天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

誰なの?

 その言葉にラファエルの表情が驚愕に見開かれる。

「……ルフィアの系譜」

 顔がみるみる険しくなる。それがもたらす意味を考え込み顔が下がる。

 彼女の反応を見てガブリエルは静かに話し出した。

「過去、偉業を成した者、王となった者。それが功績であろうが悪名であろうが、時代に名を刻んだ者たち。その中には一部共通することがある。それが、ルフィアの名を持つ女性がそばにいることだ。なにを偉人とするかで結果は変わってくるが、我々が調べた計測ではその割合は五分弱。別の者では一割にものぼると言う。それほどの確率でルフィアと名の付く女性が過去、歴史の表舞台に出ることなく登場している。例外があるとすればアルフィアくらいか。あの聖女を除いてな。これは、異常な数値だ。偶然ではありえない。なにかしらの要因がある。これを、我々はルフィアの系譜として観測、調査してきた」

 このことは一般的には知られていない、天下界のトップシークレットだ。なぜならルフィアの系譜と見られる女性はイヤスを処刑にかけた兵士、ロンギヌスの妻にまで遡る。これは、三柱の神の誕生以前から神秘的な存在がいるのかもしれない、という疑問が出てしまう。

 ルフィアの系譜。それは三柱の神の威厳を揺るがす重大な危機だ。

「あくまでも歴史に登場するのは別人なので近年まで発見されてはいなかったが、掘り返して調べてみれば明らかだ。世界的な出来事にはルフィアの影がある。彼女の登場は、時代の変換を告げる、その可能性が高い。ましてやこの時期だ」

 今まさに三柱戦争が起きかねない状況でルフィアの系譜の登場。もしかしたらルフィアの系譜のそばにいる誰かが三柱戦争の引き金になるかもしれない。そうすれば説明がつく。

「でも、確定したわけじゃないんでしょう? ルフィアなんて探せばどこにでもいるでしょうし」

「ルフィアという名自体はそこまで珍しくはない。が、今回の候補者には名前以外の条件がそろっている」

「条件?」

「そばに、偉人がいるということさ。歴史に名を刻む者のそばにルフィアの系譜がいるのなら、逆説的にルフィアの系譜には相応の人物がいることになる」

「誰なの?」

 ルフィアの系譜の登場がよからぬ事態を引き起こしかねないのは分かった。今は特になにも起きて欲しくない時期だ。

 一体それは誰なのか。その問いにガブリエルが答えた。

「シルフィア。エリヤの妹さ」

「エリヤの?」

 ガブリエルの答えに拍子抜けしたような声が出る。ルフィアの系譜という世界の闇、どんな人物なのだろうかと身構えていたが、それが暴れん坊で有名なエリヤとは意外にもほどがある。彼が神理時代以前から存在する神と関係があるとでも言うのだろうか? とてもではないが信じられない。

 第一、尤もな疑問が口を突く。

「彼、妹なんていたの?」

 そんなの聞いたことがない。

 それはガブリエルも先日知ったばかりなので彼女の疑問は大いに共感できた。

「五年前に引き取ったらしい。まったく、捨てられた猫を拾うように家族を増やす男だ」

 その顔と声には呆れが見える。

 が、呆れてばかりではいられない。

「エリヤはすでに聖騎士としてその名を確立している。広義的に見れば偉人の範疇だろう」

「彼女の妹がルフィアの系譜で、エリヤが世界を動かすほどの行動に出ると?」

 あくまでも可能性の話だ。だが、なにが起こるか分からない今の状況では警戒しないわけにはいかない。

「もしかしたら今回の未来消失、それが引き起こす三柱戦争だが、その始まりは我々ゴルゴダかもしれんぞ」

「そんな……」

 ルフィアの系譜が身内から出たのならあり得る話だ。そんなことあってはならないと思うがラファエルの表情も暗くなる。

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