天下界の無信仰者(イレギュラー)
こいつは俺の家族となった
「それじゃ行こうか。しばらくの間我慢してな」
そうは言うが恥ずかしい。エノクは自分で歩けると抵抗しようとするが、それもできず彼の両腕に体を預けた。
すごく、安心感があったのを覚えている。大きな腕に支えられ、全身をまかせてもいいんだと思える気持ち。壁にじゃない、誰かに体を預けるという安らぎに包まれていた。
そうしているうちにエリヤは歩みを進め、一軒の家の前で立ち止まった。その家の庭では一人の女性が洗濯物を干していた。その女性がこちらに気づく。
「あらエリヤ。まだ当番でしょう。それにその子は?」
彼女の足元にはエノクほどの子供が二人おり元気に走り回っていた。
「こら、暴れないの。部屋の中で待っていなさい」
「はーい」
子供二人は走りながら家の中へと入っていった。小さな喧噪がいなくなり静かになる。
「拾った。うちで住ませてやりたい」
女性が近づいてくる。エリヤはエノクを静かに立たせた。門扉(もんぴ)が開かれ女性が表れる。怖い感じはしない。優しそうな女性だ。けれどエノクはエリヤの背後に回った。自分が邪魔な存在だと分かっているからだ。
そんなエノクを一目見て女性は微笑み、視線をエリヤへと戻した。
「分かりました。ですがエリヤ、今は人を増やせるほど余裕がないのですよ。食費だって今がやっとなのです。まずはそれをどうにかしなければ」
「…………」
彼女の言葉にエノクの目線が下がる。ここも同じ。今はどこの施設も余裕がなくて、自分は門前払いの厄介者だ。
やはり駄目か。そんな不安や恐怖が芽生える。
「くそ、なんでだよ。国はなにをしてやがる」
「神官庁は現在予算の使い道を軍備に回しています。孤児や失業者の受け入れ先は後回しのようですね」
「んだよ、足元をしっかりさせないで鎧だけ立派にしてどうするんだよ」
エリヤが愚痴をこぼす。その言葉遣いから苛立っているのが分かる。けれど感情だけではどうにもならない壁がある。どんなに思ったところで、どんなに救いたくても、できないことはできない。
厳しい現実がある。
「…………」
三人とも無言になった。すぐに出てこない答えに少しだけの沈黙が下りる。それにより雰囲気が暗くなる。
「今日から!」
「?」
その瞬間、エリヤが叫んだ。エノクは見上げた。そこには大きな背中がある。とても、とても大きな背中が。
「こいつは俺の家族となった」
家族。その言葉がエノクの胸に突き刺さる。
家族。不思議な響きを持っていた。家族を失った自分に、また、家族なんて言葉、言われることないと思っていたから。
「家族っていうのは嬉しいことも苦しいことも分かち合うもんだ。食事だってな」
エリヤは背後にいるエノクの肩をかるく叩いた。ただ、エノクにとってはけっこう強く小さな体が揺れてしまう。
エリヤは目の前の女性に言った。
「俺の分はこいつにやってくれ」
「!?」
エリヤの言葉にエノクは驚き、そして不安が薄れていくのが分かった。なにより小さな感動を受けている。そうまでして自分を救おうとしてくれている。そのことに感謝と感動が混濁となってあふれてきた。
「ですが、それではあなたの食事はどうするのですか?」
「そーだな~。公園にいる鳥でもシメて食ってるよ」
「いけません、そんなこと。狩人ですかあなたは」
「男はみんな狩人さ」
「そういうことを言っているのではありません。まったく」
そうは言うが恥ずかしい。エノクは自分で歩けると抵抗しようとするが、それもできず彼の両腕に体を預けた。
すごく、安心感があったのを覚えている。大きな腕に支えられ、全身をまかせてもいいんだと思える気持ち。壁にじゃない、誰かに体を預けるという安らぎに包まれていた。
そうしているうちにエリヤは歩みを進め、一軒の家の前で立ち止まった。その家の庭では一人の女性が洗濯物を干していた。その女性がこちらに気づく。
「あらエリヤ。まだ当番でしょう。それにその子は?」
彼女の足元にはエノクほどの子供が二人おり元気に走り回っていた。
「こら、暴れないの。部屋の中で待っていなさい」
「はーい」
子供二人は走りながら家の中へと入っていった。小さな喧噪がいなくなり静かになる。
「拾った。うちで住ませてやりたい」
女性が近づいてくる。エリヤはエノクを静かに立たせた。門扉(もんぴ)が開かれ女性が表れる。怖い感じはしない。優しそうな女性だ。けれどエノクはエリヤの背後に回った。自分が邪魔な存在だと分かっているからだ。
そんなエノクを一目見て女性は微笑み、視線をエリヤへと戻した。
「分かりました。ですがエリヤ、今は人を増やせるほど余裕がないのですよ。食費だって今がやっとなのです。まずはそれをどうにかしなければ」
「…………」
彼女の言葉にエノクの目線が下がる。ここも同じ。今はどこの施設も余裕がなくて、自分は門前払いの厄介者だ。
やはり駄目か。そんな不安や恐怖が芽生える。
「くそ、なんでだよ。国はなにをしてやがる」
「神官庁は現在予算の使い道を軍備に回しています。孤児や失業者の受け入れ先は後回しのようですね」
「んだよ、足元をしっかりさせないで鎧だけ立派にしてどうするんだよ」
エリヤが愚痴をこぼす。その言葉遣いから苛立っているのが分かる。けれど感情だけではどうにもならない壁がある。どんなに思ったところで、どんなに救いたくても、できないことはできない。
厳しい現実がある。
「…………」
三人とも無言になった。すぐに出てこない答えに少しだけの沈黙が下りる。それにより雰囲気が暗くなる。
「今日から!」
「?」
その瞬間、エリヤが叫んだ。エノクは見上げた。そこには大きな背中がある。とても、とても大きな背中が。
「こいつは俺の家族となった」
家族。その言葉がエノクの胸に突き刺さる。
家族。不思議な響きを持っていた。家族を失った自分に、また、家族なんて言葉、言われることないと思っていたから。
「家族っていうのは嬉しいことも苦しいことも分かち合うもんだ。食事だってな」
エリヤは背後にいるエノクの肩をかるく叩いた。ただ、エノクにとってはけっこう強く小さな体が揺れてしまう。
エリヤは目の前の女性に言った。
「俺の分はこいつにやってくれ」
「!?」
エリヤの言葉にエノクは驚き、そして不安が薄れていくのが分かった。なにより小さな感動を受けている。そうまでして自分を救おうとしてくれている。そのことに感謝と感動が混濁となってあふれてきた。
「ですが、それではあなたの食事はどうするのですか?」
「そーだな~。公園にいる鳥でもシメて食ってるよ」
「いけません、そんなこと。狩人ですかあなたは」
「男はみんな狩人さ」
「そういうことを言っているのではありません。まったく」
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
4
-
-
2265
-
-
2
-
-
52
-
-
1512
-
-
147
-
-
157
-
-
49989
-
-
3087
コメント