしろぉ」

「わかってる。わかってるんだけど緊張する」

 段々と門が近付いていく。
 残り十歩…………六歩…………三歩、二歩、一歩。そこで一度立ち止まり、烈毅とミーシュは大きく深呼吸をする。

 灯りを持っているというのに、門の向こうは黒い霧が掛かっていて何も見えない。

「さて、行くぞ」

「うん」

 そして、烈毅とミーシュは、同時に門へと足を入れる。それからは半ば勢いでぐいっと前へ進み、その時に思わず目を閉じてしまう。

 何歩か歩いた後、先程まだ暗かった瞼の裏が、突然明るくなる。ゆっくりと目を開けて、二人の視界に入ってきたものは、表の世界とは全く異なった景色がそこにはあった。

「ここが裏の世界、通称リバースワールドじゃ!」

「リバースワールド……」

 空は夕焼けの色をしており、辺りは何も無い草原。空気は澄んでおり、風は心地よい。後ろを振り返れば、烈毅とミーシュが通ってきた門がある。もう一度振り返り、目の前には続くただ一本。

「ここの一本道を行けば、童女が住んでいる妖狐の国、レデモンじゃ。行くぞご主人とミーシュ殿」

 キュウがミーシュの肩から降りると、スタスタとその一本道を一人で先に行ってしまう。それに追いつこうと、二人はキュウの小さな背中を追いかけるのであった。

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