天下界の無信仰者(イレギュラー)
剣は騎士の証だったな
「押収されていたあなたの剣です。話は以上です。下がりなさい」
エリヤは大剣を受け取る。二人で運ばれていたその巨大すぎる武器の柄はしかし手のひらにしっくりとくる。長年愛用してきた大剣は自分の体の一部のようで、誰よりも共に戦っていた戦友だ。
エリヤは片手で持ち上げるとその大きな刃を見上げた。振り返る過去の思い出にどこか遠い目で相棒を見る。
「剣は騎士の証だったな」
そうして懐かしい時間を過ごした後、彼は別れを口にした。
「これはここに置いていくわ」
エリヤは剣先を床に付け、運んできてくれた二人に剣を渡した。放られる大剣に二人が慌てて受け止めた。
「いいのですか」
「ああ」
マルタからの確認にエリヤは躊躇うことなくそう言う。大切な大剣ではあるが惜しい気持ちはなかった。自分に騎士を名乗る資格なんてない。これがその証だというのなら置いていっていい。そう思った。
「悪かったな」
エリヤはマルタにそう言うとエノクを見つめた。この大剣はエノクに買い戻してもらったものだ。それを手放すことに申し訳ない気持ちになる。
「悪い、せっかく――」
「話しかけるな」
「…………」
が、それすらも許されなかった。エノクは拒絶の色がありありと表しきっぱりと言い切る。自分が悪いとはいえ弟にまでそうした反応をされるとは。エリヤは黙ったまま何度も頷いた。そのまま踵を返し扉へと向かっていく。大きな背中は寂しそうだった。
去りゆくその背中を大勢の者が見つめる。だが、呼び止める声は一人もいなかった。
扉の外では壁に背もたれたシルフィアが待っていた。心配そうに足元を見つめていたが扉が開かれたことで勢いよく顔を上げる。そこに兄の姿を見つけ慌てて駆け寄ってきた。
「兄さん! あの、いったいどんな話だったんですか?」
心配そうに見上げてくる妹にエリヤはなにも言えなかった。正直構う余裕すらない。
「シルフィア、今は一人にしてくれ」
「でも」
「頼む。気持ちはうれしいが今は一人がいいんだ」
今回の件はエリヤといえど堪えた。聖騎士の剥奪、謹慎。そんなことはどうでもいい。名誉に固執する性質でもないし働き者というわけでもない。
自分の行動が迷惑をかけた。邪魔になってしまった。そのことがなによりもエリヤの胸を重くしていた。
こんなエリヤは珍しい。シルフィアも真剣な顔でエリヤを見上げ続ける。
「兄さん……。でも!」
「シルフィア! 分かってくれ……」
彼女の気持ちはうれしい。心配してくれる気持ちは理解できる。でも、一人にして欲しかった。その気持ちを有り難いことだと理解していても今は一人がよかった。
だが、シルフィアは続けた。
「いえ、そうではなく、どの道私は兄さんの保護観察者なので一緒にいなければならないのですが……」
「…………」
ぽん。ぽん。ぽん。ぽーん。
「……はあ、そうだったな」
忘れていた。そうだ、自分はあろうことか神官長に剣を向け逮捕されたんだった。自分の見張り役として身内のシルフィアがここにいる。
そういうことなら仕方がない。
「ほら、兄さん行きますよ」
「……はい」
エリヤはいろいろと複雑な気分でシルフィアと一緒に帰路につくのだった。
エリヤは大剣を受け取る。二人で運ばれていたその巨大すぎる武器の柄はしかし手のひらにしっくりとくる。長年愛用してきた大剣は自分の体の一部のようで、誰よりも共に戦っていた戦友だ。
エリヤは片手で持ち上げるとその大きな刃を見上げた。振り返る過去の思い出にどこか遠い目で相棒を見る。
「剣は騎士の証だったな」
そうして懐かしい時間を過ごした後、彼は別れを口にした。
「これはここに置いていくわ」
エリヤは剣先を床に付け、運んできてくれた二人に剣を渡した。放られる大剣に二人が慌てて受け止めた。
「いいのですか」
「ああ」
マルタからの確認にエリヤは躊躇うことなくそう言う。大切な大剣ではあるが惜しい気持ちはなかった。自分に騎士を名乗る資格なんてない。これがその証だというのなら置いていっていい。そう思った。
「悪かったな」
エリヤはマルタにそう言うとエノクを見つめた。この大剣はエノクに買い戻してもらったものだ。それを手放すことに申し訳ない気持ちになる。
「悪い、せっかく――」
「話しかけるな」
「…………」
が、それすらも許されなかった。エノクは拒絶の色がありありと表しきっぱりと言い切る。自分が悪いとはいえ弟にまでそうした反応をされるとは。エリヤは黙ったまま何度も頷いた。そのまま踵を返し扉へと向かっていく。大きな背中は寂しそうだった。
去りゆくその背中を大勢の者が見つめる。だが、呼び止める声は一人もいなかった。
扉の外では壁に背もたれたシルフィアが待っていた。心配そうに足元を見つめていたが扉が開かれたことで勢いよく顔を上げる。そこに兄の姿を見つけ慌てて駆け寄ってきた。
「兄さん! あの、いったいどんな話だったんですか?」
心配そうに見上げてくる妹にエリヤはなにも言えなかった。正直構う余裕すらない。
「シルフィア、今は一人にしてくれ」
「でも」
「頼む。気持ちはうれしいが今は一人がいいんだ」
今回の件はエリヤといえど堪えた。聖騎士の剥奪、謹慎。そんなことはどうでもいい。名誉に固執する性質でもないし働き者というわけでもない。
自分の行動が迷惑をかけた。邪魔になってしまった。そのことがなによりもエリヤの胸を重くしていた。
こんなエリヤは珍しい。シルフィアも真剣な顔でエリヤを見上げ続ける。
「兄さん……。でも!」
「シルフィア! 分かってくれ……」
彼女の気持ちはうれしい。心配してくれる気持ちは理解できる。でも、一人にして欲しかった。その気持ちを有り難いことだと理解していても今は一人がよかった。
だが、シルフィアは続けた。
「いえ、そうではなく、どの道私は兄さんの保護観察者なので一緒にいなければならないのですが……」
「…………」
ぽん。ぽん。ぽん。ぽーん。
「……はあ、そうだったな」
忘れていた。そうだ、自分はあろうことか神官長に剣を向け逮捕されたんだった。自分の見張り役として身内のシルフィアがここにいる。
そういうことなら仕方がない。
「ほら、兄さん行きますよ」
「……はい」
エリヤはいろいろと複雑な気分でシルフィアと一緒に帰路につくのだった。
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