天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

俺たちの使命はなんだ? 人類を守ることだろ?

 それで、三柱戦争の勝敗が分かれるかもしれない。これはそれくらい重大なことだった。

 ことの重要性からミカエルの声も真剣だ。そこにおどけた調子はない。

「よって、最悪の事態を考慮した備えが必要だと考える。そして、その手段としてヘブンズ・ゲートの再開は効果的であり、急務といえる」

「ミカエル様」

 そんな彼に悲観な響きで声を上げたのは、ラグエルだった。

「あなた様の考えはここにいるみなが分かっているのです」

 ラグエルはミカエルを見ていない。視線を下げなにもないテーブルを見つめている。

「ですが、それはあまりにも多くの問題をはらんでいます。三柱戦争のためとはいえ簡単に容認することなどできません。それに、先の大戦でもヘブンズ・ゲートは使わなかった」

 ラグエルの表情は暗い。ヘブンズ・ゲートを開くことを心の底から避けたいようだ。なにより、それが悲しいことだと痛んでいるような顔だった。

 それが分からぬミカエルではないが動じない態度で言い返してくる。

「かつての大戦時の信仰者数は現代とは比べものにならない。無我無心が誕生してからこれ以上柱となる神が増えぬよう、輪廻界ができた。それ以降地上の人間は全員信仰者となったんだ。質においてもまったく違う。現在何人のレジェンドがいると思っている」

「しかし」

 ラグエルに焦りが生まれる。ミカエルが言うことも尤もだし、それ以上に強い意思を感じる。どう反論してもミカエルは開けるつもりだ。

 なにか。なにか手はないのか。この流れを変える方法を思案していた。

「世界改変を受け付けない鎧ならすでにある。レジェンド相手でも天羽なら相手はできる」

 反対にミカエルにぶれはない。不動な態度でラグエルの説得に入る。この戦い、勝利を確実なものとするためヘブンズ・ゲートの運用は欠かせない。そう結論つけているミカエルは淡々と話していく。

「稼働すると決めたわけではない。しかし準備は整えておくべきだ。いつでも使えるよう用意だけはしておいた方がいい」

「それは運用するのと同義です」

 しかしラグエルも引き下がらない。今まで下げていた目をミカエルに向けた。

 かしこまった態度だが、その目は強かった。

 対して、ミカエルも引かぬ態度で答える。

「どうかお考え直しを。まだ開戦すると決まったわけではありません」

「開戦してからでは遅い」

「約束を守れぬ者にどうやって平和が作れますかッ」

 緊迫した雰囲気がさらに張りつめる。二人とも気迫を宿し相手を見た。

「…………」

「…………」

 無言の間が続く。重苦しい沈黙が会議室の空気を沈めていった。

「私はラグエルに賛成よ」

 そこでラファエルが口を開いた。二人では決着がつかない。ラグエルへの賛成を示し優勢へと傾ける。主張の内容ではなく賛同数で援護した。

 これで意見はニ対一だ。ミカエルは自身の票を集めなくてはならない。

「サリエル、君は」

 それで左側にいるサリエルへと目だけを向けた。サリエルは背もたれに体を反らし顔を天井に向けている。

 ふしだらな態度だ。だが彼も馬鹿ではない。見た目はこうだが彼なりにちゃんと考えている。

 それで、ぽつりとつぶやいた。

「備えあれば憂いなし、か」

「ちょっと!」

 返答に驚いたのはラファエルだ。まさかの発言に口先が尖る。

 その反応にサリエルは嫌そうな表情を浮かべ姿勢を戻した。

「仕方がねえだろ。ここまできて開戦を前提とした備えをしないなんて楽天家もいいとこだよ。俺たちの使命はなんだ? 人類を守ることだろ?」

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