天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

この大馬鹿者が!

「物理的な干渉や侵入を封じ、空間転移、時間操作、平行世界干渉、世界改変。すべてを無効化するものです。本体である大結界をサン・ジアイ大聖堂に行い、さらに大結界を守る小結界を四方に設置します。施行は大規模に渡り時間と費用はかかりますが、必要なことかと」

「ふむ」

 ミカエルからの説明にモーゼは小さく頷いた。戦争となれば攻めるのも重要だが守ることも大切だ。この五次元結界ならば超長距離攻撃から次元攻撃まで防げる。やらない手はない。

 モーゼは他の神官たちにも目を配るが反論の声は出てこなかった。

「よろしい。ではラファエル君と協議を。追加予算の金額、ならびに使い道の説明を行い法案が通り次第すみやかに執行してもらうように」

「ではその任は私がやりましょう」

「君にまかせるよミカエル君。それと、さきほどのエリヤ君の件だが」

 神官会議に乱入しあまつさえ神官長に武器を向けた無法者のエリヤだが法の裁きは必要だ。だが、モーゼは変わらぬ笑顔で言う。

「時期が時期だ、なるべく穏便に片づけたい」

「同感です神官長。ですが彼はあなたに剣を向けましたのでね、それ相応の処罰はしておかなければ」

「近々教皇と会談がある。おそらく軍事予算の件で彼女も言いたいことがあるのだろう。それだけが頭痛の種だったのだが」

 軍事予算案はなんとしても通過させなければならない法案だ。今後のことを考えれば必須といえる。ただ総教会庁からの反発だけを懸念していたが、それもさきほどの出来事で消え失せた。

 神官長モーゼは、ニッコリ笑うのだった。

「エリヤ君はほんとうにいい子だよ」



 エリヤが連行されてから数時間後。留置所の一室にあるベッドにエリヤは寝そべっていた。鉄格子の窓から夕日が差し込む部屋で両手を頭の下に置き足を組む。ふてくされた顔をするがなにをするでもなくエリヤはじっとしていた。

 そこへ足音が聞こえてくる。よく響くが歩調は荒々しい。エリヤは目をあけ廊下へと顔を向けた。誰だろうか? 大きなきな足音からして看守ではない。とすると。

 廊下から表れた人物。それはラグエルだった。エリヤの表情が嫌そうにゆがむ。

 それとほぼ同時、ラグエルの声帯が爆発した。

「お前は馬鹿かぁああ!」

 エリヤは耳を塞ぎながら上体を起こした。あまりの大きさに音が反響している。

「うるせえな、もう言われたよ。てかな、俺のやり方が間違ってたのは認めるがそれでも」

「黙れぇえ!」

 話も聞いてくれない。ラグエルの顔は鬼のようであり顔も紅潮していた。

「お前のしたことがどれほどのことかお前は分かっていないからそうも平然としていられるのだ!」

「悪かったよ」

 やったことが悪かったのは事実なので一応謝っておく。

「この大馬鹿者が!」

「分かったって!」

 なのにラグエルの怒りは収まらない。何度も大声で怒鳴りエリヤを責めてくる。エリヤも最初はなにか言い返してやろうと思っていたが途中から面倒くさくなり「はい。はい」と相づちを打っていた。

 それでようやくラグエルも落ち着きを取り戻してきたようで、一回深呼吸をすると乱れた胸元をただした。そして疲れた顔を浮かべ話し出す。

「なぜこんなことをした……。いや、答えなくていい。出ろ。釈放だ」

「釈放?」

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