天下界の無信仰者(イレギュラー)
よって、あなたから聖騎士の地位を剥奪し、無期限の謹慎とします
熱くなるエリヤに、けれどマルタは冷静だった。
「そうですか。世界を思う心がけは立派です。ですが、暴力で解決しようとするのはいけません」
まったくもって正論だ。エリヤは視線を落とす。それに関しては認めざるを得なかった。
「聖騎士である者が、よりにもよって神官長に刃を向けた今回の騒動。神官庁側の配慮により対処は我々に任せていただくことになりましたが、当然、総教会庁は今回の不祥事を重く受け止めています」
今回の事件は置き換えれば政府高官が教皇に刃を向けたようなものだ。事件も大事件、号外が道端で配られるレベルだ。
許されるものではない。聖騎士を束ねる教皇として判決を言い渡す。
「エリヤ。よって、あなたから聖騎士の地位を剥奪し、無期限の謹慎とします」
「マルタ!」
言い渡される処罰にエリヤが叫ぶ。たしかに自分のとった行動はいけないものだったかもしれないが、それも平和のためだった。大切な人を守ろうとしただけだった。
だが、彼の気持ちは考慮に値しない。
「この処分は決定事項です。議論の余地はありません。この決定を不服と思うなら聖騎士隊からの除隊とします」
断言されてしまった。エリヤは悔しそうにマルタを見るが彼女の平静な表情は一向に変わらない。
「じゃあどうすればよかったんだよ!? ただじっと待ってればよかったのか?」
「控えろエリヤ!」
そこでラグエルが口を挟んできた。エリヤは振り返ってラグエルを睨むがそれに負けないほどの力強さでラグエルはエリヤを見つめてきた。
「軍事予算追加案を懸念していたのはお前だけではない。この後教皇様と神官長様で会談が予定されている。マルタ様はその席で予算案撤回を言うおつもりだったのだ」
「なに」
知らなかった。今し方伝えられる内容に怒りがスッと消えていく。
自分だけでなく、教皇も今回のことを案じていたなんて。考えれば分かることだった。誰が見ても追加予算案は一長一短、危機感を露わにする人は表れる。
優しく穏やかなマルタ女教皇ならなおさらだ。それを一時の勢いに任せ考えることをしなかった。
「だが、おまえの軽はずみな行動のせいで不利となった。モーゼ様はあれでしたたかだ。おまえのことを利用するだろう」
「…………」
言葉が出ない。自分がよかれと思った行動が、まさか撤回させようとしていた教皇の邪魔になるなんて。
これでは無駄どころか逆効果だ。エリヤの顔がうつむいていく。
「エリヤ。おまえの勝手がどれだけ迷惑か分かったか?」
静かだけれど鋭い声が突き刺さる。エリヤはなにも言い返せなかった。顔を下に落とし浴びせられる視線に耐える。
「お前さえいなければ――」
「ラグエル委員長。その辺で止めていただけませんか」
ラグエルの度重なる追及をマルタが制する。それでラグエルの追及が止まった。
「……失礼しました、マルタ女教皇。出過ぎた行動をお許しください」
「いえ、あなたを責める道理などありません」
ラグエルはマルタに頭を下げ口を噤む。ラグエルを諫めた後でマルタはエリヤに視線を移した。
「エリヤ。あなたの気持ちは理解しています。ですが、たとえ正義であろうとも力に任せた行動は周りに害を与えます。特に、今回の件は免責するには大きすぎます」
「……みたいだな」
エリヤは見上げることなくつぶやいた。
騎士たちの中から二人がエリヤに近づく。その手にはエリヤの大剣が握られており二人がかりで運んでくる。
「そうですか。世界を思う心がけは立派です。ですが、暴力で解決しようとするのはいけません」
まったくもって正論だ。エリヤは視線を落とす。それに関しては認めざるを得なかった。
「聖騎士である者が、よりにもよって神官長に刃を向けた今回の騒動。神官庁側の配慮により対処は我々に任せていただくことになりましたが、当然、総教会庁は今回の不祥事を重く受け止めています」
今回の事件は置き換えれば政府高官が教皇に刃を向けたようなものだ。事件も大事件、号外が道端で配られるレベルだ。
許されるものではない。聖騎士を束ねる教皇として判決を言い渡す。
「エリヤ。よって、あなたから聖騎士の地位を剥奪し、無期限の謹慎とします」
「マルタ!」
言い渡される処罰にエリヤが叫ぶ。たしかに自分のとった行動はいけないものだったかもしれないが、それも平和のためだった。大切な人を守ろうとしただけだった。
だが、彼の気持ちは考慮に値しない。
「この処分は決定事項です。議論の余地はありません。この決定を不服と思うなら聖騎士隊からの除隊とします」
断言されてしまった。エリヤは悔しそうにマルタを見るが彼女の平静な表情は一向に変わらない。
「じゃあどうすればよかったんだよ!? ただじっと待ってればよかったのか?」
「控えろエリヤ!」
そこでラグエルが口を挟んできた。エリヤは振り返ってラグエルを睨むがそれに負けないほどの力強さでラグエルはエリヤを見つめてきた。
「軍事予算追加案を懸念していたのはお前だけではない。この後教皇様と神官長様で会談が予定されている。マルタ様はその席で予算案撤回を言うおつもりだったのだ」
「なに」
知らなかった。今し方伝えられる内容に怒りがスッと消えていく。
自分だけでなく、教皇も今回のことを案じていたなんて。考えれば分かることだった。誰が見ても追加予算案は一長一短、危機感を露わにする人は表れる。
優しく穏やかなマルタ女教皇ならなおさらだ。それを一時の勢いに任せ考えることをしなかった。
「だが、おまえの軽はずみな行動のせいで不利となった。モーゼ様はあれでしたたかだ。おまえのことを利用するだろう」
「…………」
言葉が出ない。自分がよかれと思った行動が、まさか撤回させようとしていた教皇の邪魔になるなんて。
これでは無駄どころか逆効果だ。エリヤの顔がうつむいていく。
「エリヤ。おまえの勝手がどれだけ迷惑か分かったか?」
静かだけれど鋭い声が突き刺さる。エリヤはなにも言い返せなかった。顔を下に落とし浴びせられる視線に耐える。
「お前さえいなければ――」
「ラグエル委員長。その辺で止めていただけませんか」
ラグエルの度重なる追及をマルタが制する。それでラグエルの追及が止まった。
「……失礼しました、マルタ女教皇。出過ぎた行動をお許しください」
「いえ、あなたを責める道理などありません」
ラグエルはマルタに頭を下げ口を噤む。ラグエルを諫めた後でマルタはエリヤに視線を移した。
「エリヤ。あなたの気持ちは理解しています。ですが、たとえ正義であろうとも力に任せた行動は周りに害を与えます。特に、今回の件は免責するには大きすぎます」
「……みたいだな」
エリヤは見上げることなくつぶやいた。
騎士たちの中から二人がエリヤに近づく。その手にはエリヤの大剣が握られており二人がかりで運んでくる。
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