天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

……候補者が見つかった

「問題は」

 ミカエルがつぶやく。やることは決まったがそれには解決しなければならない、構造的な問題がある。

 それこそが、彼女の存在だった。

「ウリエルの捜索か」

「…………」

 その名前にラグエルの目が大きく開かれた。

「まずはウリエルの捜索から始める。会議は以上だ」

 ミカエルから閉会の宣言がされみな席を立っていく。ラグエルも立ち上がるがその姿はやつれて見えた。ゆっくりとした足取りで部屋を出ていく。

 頭が混乱している。未来消失。三柱戦争。それだけでない、ヘブンズ・ゲートの再開まで視野に入ってきた。

 なにより。

(ウリエル様)

 あの日、あの夜、無人となった町で彼は彼女を見送った。

 悲しい顔をして、人類を悼む裏切り者の最後を見たのだ。

 彼女まで、この騒動に巻き込まれる。

 これ以上彼女を悲しませたくない。

 運命は、いったいどこまで彼女に厳しいのか。



 ミカエルたちの会議が終わってから、ガブリエルは自室へ戻るため廊下を一人で歩いていた。

「待って」

 そこへ声が掛けられる。

 振り返ればそこにはラファエルがいた。敵対的というわけではない。けれどいつもの穏やかな雰囲気ではなかった。

 ラファエルはガブリエルを呼び止めると近づいてくる。背の高い彼女をやや険を帯びた目で見上げた。

「どういうこと? ヘブンズ・ゲートを開けるなんて。あなたらしくないわ」

 ヘブンズ・ゲートは開ける開けない以前に禁忌だ。使用するという選択肢がそもそも存在しない。それを無理矢理開けるなどそんなやり方は彼女らしくない。

「さきほど言ったとおりだ。このことに関しては天羽長であるミカエルに決定権がある」

 が、答える彼女はいつも通り平然としている。厳格な彼女のままだ。

「その独断が通じないよう門には四つの鍵が掛けてある。四つの鍵とは四つの意思、四つすべての同意によって開けるもの。その理屈は通じないわ」

 ガブリエルの答えに彼女も食い下がる。ここで引くわけにはいかない。

 ミカエルに決定権があるという消極的な理由。やはり彼女らしくない。ガブリエルとは二千年のつき合いだ、なにかあるに違いない。

「ガブリエル。教えて。どうしてヘブンズ・ゲートを開けようと思ったのか。なにか理由があるんでしょう?」

 それが知りたい。いったいヘブンズ・ゲートを開けようとする理由とはなんなのか。

 ラファエルの質問に誤魔化せないと悟ったか、ガブリエルは視線を若干下げると、小さな声で答えた。

「……候補者が見つかった」

「候補者?」

 言われてもなんの候補者か分からない。それで聞き返すが、ガブリエルは今度はラファエルの顔を見て答えた。

 それだけに、これは重大なことだった。

「ルフィアの系譜だ」

「!?」

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