天下界の無信仰者(イレギュラー)
勝手な男だな
気恥ずかしさを笑って誤魔化して。エリヤはおどけて見せた。
「お前がさ、その贖罪とやらを終えて、自由に生きる姿を見てみたい。それが本音さ。そう思ったらじっとしてられなくってよ」
それがエリヤの思いだった。お節介だというのは自覚している。でもほっとけない。いい人は報われるべきだと思ってる。彼女ならなおさらだ。
エリヤの告白を、ウリエルは静かに聞いていた。
「…………」
それに、彼女ははじめなにも言えなかった。胸にわき上がる、熱いなにか。久しく感じたことのないこの衝動を、ぐっと飲み込んだ。
「フウー」
反動に息を吐く。まだ余熱が胸に残っている。それを気取られないようにウリエルは振り返り背中を見せた。
エリヤは自由奔放だ。自分の言いたいことを好き放題言ってくれる。そんなことを言われたら、いったいどんな顔をすればいいのか。そんな迷惑すらこの男は分かっていないだろう。
「まったく。お前は本当に」
だけど。
その顔が、少しだけ柔らかくなった。
「勝手な男だな」
*
サン・ジアイ大聖堂。その白く塗られた廊下でガブリエルがつぶやいた。
「ルフィアの系譜とおもしき女性、そのそばにいるエリヤとウリエルが接触、か」
それはいよいよルフィアの系譜である可能性が出てきた出来事だった。まさかその相手がヘブンズ・ゲートの鍵であるウリエルと出会うとは偶然とは考えづらい。
二人の出会いはなにかしらの意味があるに違いない。
ガブリエルの前に立つラファエルも同じ考えだ。
「ますます信憑性が増してきたわね」
エリヤの妹シルフィアこそがルフィアの系譜であり、エリヤは世界的な流れを変えるほどの出来事を起こす。それはすなわち、三柱戦争の開幕。その可能性が高い。
まさかウリエルを探し出すという目標がこんな形で実現するとは思っていなかったガブリエルは神妙な顔つきだ。
「ルフィアの隣人はエリヤの方だったか」
可能性としてはエノクも十分にあり得た。だがウリエルと接触したエリヤの方が現状では妥当といえる。それがあの暴れん坊のエリヤであったとしてもだ。
「でも信じられない。あのエリヤがルフィアの隣人だって? あのがさつな男が人理時代からの神秘だっていうの?」
彼女の言うとおりエリヤは神秘という柄じゃない。酒場で暴れるような男が神様など想像したくない。
「それは諸説あるな。ルフィアの系譜、ならびに隣人が世界に隠された神秘なのか。それとも世界に影響を与える人物にルフィアの系譜が現れるのか。前者ならばともかく後者ならお前の心配はなくなる。ルフィアの系譜の出現、それが意味する脅威は変わらんがな」
ガブリエルの説明にラファエルの表情が「まあそれなら」と落ち着きを取り戻す。
「それで、どうするの?」
問題はこれからだ。目下の課題であったウリエルは見つけた。それでどう動くのか。
「難しい局面だが、個人的には様子を見てみたい。二人が出会いなにをするのか、それが未来の見えない今、世界の行方を探る手がかりになるかもしれん」
「でも、同時に手遅れになるかもしれない、ってこと」
「ああ」
ガブリエルは慎重な表情だ。今彼女は迷宮の上に立っている。道筋は分からず、選択を誤れば床が抜けるが槍が降るか。
見極めなければならない。ガブリエルは気丈とした姿勢でラファエルを見る。
「すぐに会議だ。この件はその場で決めよう」
「そうね」
苦しい問題にラファエルの表情も晴れない。正しい答えなんて分からない。
だが、そこでガブリエルがつぶやいた。
「とはいえ」
正解なんて誰も分からない。だが、誰がなにをするのかを予測することならできる。
「ミカエルは、動くだろうな」
チャンスがあるなら手を伸ばす。ミカエルはそういう男だ。
「お前がさ、その贖罪とやらを終えて、自由に生きる姿を見てみたい。それが本音さ。そう思ったらじっとしてられなくってよ」
それがエリヤの思いだった。お節介だというのは自覚している。でもほっとけない。いい人は報われるべきだと思ってる。彼女ならなおさらだ。
エリヤの告白を、ウリエルは静かに聞いていた。
「…………」
それに、彼女ははじめなにも言えなかった。胸にわき上がる、熱いなにか。久しく感じたことのないこの衝動を、ぐっと飲み込んだ。
「フウー」
反動に息を吐く。まだ余熱が胸に残っている。それを気取られないようにウリエルは振り返り背中を見せた。
エリヤは自由奔放だ。自分の言いたいことを好き放題言ってくれる。そんなことを言われたら、いったいどんな顔をすればいいのか。そんな迷惑すらこの男は分かっていないだろう。
「まったく。お前は本当に」
だけど。
その顔が、少しだけ柔らかくなった。
「勝手な男だな」
*
サン・ジアイ大聖堂。その白く塗られた廊下でガブリエルがつぶやいた。
「ルフィアの系譜とおもしき女性、そのそばにいるエリヤとウリエルが接触、か」
それはいよいよルフィアの系譜である可能性が出てきた出来事だった。まさかその相手がヘブンズ・ゲートの鍵であるウリエルと出会うとは偶然とは考えづらい。
二人の出会いはなにかしらの意味があるに違いない。
ガブリエルの前に立つラファエルも同じ考えだ。
「ますます信憑性が増してきたわね」
エリヤの妹シルフィアこそがルフィアの系譜であり、エリヤは世界的な流れを変えるほどの出来事を起こす。それはすなわち、三柱戦争の開幕。その可能性が高い。
まさかウリエルを探し出すという目標がこんな形で実現するとは思っていなかったガブリエルは神妙な顔つきだ。
「ルフィアの隣人はエリヤの方だったか」
可能性としてはエノクも十分にあり得た。だがウリエルと接触したエリヤの方が現状では妥当といえる。それがあの暴れん坊のエリヤであったとしてもだ。
「でも信じられない。あのエリヤがルフィアの隣人だって? あのがさつな男が人理時代からの神秘だっていうの?」
彼女の言うとおりエリヤは神秘という柄じゃない。酒場で暴れるような男が神様など想像したくない。
「それは諸説あるな。ルフィアの系譜、ならびに隣人が世界に隠された神秘なのか。それとも世界に影響を与える人物にルフィアの系譜が現れるのか。前者ならばともかく後者ならお前の心配はなくなる。ルフィアの系譜の出現、それが意味する脅威は変わらんがな」
ガブリエルの説明にラファエルの表情が「まあそれなら」と落ち着きを取り戻す。
「それで、どうするの?」
問題はこれからだ。目下の課題であったウリエルは見つけた。それでどう動くのか。
「難しい局面だが、個人的には様子を見てみたい。二人が出会いなにをするのか、それが未来の見えない今、世界の行方を探る手がかりになるかもしれん」
「でも、同時に手遅れになるかもしれない、ってこと」
「ああ」
ガブリエルは慎重な表情だ。今彼女は迷宮の上に立っている。道筋は分からず、選択を誤れば床が抜けるが槍が降るか。
見極めなければならない。ガブリエルは気丈とした姿勢でラファエルを見る。
「すぐに会議だ。この件はその場で決めよう」
「そうね」
苦しい問題にラファエルの表情も晴れない。正しい答えなんて分からない。
だが、そこでガブリエルがつぶやいた。
「とはいえ」
正解なんて誰も分からない。だが、誰がなにをするのかを予測することならできる。
「ミカエルは、動くだろうな」
チャンスがあるなら手を伸ばす。ミカエルはそういう男だ。
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