天下界の無信仰者(イレギュラー)
三柱戦争という明確な予想に基づいて
その一言はすさまじい重圧となってこの場を覆った。
三柱戦争。すべての信仰者たちによって行われる大戦。
天下界に存在する三大勢力。
慈愛連立。
琢磨追求。
無我無心。
かつて行われた二柱戦争。その続き。第二次世界大戦とも言える、暗黒時代の予想だった。
重苦しい雰囲気の会議室だが、ミカエルは空気を変えるように口を開いた。
「これはスパルタ帝国も分かっていることだ。近年の軍拡や軍事演習も他国への挑発ではない。本質はその逆、牽制だ。そちらがやる気ならこちらも全力で行ってやるという決意の表れなんだよ」
その通り。これはなにもゴルゴダ共和国だけが知っている問題ではない。世界中で起きている予兆だ。スパルタやコーサラ国の上位信仰者なら認知している。そしてスパルタ帝国はすでに行動に移している。分かる者には分かるように、明確に。
天下界ではこの時、水面下で激しい情報戦や政治的駆け引きが行われていた。まだ主立った衝突こそないものの、いつ戦闘になるか分からない冷戦そのもの。ゴルゴダ共和国もスパルタ帝国もコーサラ国も、すべてが未来消失という未曾有の事態に警戒していた。
三柱戦争という明確な予想に基づいて。
しかし、本当は違った。これからさきで起こることはまったく別のものだったのだ。
それこそが、近代において最凶最悪の戦争と言われる、魔王戦争だった。
まだこのときそれを知る者は誰もいない。そうだと想像する者もいない。だがそれも致し方ない。この時代、思い至る可能性などそれしかなかったのだ。
この時はまだ、全員が三柱戦争だと信じて疑わなかった。
「我々は未来を失った。そして先日開かれた神官会議で一つの法案が可決した。今年度の軍事予算だが急遽増額される」
「!?」
これは神官の一員であるミカエルしか知り得ないことであり、他のメンバーも今知ったところだった。
「ほんとうに?」
今し方知った内容にラファエルが聞き返す。
軍事予算の増額。これは他国から見れば挑発行為だ。戦争を意識しているという明確な宣言なのだから。
「その確認になんの意味があるラファエル。ここで嘘をついても調べればすぐに分かることだろ。いや、しばらく待てば君たちのところにも通達がくるさ。君は決まったルールに則りそれを行使すればいい」
「だけど!」
「これは、神官会議による決定だ。神官長殿も顔を縦に振った」
「そんな……」
立法を司るのは神官の役目だ。さらには政治の全権を握る神官長までもが容認しているのであれば覆しようがない。
頭では理解している。ラファエルは聡明な女性だ、それが分からない彼女ではない。だが同時に善良な性根の持ち主でもある。
「三柱戦争に備えて三柱戦争が起きてたら本末転倒じゃない……」
表情は暗い。このまま行けば結末は火を見るよりも明らかだ。底なし沼だと分かっているのに足を踏み込んでいくかのような暗澹たる思い。
そんな暗いラファエルに対しサリエルは皮肉った笑い声を出した。
「は、戦争か。なつかしいな」
「サリエル、口を慎め。戦禍を悼むならともかく、懐かしむなど」
それをラグエルが諫めた。この事態にラグエルも内心穏やかではない。そんな中サリエルの態度は見逃せるものではなかった。
「…………」
それにサリエルは即座には答えず、ラグエルを一瞥した。
三柱戦争。すべての信仰者たちによって行われる大戦。
天下界に存在する三大勢力。
慈愛連立。
琢磨追求。
無我無心。
かつて行われた二柱戦争。その続き。第二次世界大戦とも言える、暗黒時代の予想だった。
重苦しい雰囲気の会議室だが、ミカエルは空気を変えるように口を開いた。
「これはスパルタ帝国も分かっていることだ。近年の軍拡や軍事演習も他国への挑発ではない。本質はその逆、牽制だ。そちらがやる気ならこちらも全力で行ってやるという決意の表れなんだよ」
その通り。これはなにもゴルゴダ共和国だけが知っている問題ではない。世界中で起きている予兆だ。スパルタやコーサラ国の上位信仰者なら認知している。そしてスパルタ帝国はすでに行動に移している。分かる者には分かるように、明確に。
天下界ではこの時、水面下で激しい情報戦や政治的駆け引きが行われていた。まだ主立った衝突こそないものの、いつ戦闘になるか分からない冷戦そのもの。ゴルゴダ共和国もスパルタ帝国もコーサラ国も、すべてが未来消失という未曾有の事態に警戒していた。
三柱戦争という明確な予想に基づいて。
しかし、本当は違った。これからさきで起こることはまったく別のものだったのだ。
それこそが、近代において最凶最悪の戦争と言われる、魔王戦争だった。
まだこのときそれを知る者は誰もいない。そうだと想像する者もいない。だがそれも致し方ない。この時代、思い至る可能性などそれしかなかったのだ。
この時はまだ、全員が三柱戦争だと信じて疑わなかった。
「我々は未来を失った。そして先日開かれた神官会議で一つの法案が可決した。今年度の軍事予算だが急遽増額される」
「!?」
これは神官の一員であるミカエルしか知り得ないことであり、他のメンバーも今知ったところだった。
「ほんとうに?」
今し方知った内容にラファエルが聞き返す。
軍事予算の増額。これは他国から見れば挑発行為だ。戦争を意識しているという明確な宣言なのだから。
「その確認になんの意味があるラファエル。ここで嘘をついても調べればすぐに分かることだろ。いや、しばらく待てば君たちのところにも通達がくるさ。君は決まったルールに則りそれを行使すればいい」
「だけど!」
「これは、神官会議による決定だ。神官長殿も顔を縦に振った」
「そんな……」
立法を司るのは神官の役目だ。さらには政治の全権を握る神官長までもが容認しているのであれば覆しようがない。
頭では理解している。ラファエルは聡明な女性だ、それが分からない彼女ではない。だが同時に善良な性根の持ち主でもある。
「三柱戦争に備えて三柱戦争が起きてたら本末転倒じゃない……」
表情は暗い。このまま行けば結末は火を見るよりも明らかだ。底なし沼だと分かっているのに足を踏み込んでいくかのような暗澹たる思い。
そんな暗いラファエルに対しサリエルは皮肉った笑い声を出した。
「は、戦争か。なつかしいな」
「サリエル、口を慎め。戦禍を悼むならともかく、懐かしむなど」
それをラグエルが諫めた。この事態にラグエルも内心穏やかではない。そんな中サリエルの態度は見逃せるものではなかった。
「…………」
それにサリエルは即座には答えず、ラグエルを一瞥した。
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