天下界の無信仰者(イレギュラー)
お前の信仰、確かに見せてもらったよ。
「だがな、ミカエル」
「ん?」
しかし、次の言葉に表情が変わる。
「男には、意地があるんだよ。けっきょく、俺はなんにも成せない男だった。目につくものは一通り救うようにしてきたが、頭の悪い俺じゃそれで精一杯だ。これが俺の全力さ。でもな、そんな俺でも……!」
エリヤの体が起きあがる。前屈みになっていた体をなんとか正し、立ち上がった。
「あいつに迷惑かけて終わりなんて、ごめんだぜ」
その目は、まだ諦めていなかった。
瀕死の重傷で、今にも死にそうな男の目は、固い決意に彩られていた。
エリヤは地面に刺さった大剣を引き抜く。エリヤと共に多くの戦いを過ごした愛剣は主と同じく折れることなくそこにある。
エリヤはその大剣を使い。
あろうことか、自分の首筋に当てた。
「お前!」
その行員にミカエルが叫ぶ。
その行為は禁じられているからだ。
「エリヤ! 貴様、自分がなにをしようとしているのか分かっているのか! 自害は慈愛連立で禁止されている。お前は、騎士どころか信仰者としても教えを破るつもりか!?」
だからミカエルは怒鳴る。これは慈愛連立への裏切り行為に他ならない。
だが、同時に分かっていた。叫んでいながらそれが無意味だと知っている。
そんな男ではない。このエリヤという男は、そんな基準で動く男ではないのだと。
「……人の命より、大切な教えがあるのかよ」
こういうやつだ、どうしようもなく。
ミカエルは止めるため走ったが、間に合う距離じゃなかった。
ミカエルには、どうしようもなかった。
(シルフィア……エノク……ウリエル……約束、守れそうにねえな……)
ミカエルが駆け寄ってくるのをぼんやりと見つめながらエリヤの思考はこことは別のところに行っていた。
頭の中に幾人もの面々が浮かぶ。その人たちに申し訳なく思った。
彼にはもう会えない。
彼女たちにはもう会えない。
約束は、果たせない。
「悪いな。最後まで、駄目な兄貴でよ……」
エリヤは、大剣を振り抜いた。
大剣の刃が肉を切る。傷は動脈に届くまで深く、彼の首から噴水のように血が飛び出していく。
ミカエルは足を止め、その光景を唖然と見つめていた。
男は首から血を流し、それでも不動のまま立ち続ける。
「ざまあみろ、ミカエル。俺の、勝ちだ……」
最後にそれだけを言い残して。
エリヤは、息を引き取っていた。
その生涯を自分らしく生た男の最後が、こうして終わった。
困っている人を救いたい。それも誰にも救われない人を救いたい。変わり者で、破天荒で、誰よりも自由な騎士は。
一人の女性を救うために、その命を散らした。
亡くなってもなお立ち続けるエリヤをミカエルは見つめていた。
「ふん。残念だが、認めてやろう。この勝負はお前の勝ちだ」
朝日が昇る。ここにエリヤが来てからもう数時間が経ち、ウリエルは逃亡。手がかりもなし。
エリヤの目的は果たしている。これは彼の勝利だ。だが、そのために命を捨てれる者が何人いるだろう。
ミカエルはエリヤの姿を見つめていたが、しばらくして踵を返した。
「聖騎士エリヤ。お前の信仰、確かに見せてもらったよ。本当に、残念だ」
ミカエルはその場を後にした。これから先、ミカエルたちがウリエルを見つけるのは当分先となる。しかし、ミカエルに彼を恨む気持ちは一度も沸いてこなかった。
エリヤによる二度目の襲撃事件はその日の朝から周知の事実となり、一人によって発生した規模と動機の不可解さから歴史にも刻まれた。その大事件は裏切り者のエリヤとして絵画にもなった。人の思いをかき回し、歴史に名を残し、彼はこの世から姿を消した。
その思いを世に知らされることもなく。
聖騎士エリヤの生涯は、こうして幕を下ろしたのだった。
「ん?」
しかし、次の言葉に表情が変わる。
「男には、意地があるんだよ。けっきょく、俺はなんにも成せない男だった。目につくものは一通り救うようにしてきたが、頭の悪い俺じゃそれで精一杯だ。これが俺の全力さ。でもな、そんな俺でも……!」
エリヤの体が起きあがる。前屈みになっていた体をなんとか正し、立ち上がった。
「あいつに迷惑かけて終わりなんて、ごめんだぜ」
その目は、まだ諦めていなかった。
瀕死の重傷で、今にも死にそうな男の目は、固い決意に彩られていた。
エリヤは地面に刺さった大剣を引き抜く。エリヤと共に多くの戦いを過ごした愛剣は主と同じく折れることなくそこにある。
エリヤはその大剣を使い。
あろうことか、自分の首筋に当てた。
「お前!」
その行員にミカエルが叫ぶ。
その行為は禁じられているからだ。
「エリヤ! 貴様、自分がなにをしようとしているのか分かっているのか! 自害は慈愛連立で禁止されている。お前は、騎士どころか信仰者としても教えを破るつもりか!?」
だからミカエルは怒鳴る。これは慈愛連立への裏切り行為に他ならない。
だが、同時に分かっていた。叫んでいながらそれが無意味だと知っている。
そんな男ではない。このエリヤという男は、そんな基準で動く男ではないのだと。
「……人の命より、大切な教えがあるのかよ」
こういうやつだ、どうしようもなく。
ミカエルは止めるため走ったが、間に合う距離じゃなかった。
ミカエルには、どうしようもなかった。
(シルフィア……エノク……ウリエル……約束、守れそうにねえな……)
ミカエルが駆け寄ってくるのをぼんやりと見つめながらエリヤの思考はこことは別のところに行っていた。
頭の中に幾人もの面々が浮かぶ。その人たちに申し訳なく思った。
彼にはもう会えない。
彼女たちにはもう会えない。
約束は、果たせない。
「悪いな。最後まで、駄目な兄貴でよ……」
エリヤは、大剣を振り抜いた。
大剣の刃が肉を切る。傷は動脈に届くまで深く、彼の首から噴水のように血が飛び出していく。
ミカエルは足を止め、その光景を唖然と見つめていた。
男は首から血を流し、それでも不動のまま立ち続ける。
「ざまあみろ、ミカエル。俺の、勝ちだ……」
最後にそれだけを言い残して。
エリヤは、息を引き取っていた。
その生涯を自分らしく生た男の最後が、こうして終わった。
困っている人を救いたい。それも誰にも救われない人を救いたい。変わり者で、破天荒で、誰よりも自由な騎士は。
一人の女性を救うために、その命を散らした。
亡くなってもなお立ち続けるエリヤをミカエルは見つめていた。
「ふん。残念だが、認めてやろう。この勝負はお前の勝ちだ」
朝日が昇る。ここにエリヤが来てからもう数時間が経ち、ウリエルは逃亡。手がかりもなし。
エリヤの目的は果たしている。これは彼の勝利だ。だが、そのために命を捨てれる者が何人いるだろう。
ミカエルはエリヤの姿を見つめていたが、しばらくして踵を返した。
「聖騎士エリヤ。お前の信仰、確かに見せてもらったよ。本当に、残念だ」
ミカエルはその場を後にした。これから先、ミカエルたちがウリエルを見つけるのは当分先となる。しかし、ミカエルに彼を恨む気持ちは一度も沸いてこなかった。
エリヤによる二度目の襲撃事件はその日の朝から周知の事実となり、一人によって発生した規模と動機の不可解さから歴史にも刻まれた。その大事件は裏切り者のエリヤとして絵画にもなった。人の思いをかき回し、歴史に名を残し、彼はこの世から姿を消した。
その思いを世に知らされることもなく。
聖騎士エリヤの生涯は、こうして幕を下ろしたのだった。
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