天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

ふん、そうだな。そうしておこう

 メタトロンは腕を振るった。その一振りで天羽の群が吹き飛んでいく。その一撃を受けた者はすべて地上に落ちていった。大きさが、質量が違いすぎる。

 メタトロンが振り向く。そこには列を成し突撃してくる大群の天羽がいた。数千による体当たりだ。一体一体の力は及ばずともまとめてぶつければ強大な力になる。

 それに対し、メタトロンの行動は拳を打ち出すこと。一にして絶大な力があらゆるものを粉砕する。

 正面からの衝突。力と力のぶつかり合いは、天羽の群れの完全な敗北で終わった。大群が弾け飛んでいく。その事実を当然だと言わんばかりにメタトロンは悠然と立っている。

「やっぱり、すごい」

 恵瑠が感嘆している。神愛もそうだった。知ってはいたがやはりすごい。

 まるで相手にならない。実力が違いすぎる。

 メタトロンは歩いた。天羽たちの必死の抵抗を歯牙しがにもかけず、メタトロンの進撃は止まらない。

 メタトロンは天界の門の正面に到着した。両手を広げ扉を掴むと、そのまま閉じ始める。神愛たちが固唾を飲んで見守る中、扉が少しずつ閉まっていった。

「いけるか?」

 天界の門も抗っているのかなかなか進んでいかない。さらには天羽たちもメタトロンの腕や顔を集中的に攻撃し始めた。彼らも必死だ。

 メタトロンは攻撃を耐えるが、背中に浮かぶ光輪が光り出した。輝きが増していく。それに連動して力強さの上昇を感じる。

 メタトロンの全身が発光した。同時に起こる衝撃波に天羽たちが吹き飛ばされ、メタトロンは一気に扉を閉めた。

「閉まった!」

 扉が閉じられた。これで天界との繋がりが切れる。

 メタトロンは腕を振り上げる。一本が塔のような五指を握り締め、背中までひねった腕に力をためる。

 一拍の間が空いた。

 瞬間、メタトロンは腕を振り抜いた。渾身の一撃が天界の門を粉砕する。扉は粉々に砕け地上へと落ちていった。

「まじかよ」

 神愛の目の前に立つのは最大の神託物。さきほどまで浮かんでいた天界の門は消え去った。

 その後メタトロンの体も崩れ始めていた。限界がきたんだろう。腕が肩から崩れ落ち、全身が砂になっていくように崩れ光となって消えていった。

 天羽軍の最大の武器である無限の軍勢、これを無くしたことにより天羽軍は撤退し始める。地上で戦っていた者たちも空へと飛び立っていた。

「どこに行く気だ?」

「なに、予備のゲートがある。天界の門とは違って常時展開出来ず、小さなものだ。あくまで撤退用だよ」

 神愛の疑問にガブリエルが答えてくれた。

「心配しなくても今回のような大規模な作戦は当分はやりやくてもできないさ。加えてする気も無い。おめでとう。この戦い、お前たちの勝利だ」

 勝負は終わった。人類と天羽による長い戦いが今、幕を下ろした。

「それでは私はこれで」

「ガブリエル!」

 背中を向け歩き始めるガブリエルを恵瑠が呼び止めた。小走りで彼女に近づいていく。

 ガブリエルは立ち止まり顔を半分だけ向けた。

 恵瑠は心配そうな目で見上げる。次、会うことはあるのだろうか。もう会えないのだろうか。不安に心細くなる。

「なに、また会うことはあるだろう。それが良い出会いか悪い出会いかは分からんがね」

 そんな恵瑠へ、ガブリエルは彼女なりの言葉で元気付けた。決してこの別れが二人の最後ではない。

「うん、そうだね……」

 彼女らしい物言いに恵瑠は寂しそうに笑う。二人の立場は変わらない。同族だけど仲間じゃない。微妙な距離感が二人の間にある。

「じゃあ、楽しみにしておくよ」

 そんな彼女へ、恵瑠は控えめに笑った。

「? 分からないのにか?」

「分からないからこそ、だよ」

 次、二人の出会いがなにを意味するのかそれは分からない。もしかしたら今回以上に悪いこともある。

 だけど恵瑠は信じた。根拠のない出会いに、希望を持って待つと決めた。

 信じること。その難しさと、大切さを恵瑠は知っているから。

 恵瑠の笑顔にガブリエルも少しだけ頬を緩ませた。

「ふん、そうだな。そうしておこう」

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