天下界の無信仰者(イレギュラー)
ソファで寝てますよ
「ソファで寝てますよ」
「ソファで?」
エノクは台所から離れリビングへと向かう。テレビが置かれた対面にはソファが並んでいるが、背もたれの向こう側を見ればそこにはエリヤが横になっていた。
「う~、頭が痛い~」
「まったく」
落胆する。がっかりする。この光景をあと何度見ることになるのだろう。これがかつて憧れた男の姿とは思いたくない。命を救われたというのもあるが、自分の目がこうも節穴だったことにも落胆する。
「また酒か兄さん」
今では愚兄と罵ることにためらいはない。
「私は止めたんですよ。なのに隠れて呑んでるんですから」
「兄さん、これ以上シルフィアに要らぬ心配をかけないでくれ。それに隠れて酒を飲むなんてあるまじき行いだ」
二人の言葉が聞こえたのかエリヤはうつ伏せになった。
「しゃあねえだろ、酒が俺を呼んでいたんだ」
「自分から言い寄ったの間違いだろう。そもそもなぜ信仰者なのにアルコールくらい分解できないんだ?」
「お前は酒を呑んだことがあるのかよ」
「生まれてこのかた一滴も口にしたことがない」
「寂しい人生送りやがって」
「なにか言ったか兄さん」
「なんでもねえよ」
「はあ」
まるで子供だ。自由気ままというか。そういうところは昔から変わっていない。
「まったく。私に勝った相手がアルコールに倒れるとは」
複雑だ。まったくもって。この感情を表す言葉が見つからない。
「信仰者というのは不思議なものですよね。神化によって強大な力を得ていても、本質的には人のままなんです。頑丈で力が強くても呼吸はするし、睡眠も取る。物理的な衝撃には強いんですけど、生物的な性質はそのままです。超人的だから忘れがちになりますが、信仰者といえど人間なんです」
シルフィアが台所から声をかけてくる。両手にお皿を持つとこちらに近づいてきた。なにやらいい匂いまで一緒だ。
「そして、人とは食事をするものです。どうぞ。朝食は一番大事な食事なんですから、残さず食べてくださいね」
ソファの前にあるテーブルに二人分の朝食が置かれる。トースト二枚にベーコンとスクランブルエッグ、盛りつけられたサラダ。立ち上る湯気に食欲を誘う臭いが鼻孔をつく。
「当然さ。いつもありがとう、シルフィア」
「エノク兄さんはそう言ってくれるから大好きです」
エノクの礼にシルフィアは笑顔で応えもう一人の兄に近づいていく。
「ほらエリヤ兄さん、朝食ですよ。朝ご飯」
「う~、起きたくない~」
エリヤは腕枕を作りソファに顔面を沈めていく。すると、シルフィアはエリヤの耳元に近づいた。
「あーさーごーはーん!」
「があああああ!」
シルフィアの大声にエリヤは飛び跳ねる魚のように起きあがった。
「やめろ! 耳元で大声出すんじゃねえよ頭が割れるじゃねえか!」
すぐにシルフィアに抗議するエリヤだがそんな彼に二人が反論する。
「自業自得だろう」
「兄さんの自業自得です」
「お前等ほんとうに息が合ってきたよな!」
どれだけエリヤが叫んだところで無駄な抵抗だ。エリヤはしぶしぶと座り直した。シルフィアは台所に戻るとコップを持って帰ってきた。
「ソファで?」
エノクは台所から離れリビングへと向かう。テレビが置かれた対面にはソファが並んでいるが、背もたれの向こう側を見ればそこにはエリヤが横になっていた。
「う~、頭が痛い~」
「まったく」
落胆する。がっかりする。この光景をあと何度見ることになるのだろう。これがかつて憧れた男の姿とは思いたくない。命を救われたというのもあるが、自分の目がこうも節穴だったことにも落胆する。
「また酒か兄さん」
今では愚兄と罵ることにためらいはない。
「私は止めたんですよ。なのに隠れて呑んでるんですから」
「兄さん、これ以上シルフィアに要らぬ心配をかけないでくれ。それに隠れて酒を飲むなんてあるまじき行いだ」
二人の言葉が聞こえたのかエリヤはうつ伏せになった。
「しゃあねえだろ、酒が俺を呼んでいたんだ」
「自分から言い寄ったの間違いだろう。そもそもなぜ信仰者なのにアルコールくらい分解できないんだ?」
「お前は酒を呑んだことがあるのかよ」
「生まれてこのかた一滴も口にしたことがない」
「寂しい人生送りやがって」
「なにか言ったか兄さん」
「なんでもねえよ」
「はあ」
まるで子供だ。自由気ままというか。そういうところは昔から変わっていない。
「まったく。私に勝った相手がアルコールに倒れるとは」
複雑だ。まったくもって。この感情を表す言葉が見つからない。
「信仰者というのは不思議なものですよね。神化によって強大な力を得ていても、本質的には人のままなんです。頑丈で力が強くても呼吸はするし、睡眠も取る。物理的な衝撃には強いんですけど、生物的な性質はそのままです。超人的だから忘れがちになりますが、信仰者といえど人間なんです」
シルフィアが台所から声をかけてくる。両手にお皿を持つとこちらに近づいてきた。なにやらいい匂いまで一緒だ。
「そして、人とは食事をするものです。どうぞ。朝食は一番大事な食事なんですから、残さず食べてくださいね」
ソファの前にあるテーブルに二人分の朝食が置かれる。トースト二枚にベーコンとスクランブルエッグ、盛りつけられたサラダ。立ち上る湯気に食欲を誘う臭いが鼻孔をつく。
「当然さ。いつもありがとう、シルフィア」
「エノク兄さんはそう言ってくれるから大好きです」
エノクの礼にシルフィアは笑顔で応えもう一人の兄に近づいていく。
「ほらエリヤ兄さん、朝食ですよ。朝ご飯」
「う~、起きたくない~」
エリヤは腕枕を作りソファに顔面を沈めていく。すると、シルフィアはエリヤの耳元に近づいた。
「あーさーごーはーん!」
「があああああ!」
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「やめろ! 耳元で大声出すんじゃねえよ頭が割れるじゃねえか!」
すぐにシルフィアに抗議するエリヤだがそんな彼に二人が反論する。
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