村人が世界最強だと嫌われるらしい

夏夜弘

抜けられずの島 2

 それから数時間もファイアを待った。退屈しのぎに、烈毅はレーナ達の組手相手になり、特訓をしたり、戦い方についていろいろ指導したりをしていた。だが、何時になってもファイアが現れることは無かった。

「ねぇ、烈毅……私トイレしたい」

「トイレだぁ? そんなもん適当に海に……」

「嫌よ! それだけは私のプライドが許さないわ!」

「もうお前はゲロインとして名が通ってるんだから、今更小便漏らしくらいでどうってことはないだろ」

「殺すっ!」

「やれるもんならやってみろ! お前の膀胱つついてやることなんて容易いんだからな!?」

「やめて! ……わかった、頼むから何とかして簡易トイレ作って!」

「それならいいだろう。じゃ、速攻で作ってやるから待っとけ!」

 そう言い、烈毅はものの数秒で、その場にあった砂のみで簡易トイレを作る。烈毅にかかればこれくらいはお手の物だ。

 それから、用を済ましたナーシェは、スッキリした顔で簡易トイレから出てくる。

「それにしても、ファイアさん遅いね」

「そうだなぁ。ちょっと連絡取ってみるか」

 そう言い、烈毅はファイアに念話をかける。

 そして、接続した感覚をキャッチした烈毅は、ファイアに話しかける。すると、慌てた感じでファイアが返答する。

「ファイア、お前今何処にいる?」

『おお、やっと念話を使ったか! まずいぞ烈毅、そこは非常にまずい!』

「どうした、そんなに慌てて?」

『そこは、一度入ったら抜け出すことは不可能な島、抜けられずの島なのだ!』

「それは本当か?」

『ああ、我はすぐに気づけたんだが、島に戻ろうとしたらもうそこには島はなかった!』

「どうやって気づいた?」

『お主らを下ろした後、我は来た方向に飛んでいったのだ。それでから、ある程度上空まで来て、お主らに何が食いたいかを聞きに戻ろうとしたら、もうそこには島は無かったのだ!』

「結果か何かか? それなら、なんとか壊せるけど」

『違う! これはこの島の特性だ! 魔法など甘っちょろいものなんかじゃないぞ!』

「まじか……それで、お前は何をしてる?」

『我も結界かと思って近づいてみたが無かった。実体がないのだ、その島だけ。くっきり消えているんだ!』

「そうか……」

『もうかれこれ六時間だ。問題は無いか? 大体のアイテムは烈毅が持ってるから良いものの、食糧が無ければ元も子も無いぞ?』

「大丈夫……待て、六時間? って事は、太陽はどの位置にある!?」

『太陽? そんなの、もう西の方向にあるに決まってるだろ?』

「嘘だろ……」

『そっちは何か違うのか?』

「……真上にある」

 その事に、ファイアは驚きのあまり喋ることを辞め、烈毅も同様に、何も考えられなくなる。

 それを確認した直後、突然念話の接続が悪くなる。

『とりあ…………みる。お主は…………で……を…………れ』

「あ? なんて言った?」

『…………』

 その問に返答はなく、念話は強制的に解除される。そして、烈毅は再び太陽の位置を確認するために真上を向く。

 その行動に、レーナは疑問に思い、烈毅に訊く。

「何太陽を見てるの?」

「お前らおかしいと思わない? 俺らここに来てから何時間も経ってるのに、太陽の位置が変わってないことが」

「そんな馬鹿な事あるわけないでしょ?」

「それが今回ばかりはあるんだよ。それに、ここにはファイアが戻ってくることが出来ない。つまり、俺らはこの場から動けないんだ」

「それ、本当なの?」

「ああ、本当だ。だから、何とか自力で脱出手段を探すしかない」

「でも、ジャングルに入っても向こうには行けない。海を泳ごうにも、広すぎて絶対途中でバテる。食糧も無い。テントもない。どうするの?」

「テントはなんとかなる。だけど、確かに食糧が無いのはきつい」

「どうすれば……」

 それを端で聞いていたルノとナーシェとミーシュは、下を向いて気持ちを落としてしまう。完全に動けない。無闇矢鱈に動いても体力を消耗するだけ。日差しがやけに暑い。もう、為す術がない。

「もう、俺らに残された手段は無い。だから、とりあえず今は落ち着くために、拠点を作るか」

「だけど、テントなんて……」

「これはお前らには初めて見せるかな。スキル、"異次元アイテムボックス"」

 そうして、突然現れた黒いゲートに手を入れようとしたその時、突然海から急速に近づいてくる反応を感じ取り、烈毅はすぐにルノ達を背中に庇う形になって戦闘態勢になる。

「ど、どうしたの烈毅?」

「海から物凄い勢いで何か来る! 戦闘態勢になれ!」

 その言葉通り、レーナ、ナーシェ、ミーシュは戦闘態勢に入る。ルノは、烈毅の背中に並び、辺りを警戒する。

 そして、その急速に接近してきたものが、姿を表す。

 高い水飛沫を上げ、高く上空まで跳ね上がったその生物は、綺麗な放物線を描いて砂浜に着地する。

「こんにちは、冒険者の諸君始めましてぇ」

 黒いハットに黒いタキシード。青い目に高く少し尖った鼻、目は鋭く肌が少し黒く焦げている。長身のその男は、海中から来たというのに、一滴の水も付着してはいない。
 そして、右手でハットを取り、左手に持った一メートくらいの杖を付き、深々と丁寧なお辞儀をする。

「お前は何者だ?」

「私は、貴方達をここに閉じ込めた張本人でございますよぉ?」

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