天下界の無信仰者(イレギュラー)
贖罪の話
「お前も生きてるから趣味の贖罪ができるんじゃねえのかよ?」
「贖罪は趣味じゃない。責任なんだ」
「責任のために生きてるのか?」
「…………」
エリヤの質問に寂しそうな笑みで黙秘する。
「いつからだよ」
「ずっと昔から。気が遠くなるほどな」
小さな声でささやかれた言葉は長い年月を感じさせるものだった。
いったい、どれだけ長い間そうしてきたのだろう。見た目は若いが費やしてきた時間はそうではないだろう。
数年? 十年?
いや、もしかしたら。
その人生は、二千年も長い旅をしてきたのかもしれない。
彼女のささやきは、それほどまでに重く、枯れたものだった。
「真面目なやつだ。そんなに長く責任負って人助けてよ、いったいいつ終わるんだよ?」
人生の意義を楽しむ時間と決めているエリヤには彼女の生き方は分からない。いったいどんな気持ちで今までを生きてきたのか。そんなものは時間の無駄使いにすら思える。後悔から人を助けるというが、しかしいつまでそんな生き方をすれば気が済むのか。
その答えを、ウリエルは切ない響きで、同時にきっぱりと言い切った。
「……終わりなんてないさ」
「なに?」
その言葉にエリヤは彼女の後ろ姿に目を戻した。
彼女は割れたステンドグラスを見上げたままだった。
「私のせいで、多くの人が亡くなった。多くの幸せが失われた。私は、彼らのために生涯を尽くして償わないといけないんだ」
「おいおい」
それが当然のことのように彼女は言う。私は罪を犯した。だから償う。言うのは簡単だ。やるのは難しい。それを彼女は実行している。すごいことだが、エリヤにはそれが気になった。
終わらない贖罪の道。
終わらないのなら、彼女はずっと救われないのか?
「なあ、お前それ本気で言ってるのかよ?」
「当然だ」
エリヤからの質問にも背中越しに言い切る。自分が誰かのために手を差し伸べ続けること。それが自分の人生なんだと決めつけている。
それが気に入らなかった。
エリヤは、気づいた時には言っていた。
「お前、それ間違ってるぞ」
「なに?」
ウリエルは振り返る。表情は眉が真ん中に寄っている。
自分の生き方は自分で決めるものだ。ウリエルにはそれだけの理由がある。かつて自分がしてしまった行いを悔い、それを償うだけの理由がある。なにも伊達や酔狂でこんなことをしているわけではないのだ。
それを間違っていると決めつけられて、彼女もいい気はしない。
「勝手に決めつけるな、お前が私のなにを知っている」
声にも険が入る。やや不機嫌な彼女の目がエリヤを見た。
が、それでもエリヤはいつものエリヤだった。
「知らねえよ、知るわけねえだろまだ会って二時間だぞ。お前のスリーサイズも知らねえのに過去なんて知るわけねえだろ」
品のない表現にウリエルの目がさらに鋭くなる。それを見てエリヤもバツがが悪そうに片手を上げた後話し出した。
「でもな、これだけは言えるぜ」
顔は元に戻っている。真っ直ぐとウリエルを見る。その表情は、本気のものだった。
「許されないやつなんていない」
その言葉にウリエルは反論をしない。というよりも返事をすることすら躊躇った。それだけエリヤも真剣だったからだ。
「罪を犯したやつはもう笑っちゃダメだってか? アホ言え。誰だって悪いことの一つや二つ、大小はあれどしてるじゃねえか。俺たちは許されないのか? 過ちをしたのならそれを反省し、次に向かうことも出来ないのか? そんなことあるわけねえだろ!」
「エリヤ……」
熱の入った声が壊れた教会を吹き抜けた。静かな森にエリヤの大声が響いた後、彼はおどけるように肩を持ち上げた。
「笑う権利っていうのは基本的人権だぜ? お前が望むならな」
「私は」
「贖罪は趣味じゃない。責任なんだ」
「責任のために生きてるのか?」
「…………」
エリヤの質問に寂しそうな笑みで黙秘する。
「いつからだよ」
「ずっと昔から。気が遠くなるほどな」
小さな声でささやかれた言葉は長い年月を感じさせるものだった。
いったい、どれだけ長い間そうしてきたのだろう。見た目は若いが費やしてきた時間はそうではないだろう。
数年? 十年?
いや、もしかしたら。
その人生は、二千年も長い旅をしてきたのかもしれない。
彼女のささやきは、それほどまでに重く、枯れたものだった。
「真面目なやつだ。そんなに長く責任負って人助けてよ、いったいいつ終わるんだよ?」
人生の意義を楽しむ時間と決めているエリヤには彼女の生き方は分からない。いったいどんな気持ちで今までを生きてきたのか。そんなものは時間の無駄使いにすら思える。後悔から人を助けるというが、しかしいつまでそんな生き方をすれば気が済むのか。
その答えを、ウリエルは切ない響きで、同時にきっぱりと言い切った。
「……終わりなんてないさ」
「なに?」
その言葉にエリヤは彼女の後ろ姿に目を戻した。
彼女は割れたステンドグラスを見上げたままだった。
「私のせいで、多くの人が亡くなった。多くの幸せが失われた。私は、彼らのために生涯を尽くして償わないといけないんだ」
「おいおい」
それが当然のことのように彼女は言う。私は罪を犯した。だから償う。言うのは簡単だ。やるのは難しい。それを彼女は実行している。すごいことだが、エリヤにはそれが気になった。
終わらない贖罪の道。
終わらないのなら、彼女はずっと救われないのか?
「なあ、お前それ本気で言ってるのかよ?」
「当然だ」
エリヤからの質問にも背中越しに言い切る。自分が誰かのために手を差し伸べ続けること。それが自分の人生なんだと決めつけている。
それが気に入らなかった。
エリヤは、気づいた時には言っていた。
「お前、それ間違ってるぞ」
「なに?」
ウリエルは振り返る。表情は眉が真ん中に寄っている。
自分の生き方は自分で決めるものだ。ウリエルにはそれだけの理由がある。かつて自分がしてしまった行いを悔い、それを償うだけの理由がある。なにも伊達や酔狂でこんなことをしているわけではないのだ。
それを間違っていると決めつけられて、彼女もいい気はしない。
「勝手に決めつけるな、お前が私のなにを知っている」
声にも険が入る。やや不機嫌な彼女の目がエリヤを見た。
が、それでもエリヤはいつものエリヤだった。
「知らねえよ、知るわけねえだろまだ会って二時間だぞ。お前のスリーサイズも知らねえのに過去なんて知るわけねえだろ」
品のない表現にウリエルの目がさらに鋭くなる。それを見てエリヤもバツがが悪そうに片手を上げた後話し出した。
「でもな、これだけは言えるぜ」
顔は元に戻っている。真っ直ぐとウリエルを見る。その表情は、本気のものだった。
「許されないやつなんていない」
その言葉にウリエルは反論をしない。というよりも返事をすることすら躊躇った。それだけエリヤも真剣だったからだ。
「罪を犯したやつはもう笑っちゃダメだってか? アホ言え。誰だって悪いことの一つや二つ、大小はあれどしてるじゃねえか。俺たちは許されないのか? 過ちをしたのならそれを反省し、次に向かうことも出来ないのか? そんなことあるわけねえだろ!」
「エリヤ……」
熱の入った声が壊れた教会を吹き抜けた。静かな森にエリヤの大声が響いた後、彼はおどけるように肩を持ち上げた。
「笑う権利っていうのは基本的人権だぜ? お前が望むならな」
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