天下界の無信仰者(イレギュラー)
遺憾だな
監視委員会委員長、ラグエルは少々苛立っていた。いや、苛立つという表現は相応しくない。今の彼を表すなら急いでいた、だ。廊下を進む歩調はいつもより早い。目つきは分かりづらいが普段よりも険を露わにしている。
というのも、これから大事な会議が待っているのが分かっていながら事前の仕事に想定より手間取り、予定よりも時間が押しているからだ。失態だ。情けない。遅刻を嫌う質だからこそ自分が許せない。だから彼は苛立ちつつも焦っていた。
ラグエルは少々早い速度で廊下を進んでいく。走ることはしない。走ったところでもう間に合うものではないし、自ら情けない姿を晒すこともないだろう。
そうしてラグエルは廊下の角を曲がり一つの扉の前にきた。両開きの大きな会議室の前だ。ラグエルは正面で立ち止まると今一度自分の服装に乱れがないか確認し、装飾の凝った取っ手を掴んだ。扉を押し部屋へと入る。
「遅くなりました」
短い謝罪を口にし自分の定位置へと進む。
部屋には白のテーブルクロスが敷かれた長方形のテーブルが置かれており、天井にはシャンデリアが垂れ下がり部屋の隅に置かれた芸術品が洗練された豪華さを演出している。
そして、テーブルにはすでに四人の者たちが着席していた。
右手前には司法庁長官サリエル。右奥に行政庁長官ラファエル。
左手前にラグエルが座り、左奥には国務長官ガブリエル。
そして、中央奥には神官ミカエルが座っていた。
「おめえが遅刻とはな」
「あなたにしては珍しいわね」
サリエルが感想をこぼす。ラファエルも珍しい出来事に柔らかい声で話しかけた。
「申し訳ありません」
そう言いながらラグエルは椅子を引き着席する。
「なにかトラブルか?」
「いえ、そのようなことは」
ガブリエルからの静かな質問にも多くは語らず答えを切る。
「いやぁ、残念なことだけどラグエルという男にもミスはあるということさ。まったく残念だよ」
そこへミカエルの嫌味をはらんだ鋭い視線が向けられた。自分たちの裏の顔、その長たる男の言葉にラグエルは小さく頭を下げる。
「……すみません、ミカエル様」
「いいわよいちいち謝らなくても。それよりも話を進めましょう」
ミカエルのちゃちはいつものことだ。ラファエルらしい気遣いで話は早々に移った。
「ではさっそく話に入ろうか」
ミカエルの不敵な笑みは相変わらずだ、人の悪い笑顔が浮かんでいる。けれど話が変わったことで持ち上がった口元を引き締め、背もたれに体を預けた。
これは天羽たちによる臨時の会議だった。天界紛争が終結し天羽は地上を去った。しかし一部だけは堕天羽を監視し人類を見守るためにここに残っていた。あくまで人類に混ざりその手助けをするためだ、神の使命を続行するためのものではない。そのためこうして集まって会議をするなど最近ではほとんどなかったのだが、近年無視できない問題が発生している。
そのために、彼ら天羽は一堂に会していた。
その長、神官という役職に就いているミカエルが口を開く。
「みなも知っての通りだが、スパルタ軍の示威行為が止まらない。先日も大規模な軍事演習が行われた。ガブリエル、君からなにかコメントは?」
「遺憾だな」
ミカエルから話を振られたガブリエルは腕を組み目を瞑ったまま答えた。
「ククク。シカトぶっこかれたらそりゃそうだろうな」
ガブリエルの立場にサリエルが笑っている。
今、世界は大きな暗雲に包まれている。肌に感じるほどの戦争の気配。分かりやすい恐怖に民衆からも不安の声が上がっている。
というのも、これから大事な会議が待っているのが分かっていながら事前の仕事に想定より手間取り、予定よりも時間が押しているからだ。失態だ。情けない。遅刻を嫌う質だからこそ自分が許せない。だから彼は苛立ちつつも焦っていた。
ラグエルは少々早い速度で廊下を進んでいく。走ることはしない。走ったところでもう間に合うものではないし、自ら情けない姿を晒すこともないだろう。
そうしてラグエルは廊下の角を曲がり一つの扉の前にきた。両開きの大きな会議室の前だ。ラグエルは正面で立ち止まると今一度自分の服装に乱れがないか確認し、装飾の凝った取っ手を掴んだ。扉を押し部屋へと入る。
「遅くなりました」
短い謝罪を口にし自分の定位置へと進む。
部屋には白のテーブルクロスが敷かれた長方形のテーブルが置かれており、天井にはシャンデリアが垂れ下がり部屋の隅に置かれた芸術品が洗練された豪華さを演出している。
そして、テーブルにはすでに四人の者たちが着席していた。
右手前には司法庁長官サリエル。右奥に行政庁長官ラファエル。
左手前にラグエルが座り、左奥には国務長官ガブリエル。
そして、中央奥には神官ミカエルが座っていた。
「おめえが遅刻とはな」
「あなたにしては珍しいわね」
サリエルが感想をこぼす。ラファエルも珍しい出来事に柔らかい声で話しかけた。
「申し訳ありません」
そう言いながらラグエルは椅子を引き着席する。
「なにかトラブルか?」
「いえ、そのようなことは」
ガブリエルからの静かな質問にも多くは語らず答えを切る。
「いやぁ、残念なことだけどラグエルという男にもミスはあるということさ。まったく残念だよ」
そこへミカエルの嫌味をはらんだ鋭い視線が向けられた。自分たちの裏の顔、その長たる男の言葉にラグエルは小さく頭を下げる。
「……すみません、ミカエル様」
「いいわよいちいち謝らなくても。それよりも話を進めましょう」
ミカエルのちゃちはいつものことだ。ラファエルらしい気遣いで話は早々に移った。
「ではさっそく話に入ろうか」
ミカエルの不敵な笑みは相変わらずだ、人の悪い笑顔が浮かんでいる。けれど話が変わったことで持ち上がった口元を引き締め、背もたれに体を預けた。
これは天羽たちによる臨時の会議だった。天界紛争が終結し天羽は地上を去った。しかし一部だけは堕天羽を監視し人類を見守るためにここに残っていた。あくまで人類に混ざりその手助けをするためだ、神の使命を続行するためのものではない。そのためこうして集まって会議をするなど最近ではほとんどなかったのだが、近年無視できない問題が発生している。
そのために、彼ら天羽は一堂に会していた。
その長、神官という役職に就いているミカエルが口を開く。
「みなも知っての通りだが、スパルタ軍の示威行為が止まらない。先日も大規模な軍事演習が行われた。ガブリエル、君からなにかコメントは?」
「遺憾だな」
ミカエルから話を振られたガブリエルは腕を組み目を瞑ったまま答えた。
「ククク。シカトぶっこかれたらそりゃそうだろうな」
ガブリエルの立場にサリエルが笑っている。
今、世界は大きな暗雲に包まれている。肌に感じるほどの戦争の気配。分かりやすい恐怖に民衆からも不安の声が上がっている。
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