天下界の無信仰者(イレギュラー)
許すという話
大声から一転して柔らかい声になる。その声はウリエルを許そうとしていた。だがまだウリエルの中で引っかかりがあるらしく、表情と声は暗い。
「間違いなんて誰だってする。俺もする。でも、お前は悪いことをしようとしてるわけじゃない。償おうと懸命じゃねえか。俺よりは上等さ。俺なんて開き直ってる性悪だからよ」
エリヤからの自虐にウリエルはフッと笑った。
「最低だな」
「言うなよ」
それに合わせエリヤも笑う。言われて思うが確かに最低だ。
しかしそれはそれなので話を戻す。
「それでも、こんな俺でも世界をよくしたいと思ってる。お前だってできるさ、気が遠くなるほど人を助けて旅をしてきたんだろ? そいつらはきっとこう思ってるぜ。あの人は今頃幸せだろうか? ってな」
その言葉にウリエルは視線を下げた。
「お前のその考えは周りの期待を踏みにじってる。私は幸せになる価値がないなんて言う人間はな、人の価値を自分で決めようとする、根っこでは傲慢なんだよ」
「…………」
エリヤはぶっきらぼうに言うが、不思議とその言葉には説得力があった。一つの筋に通った彼なりの考え、核のようなものが力強く言われている。
「他人がお前と同じことをしたとしたら? お前はそいつがなにをしても許さないのか? そいつはひどくないか? こんなにも懸命にがんばってるじゃねえか」
自分に生きる価値がないという者は、他人の価値も自分で決める。生きる価値を定め自分にも適用している以上、それは他人にも当てはめる。他人に対してお前は生きる価値がないとする場合もあるということだ。
自分の勝手な価値観で。今は自分に向いているが、時と場合では他人に向くかもしれない。
それをエリヤは傲慢だと言ったのだ。人の価値を勝手に決めるなと。自分の価値を勝手に決めるなと。
エリヤの言葉にウリエルも考える。自分の行い、それを今一度省みた。かつてした自分の罪を。
それを、自分は許せるだろうか? それとも傲慢なまでに永劫許さないとするのだろうか。
ウリエルはつぶやいた。
「……しかし」
ウリエルもエリヤの言わんとしていることは分かるのだ。ただ、分かったところですぐに切り替えられるものでもない。それだけに彼女が犯した罪は重い。
「よし! じゃあこうしよう!」
すると、エリヤから陽気な声があがった。
「今すぐが無理だっていうなら期限を決めようぜ。自分を許せない刑期みたいなもんさ」
「刑期?」
「無期懲役もここまでさ。そろそろゴールを決めようぜ」
呆気にとられる。さっきからあれやこれやと勝手が多すぎる。こんな性格では周りにいる者たちはさぞや迷惑しているだろう。
でも、悪い気はしなかった。
その発言はぜんぶ、自分を思ってのものだったから。
「そうだ、キリよくあと百回人を助けたら自分を許すっていうのはどうだ? 百回も助ければ十分だろ。半分でもいいくらいだ。とりあえず今から紹介する酒場でバイトしてよ、俺の借金を返すっているのはどうだ?」
「ふ、はっはっはっはっは!」
ついにウリエルは笑い出した。青空の見える天井に向かって、大笑を吐き出した。
自分の心配をしてくれるのは嬉しいが今の冗談はどうなんだ。優しいのか意地が悪いのか分からない。
「まったく。なにが傲慢だ。お前の方がよっぽど勝手だ」
「もう知ってるかと思ってたよ」
「ああ、今しがた理解した。お前は本当に最低なやつだよ」
表情にはまだ笑いの余韻が残っている。口元に手を当てている。その最中に思う。自分はまだ、こんな風に笑えることができるんだなと。
「言葉は乱暴で自分勝手で。だが、それがお前なりの優しさなんだと理解した。ありがとう、考えておくよ」
そう言うとウリエルは背中を見せエリヤから距離をとるように少しだけ前に歩いた。
「おい」
「エリヤ」
その背中を呼び止めようとするが、ウリエルは振り返った。
「これは私の生き方なんだ。お前なりの気遣いには感謝している。だが、どれを選ぶかは私に任せて欲しい」
彼女は言う。エリヤの心配も言葉もぜんぶ理解した上で。最後は自分で選ぶ。
そこには彼女の強い意思がある。ならばもうこれ以上言うことはない。なにより自分で選ぶことが一番重要だ。その選択は他人がとやかく言うことじゃない。
「そりゃそうだ」
彼女の決意を受け取るとエリヤは大きく両手を持ち上げた後、自分のふとももを叩いた。席から立ち上がり歩き出す。
「間違いなんて誰だってする。俺もする。でも、お前は悪いことをしようとしてるわけじゃない。償おうと懸命じゃねえか。俺よりは上等さ。俺なんて開き直ってる性悪だからよ」
エリヤからの自虐にウリエルはフッと笑った。
「最低だな」
「言うなよ」
それに合わせエリヤも笑う。言われて思うが確かに最低だ。
しかしそれはそれなので話を戻す。
「それでも、こんな俺でも世界をよくしたいと思ってる。お前だってできるさ、気が遠くなるほど人を助けて旅をしてきたんだろ? そいつらはきっとこう思ってるぜ。あの人は今頃幸せだろうか? ってな」
その言葉にウリエルは視線を下げた。
「お前のその考えは周りの期待を踏みにじってる。私は幸せになる価値がないなんて言う人間はな、人の価値を自分で決めようとする、根っこでは傲慢なんだよ」
「…………」
エリヤはぶっきらぼうに言うが、不思議とその言葉には説得力があった。一つの筋に通った彼なりの考え、核のようなものが力強く言われている。
「他人がお前と同じことをしたとしたら? お前はそいつがなにをしても許さないのか? そいつはひどくないか? こんなにも懸命にがんばってるじゃねえか」
自分に生きる価値がないという者は、他人の価値も自分で決める。生きる価値を定め自分にも適用している以上、それは他人にも当てはめる。他人に対してお前は生きる価値がないとする場合もあるということだ。
自分の勝手な価値観で。今は自分に向いているが、時と場合では他人に向くかもしれない。
それをエリヤは傲慢だと言ったのだ。人の価値を勝手に決めるなと。自分の価値を勝手に決めるなと。
エリヤの言葉にウリエルも考える。自分の行い、それを今一度省みた。かつてした自分の罪を。
それを、自分は許せるだろうか? それとも傲慢なまでに永劫許さないとするのだろうか。
ウリエルはつぶやいた。
「……しかし」
ウリエルもエリヤの言わんとしていることは分かるのだ。ただ、分かったところですぐに切り替えられるものでもない。それだけに彼女が犯した罪は重い。
「よし! じゃあこうしよう!」
すると、エリヤから陽気な声があがった。
「今すぐが無理だっていうなら期限を決めようぜ。自分を許せない刑期みたいなもんさ」
「刑期?」
「無期懲役もここまでさ。そろそろゴールを決めようぜ」
呆気にとられる。さっきからあれやこれやと勝手が多すぎる。こんな性格では周りにいる者たちはさぞや迷惑しているだろう。
でも、悪い気はしなかった。
その発言はぜんぶ、自分を思ってのものだったから。
「そうだ、キリよくあと百回人を助けたら自分を許すっていうのはどうだ? 百回も助ければ十分だろ。半分でもいいくらいだ。とりあえず今から紹介する酒場でバイトしてよ、俺の借金を返すっているのはどうだ?」
「ふ、はっはっはっはっは!」
ついにウリエルは笑い出した。青空の見える天井に向かって、大笑を吐き出した。
自分の心配をしてくれるのは嬉しいが今の冗談はどうなんだ。優しいのか意地が悪いのか分からない。
「まったく。なにが傲慢だ。お前の方がよっぽど勝手だ」
「もう知ってるかと思ってたよ」
「ああ、今しがた理解した。お前は本当に最低なやつだよ」
表情にはまだ笑いの余韻が残っている。口元に手を当てている。その最中に思う。自分はまだ、こんな風に笑えることができるんだなと。
「言葉は乱暴で自分勝手で。だが、それがお前なりの優しさなんだと理解した。ありがとう、考えておくよ」
そう言うとウリエルは背中を見せエリヤから距離をとるように少しだけ前に歩いた。
「おい」
「エリヤ」
その背中を呼び止めようとするが、ウリエルは振り返った。
「これは私の生き方なんだ。お前なりの気遣いには感謝している。だが、どれを選ぶかは私に任せて欲しい」
彼女は言う。エリヤの心配も言葉もぜんぶ理解した上で。最後は自分で選ぶ。
そこには彼女の強い意思がある。ならばもうこれ以上言うことはない。なにより自分で選ぶことが一番重要だ。その選択は他人がとやかく言うことじゃない。
「そりゃそうだ」
彼女の決意を受け取るとエリヤは大きく両手を持ち上げた後、自分のふとももを叩いた。席から立ち上がり歩き出す。
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