天下界の無信仰者(イレギュラー)
君のおかげだ
神託物が二回も破壊され致命的なまでに弱体化しているエノクとは対照に神愛は最大限にまで力を発揮していた。全身から発せられる黄金のオーラ。この戦いに全力を込めろと魂の追憶がささやく。
エノクを倒すため。恵瑠を守るため。それらの思いに突き動かされて、約束の時間に突き進む。
黄金が、輝いた。
「行け、神愛!」
加豪が声援を送る。
エノクはまだ体勢を整えられていない。やるなら今だ。
「エノク様!」
まずいと思ったのかヤコブも慌てて声をかける。
これで、決める。
「これで終わりだ、エノク!」
地面を蹴りエノクに向かって跳んだ。踏み込んだ力で地面が砕け体が弾丸のように突進する。
この一撃で決まる。エノクは前に傾いていた体を起こしたばかり。そこに最大の一撃を放つ。
黄金に包まれた拳を振りかぶり、勢いと共に打ち出した。
エノクは立ち上がり、剣を構えてすらいなかった。戦闘中だというのにその姿勢は棒立ちで戦意すら消えている。表情は達観したように静かで、神愛の攻撃を見据えていた。
その顔は、穏やかですらあった。
黄金の拳がエノクに迫る。
それを、エノクは片手で掴んた。
「なに!?」
衝撃の余波が背後に駆け抜けていく。地面は大きくへこみ破片が飛び散った。
エノクは、びくともしていなかった。
神愛の拳を受け止めている。衝撃に地面がえぐれ、陥没し、空気が渦を巻いても、微動だにしていない。
驚愕した。今まで押し負かしていた相手が、突如攻撃を受けても無傷で立っているのだ。互いの力の差は一瞬で逆転し、エノクは威厳を取り戻す。
この一瞬で、エノクの神化は別物になっていた。一つの考えに気づく、それだけのことで。
神愛はなにがどうなっているのか訳が分からず、唖然と打ち出した拳を見つめていた。
「君のおかげだ」
「なに?」
声をかけられた。視線を少し動かしエノクの顔を見る。
エノクは、静かな表情で神愛を見つめていた。戦意もない。怒りも、焦りも。戦闘の中にあって心境は無風。
その姿勢はあらゆるものを超越しているようだ。
本当に、神様のようだった。
「忘れていたものを思い出したよ。礼を言おう」
そう言いながら掴んでいる手とは反対の腕が持ち上がっていく。神愛は逃れようとも思わなかった。これはだめだ、逃げられない。さっきまでとはぜんぜん違う。
「……ち。それじゃあ仕方ねえな」
思い出してしまったのなら仕方がない。
神愛は悔しさと緊張の中で、なんとか笑ってみせた。潔く認めよう。この勝負を泥仕合のようなものにしたくない。
それに今のエノクは悪いようには見えない。思い出したという言葉が少しだけ嬉しかった。
あいさつは済んだ。
決着をつけるためエノクの拳が動き出す。ゆっくりとした一撃が神愛の腹に直撃した。
「ぬをおおお!」
すさまじい力だった。神愛と接触した瞬間空気は弾け神愛の体は高速で飛んでいった。広場から建物にぶつかりそれでも止まらない。貫通してもさらに飛んでいく。
そのまま吹き飛んでいき神愛は町の大通りまで吹き飛ばされていた。アスファルトをえぐりながら引っ張られようやく停止する。飛距離は百メートル以上にもなっていた。
「主!?」
神愛が飛んでいったのを見てミルフィアが走る。空間転移も使いすぐさに神愛の元に駆け寄った。
「主、大丈夫ですか!?」
神愛はえぐれたアスファルトの上で仰向けに倒れていた。
神愛はなんとか体を起こそうとするが無理だった。体が痺れて力が入らない。
「ぐ、くそ」
やはり駄目だ。苦しそうに表情をゆがめているが、近くにいるミルフィアになんとか視線を合わせた。
「わりい、負けちまった……」
痛みに痺れる体を大の字に寝かせる。
エノクを倒すため。恵瑠を守るため。それらの思いに突き動かされて、約束の時間に突き進む。
黄金が、輝いた。
「行け、神愛!」
加豪が声援を送る。
エノクはまだ体勢を整えられていない。やるなら今だ。
「エノク様!」
まずいと思ったのかヤコブも慌てて声をかける。
これで、決める。
「これで終わりだ、エノク!」
地面を蹴りエノクに向かって跳んだ。踏み込んだ力で地面が砕け体が弾丸のように突進する。
この一撃で決まる。エノクは前に傾いていた体を起こしたばかり。そこに最大の一撃を放つ。
黄金に包まれた拳を振りかぶり、勢いと共に打ち出した。
エノクは立ち上がり、剣を構えてすらいなかった。戦闘中だというのにその姿勢は棒立ちで戦意すら消えている。表情は達観したように静かで、神愛の攻撃を見据えていた。
その顔は、穏やかですらあった。
黄金の拳がエノクに迫る。
それを、エノクは片手で掴んた。
「なに!?」
衝撃の余波が背後に駆け抜けていく。地面は大きくへこみ破片が飛び散った。
エノクは、びくともしていなかった。
神愛の拳を受け止めている。衝撃に地面がえぐれ、陥没し、空気が渦を巻いても、微動だにしていない。
驚愕した。今まで押し負かしていた相手が、突如攻撃を受けても無傷で立っているのだ。互いの力の差は一瞬で逆転し、エノクは威厳を取り戻す。
この一瞬で、エノクの神化は別物になっていた。一つの考えに気づく、それだけのことで。
神愛はなにがどうなっているのか訳が分からず、唖然と打ち出した拳を見つめていた。
「君のおかげだ」
「なに?」
声をかけられた。視線を少し動かしエノクの顔を見る。
エノクは、静かな表情で神愛を見つめていた。戦意もない。怒りも、焦りも。戦闘の中にあって心境は無風。
その姿勢はあらゆるものを超越しているようだ。
本当に、神様のようだった。
「忘れていたものを思い出したよ。礼を言おう」
そう言いながら掴んでいる手とは反対の腕が持ち上がっていく。神愛は逃れようとも思わなかった。これはだめだ、逃げられない。さっきまでとはぜんぜん違う。
「……ち。それじゃあ仕方ねえな」
思い出してしまったのなら仕方がない。
神愛は悔しさと緊張の中で、なんとか笑ってみせた。潔く認めよう。この勝負を泥仕合のようなものにしたくない。
それに今のエノクは悪いようには見えない。思い出したという言葉が少しだけ嬉しかった。
あいさつは済んだ。
決着をつけるためエノクの拳が動き出す。ゆっくりとした一撃が神愛の腹に直撃した。
「ぬをおおお!」
すさまじい力だった。神愛と接触した瞬間空気は弾け神愛の体は高速で飛んでいった。広場から建物にぶつかりそれでも止まらない。貫通してもさらに飛んでいく。
そのまま吹き飛んでいき神愛は町の大通りまで吹き飛ばされていた。アスファルトをえぐりながら引っ張られようやく停止する。飛距離は百メートル以上にもなっていた。
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やはり駄目だ。苦しそうに表情をゆがめているが、近くにいるミルフィアになんとか視線を合わせた。
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