天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

出会い

 エリヤが謹慎処分を受けてから数日後、エリヤは街をぶらぶらと歩いていた。まだ昼間の時間だが仕事はない。それもそのはず、今は絶賛謹慎中だ。家にいるのも落ち着かないので行き先もなく外に出てきたのだ。
 あれから何日も経ったが気分は暗いままだ。自分のせいで教皇に迷惑をかけよかれとしたことが裏目になったことが今でも引っかかり胸が重い。

「はあ~」

 陰気満々なオーラが全身から漂う。
 と思えば、今度は急に空に叫んだ。

「やっちまったぁー!」

 道を歩く人々が何事かと振り返る。しかしそんなことお構いなしでエリヤは頭を抱え「うおおお!」と体を捻った。どう見ても怪しいダンスか奇行にしか見えない。要するに危ない人という意味だ。

「そりゃあさ? 俺だって分かってたよ? やり方がまずいってことくらい。でもこのままじゃ本気でやばいのは確かなんだからそれを変えようと必死にがんばったんじゃねえか。そりゃあ、相談はしてなかったけど……。でも、あ、いや、くそ」

 主張して反論してそれに反論しようとしたところで諦めた。駄目だ、どう考えても自分が悪い。神官庁の連中の判断は早すぎると思うが先走ったのは自分も同じだ。
 エリヤは奇怪なダンスを止めうなだれた。どれだけ頭を悩ませても後悔先に立たず。時間を無駄にするだけだ。

「これからどうするかなぁ……」

 道の真ん中で途方に暮れる。これからどうすればいいのか分からず街に取り残された気分だ。
 時間だけを持て余し自信まで失った。家にはいたくない。シルフィアは優しいがそれが逆に痛いしエノクの無視を貫く姿勢は素直に辛い。要するにどんな態度をされてもあそこは苦しい場所になってしまった。外に出たものの行く宛もない。
 と、そんな時だった。ぼーとしていたエリヤの視界にある人物が目に入った。全身を灰色の毛布でくるみ頭も被っている。俯いているため顔は見えず身長は百七十センチほど。性別までは分からずひっそりと街を歩いていた。
 それだけなら特に気にも留めなかったのだが、その人物は時折顔を上げると周囲をきょろきょろと見渡しては俯いて歩いていく。人とすれ違いになるときは慌てるように小走りで離れていく。目的があって歩いているようには見えない。ただぶらぶらと、周りを警戒しながら歩いている。

(怪しい)

 そう思ってエリヤはその人物を観察した。はじめは周囲を警戒するために周りを見ていたと思っていたがどうもそれだけではないらしく、その人は時折足を止めると談笑している母親と小さな子供を見ていたり、仲むつまじく歩く恋人を見たり、花屋の女性と老婆のお客さんが笑顔で話しているのを見たりしていた。理由は分からないが気になるようだ。けれど自分の近くに人が近づくと急いで離れていく。

(怪しい!)

 まさか、人生に希望を持てなくなった若者が通り魔でもしようとしているのでは? などとよからぬ考えが頭を過ぎる。考え過ぎか? でもそうでなければなぜ顔を隠すのか。
 どうする? 止めるか? エリヤは考えた。

(いや、俺はもう聖騎士でもなんでもないんだ。職務停止中なんだしわざわざ追いかけることもないか)

 そもそもエリヤは謹慎中だ。そんなことをする義務もなければ必要もない。ここにいるのは人よりも力が強いだけの通りすがりだ。
 エリヤは見なかったことにして踵を返した。

「うわーん!」

 すると背後から声が聞こえてきた。なにごとかと振り返ってみると男の子が地面に座り込み泣いているではないか。しかもその正面にはフードの怪しい者が立っている!

「おいおいおいおーい!」
(さっそくかよ!)

 まさか本当にしでかしてくれるとは。さすがに目の前で起こされて無視はできない。しかも自分よりも弱い子供を狙うとは卑怯なやつだ、これは絶対に悪者に違いない!

「そこのお前、ちょっと待った!」
「え」

 エリヤは急いで駆けつけフードの前に立つ。

「白昼堂々路上で児童に通り魔とはふてえ野郎だ、逮捕する!」
「ちょっと待ってください!」

 エリヤはすぐにでもこの現行犯を捕まえようとするが怪しい人物はフードを脱ぎ隠れていた顔が露わになった。
(女?)
 フードを脱いだのは女性だった。それもかなりの美形だ。白い長髪が脱いだ拍子でさらりと舞う。整った鼻筋に美しい双眸はブルーサファイアのような瞳をしている。

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