天下界の無信仰者(イレギュラー)
それが、私に託された願いだからだ!
「笑ってる……?」
恵瑠がつぶやく。神愛が作る不可解な笑みに疑問符が出ていた。笑う余裕なんてないはずなのに、それでも神愛は笑ってる。
神愛はいい知れない高揚を感じていたがいつまでもこうしてはいられない。痛い体をなんとか起こし油断のないエノクを見る。
「勝ったと思ったか? まだだよこのヤロー」
「だろうな。今更なぜそうまでして立ち上がる、などとは言わん」
二人は構える。体からはそれぞれ黄金と白銀のオーラを発し、倒すべき敵を見つめる。
「待ってください!」
「恵瑠?」
「…………」
そこへ恵瑠が割り込んだ。二人の間に立ち両手を広げる。
「おい恵瑠、退いてろ。危ないって!」
「でも神愛君、こんなのおかしいですよ! ヘブンズ・ゲートは閉じました。もう戦いは終わったのに戦うなんて」
恵瑠は必死だった。この戦いを止めたいと神愛に言った後彼女はエノクに向き直った。
「エノク、聞いてください。ボクは、かつて多くの人を殺しました。それは、許されないことでした。ただ、そうすることで平和になると信じていたからです。敵を倒すことで目的を達成しようとしていたんです。今のあなたと同じように!」
恵瑠の訴えがエノクに届く。目的のために敵を倒す。それは恵瑠が犯した罪であり、同時に今まさにエノクがしよとしていることだ。
「だから分かるんです、あなたは後悔する!」
それを知っているからこそ、恵瑠は叫んだ。取り返しのつかない罪の累積になるまでに。
「いつか自分が払ってきた代償に負い目を感じ、精算するためにさらに犠牲を増やしていく。そうなったらもう止められない。止められないんですよ!」
自分が重ねてきた罪を払拭するために罪業を行う。それはひどく矛盾した行為で、はまれば逃れることはできない。犠牲を無駄にしてなるものかと躍起になればなるほどその願いは遠ざかる。
その苦しみを、その辛さを、恵瑠は二千年もの間背負ってきた。だから言える。こんなことはもう止めるべきだと。
「あの夜」
そこでエノクがぽつりとつぶやいた。あの夜というのがなんのことか一瞬分からず恵瑠は黙る。
「お前を行かすべきではなかった」
「…………」
「このようなことが二度と起こらないためにも、今度は君を倒す」
恵瑠の思いは伝わらなかった。届いたのは言葉だけで、彼の意思を変えるまでには至っていない。
「たとえ後悔しようと、この身が朽ちようと、私は戦い続ける」
エノクは剣を振るった。覚悟を見せつけるように。
エノクは止めない。それがどのように辛い道でも、困難なものであっても。それでもエノクに止める気なんてない。
あるわけがないのだ。この誓いを、諦めることなんてない。
脳裏に過ぎる光景がある。胸に灯り続ける想いがある。憧れの人から託された願い。それを、手放すなんてできないから。
「私は、この世界を守る!」
偉大なる兄と交わした、たった一つの約束を。
「それが、私に託された願いだからだ!」
一つの約束のため、すべてを投じるその覚悟。 エノクは止まらない。
エリヤの願い。
六十年前の約束。
それを、果たすまで。
「恵瑠、止めとけ」
そこへ恵瑠に神愛からも声がかけられた。
「こいつになにを言っても聞きやしねえよ。とびっきりの頑固爺だ」
「そんな」
「だから任せろ」
この戦いは止められない。そう言われ恵瑠はショックを受けるが、神愛は自信満々に親指を立てた。
「最後にびしっとかっこいいところ見せてやるからよ」
彼の横顔を恵瑠は見上げる。その顔に恵瑠も心配そうな表情を消した。
「うん」
大丈夫。彼ならきっとやってくれる。そう思わせる力が神愛にはあった。
神愛はエノクに振り向いた。彼の前にまでやってくる。
「エノク、お前に言いたいことがある」
恵瑠がつぶやく。神愛が作る不可解な笑みに疑問符が出ていた。笑う余裕なんてないはずなのに、それでも神愛は笑ってる。
神愛はいい知れない高揚を感じていたがいつまでもこうしてはいられない。痛い体をなんとか起こし油断のないエノクを見る。
「勝ったと思ったか? まだだよこのヤロー」
「だろうな。今更なぜそうまでして立ち上がる、などとは言わん」
二人は構える。体からはそれぞれ黄金と白銀のオーラを発し、倒すべき敵を見つめる。
「待ってください!」
「恵瑠?」
「…………」
そこへ恵瑠が割り込んだ。二人の間に立ち両手を広げる。
「おい恵瑠、退いてろ。危ないって!」
「でも神愛君、こんなのおかしいですよ! ヘブンズ・ゲートは閉じました。もう戦いは終わったのに戦うなんて」
恵瑠は必死だった。この戦いを止めたいと神愛に言った後彼女はエノクに向き直った。
「エノク、聞いてください。ボクは、かつて多くの人を殺しました。それは、許されないことでした。ただ、そうすることで平和になると信じていたからです。敵を倒すことで目的を達成しようとしていたんです。今のあなたと同じように!」
恵瑠の訴えがエノクに届く。目的のために敵を倒す。それは恵瑠が犯した罪であり、同時に今まさにエノクがしよとしていることだ。
「だから分かるんです、あなたは後悔する!」
それを知っているからこそ、恵瑠は叫んだ。取り返しのつかない罪の累積になるまでに。
「いつか自分が払ってきた代償に負い目を感じ、精算するためにさらに犠牲を増やしていく。そうなったらもう止められない。止められないんですよ!」
自分が重ねてきた罪を払拭するために罪業を行う。それはひどく矛盾した行為で、はまれば逃れることはできない。犠牲を無駄にしてなるものかと躍起になればなるほどその願いは遠ざかる。
その苦しみを、その辛さを、恵瑠は二千年もの間背負ってきた。だから言える。こんなことはもう止めるべきだと。
「あの夜」
そこでエノクがぽつりとつぶやいた。あの夜というのがなんのことか一瞬分からず恵瑠は黙る。
「お前を行かすべきではなかった」
「…………」
「このようなことが二度と起こらないためにも、今度は君を倒す」
恵瑠の思いは伝わらなかった。届いたのは言葉だけで、彼の意思を変えるまでには至っていない。
「たとえ後悔しようと、この身が朽ちようと、私は戦い続ける」
エノクは剣を振るった。覚悟を見せつけるように。
エノクは止めない。それがどのように辛い道でも、困難なものであっても。それでもエノクに止める気なんてない。
あるわけがないのだ。この誓いを、諦めることなんてない。
脳裏に過ぎる光景がある。胸に灯り続ける想いがある。憧れの人から託された願い。それを、手放すなんてできないから。
「私は、この世界を守る!」
偉大なる兄と交わした、たった一つの約束を。
「それが、私に託された願いだからだ!」
一つの約束のため、すべてを投じるその覚悟。 エノクは止まらない。
エリヤの願い。
六十年前の約束。
それを、果たすまで。
「恵瑠、止めとけ」
そこへ恵瑠に神愛からも声がかけられた。
「こいつになにを言っても聞きやしねえよ。とびっきりの頑固爺だ」
「そんな」
「だから任せろ」
この戦いは止められない。そう言われ恵瑠はショックを受けるが、神愛は自信満々に親指を立てた。
「最後にびしっとかっこいいところ見せてやるからよ」
彼の横顔を恵瑠は見上げる。その顔に恵瑠も心配そうな表情を消した。
「うん」
大丈夫。彼ならきっとやってくれる。そう思わせる力が神愛にはあった。
神愛はエノクに振り向いた。彼の前にまでやってくる。
「エノク、お前に言いたいことがある」
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