天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

人は、神を知る

 無信仰者は祈らない。

 自分の道は手探りで進めばいい。

 己を信じろ。

 それでも人生に遭難した時。

「諦めたりなんかしない!」

「!?」

 人は、神を知る。

(諦めないだと?)

 その一言に、ミカエルは胸を撃ち抜かれた気がした。

 その言葉は、かつてどこかで、誰かが言っていた言葉ではなかったか。

 神愛は諦めていない。それがどんなに過酷でも、仲間のためにここまで来た。仲間のおかげでここまで来れた。

 諦めたりなんかしない。諦めた先に彼女はいない。

 望んだ未来なんて、ないのだから。

「自分の道を! 仲間との絆を! それを信じること。それが俺の信仰だ!」

 信仰とは続けることに意味がある。己の自信。友への信頼。すべてが溶けて、信じる力へ、黄金と一つになる。

 神愛のオーラが爆発した。そう思わせるほどの極大の噴出。黄金は神愛の全身を覆い、立ち上がる光は宇宙を切り裂いていく。

 神愛とミカエルの戦い。この激闘にて、初めて黄金の輝きが神愛の右手に宿った。

 神愛は走った。光を超えて、ミカエルへと拳を振り上げる。

「なにをしても無駄だ! 完成された美へと至る第六の力シックス・セフィラー・ティファレトは無敵の力だ、誰も私に敵わない!」

 神愛の接近にミカエルが叫ぶ。あらゆるものが無駄だと告げる。努力も、工夫も、行動も。すべてが無力。この宇宙、この世界にはミカエルが傷つくという事象は存在しない。足掻いたところで勝機はない。

 だが、

 しかし、

 だとしても!

「俺が!」

 想いはまだ、死んでいない!

「みんなとの未来を!」

 終わっていない!

「終わらせるかぁあああ!」

 神愛は、諦めない!

 神愛は進んだ。敗北の未来へと。勝てない。敵わない。希望もない。

 それでも、神愛は進んだ。信じて進んでいた。

 不可能なんてない。

 特にここ、天下界では。

 どんな困難ですら、信仰が超えていく!

 神愛の拳が、ミカエルの腹部にめり込んだ!

「があああああああ!」

 ミカエルから悲鳴が上がる。戦いが始まってから一度も通らなかった攻撃が、ついに通ったのだ。

 無敵を誇った完成された美へと至る第六の力シックス・セフィラー・ティファレトが、崩れ落ちていく。

(馬鹿な!?)

 ミカエルの顔が激痛に歪む。だが、なによりその表情は驚愕していた。

 そう、これは傷つかない。そうした可能性がないからだ。可能性がないのにどうして傷ついたのか。

 しかし『傷つく可能性がない』ということは、『可能性ゼロパーセント』のことが起きれば傷つくということ。

 それは本来あり得ない。なぜなら可能性ゼロパーセントなのだから。起こるはずがない。

 だが、可能性とはなんだ? 『なにを想定して、可能性がないと判断したのか?』

 想定外、イレギュラーを前にしてそれは通じない!

 誰も知らない、過去現在未来を知る者ですら。なぜなら、『この力は宇宙が存在する以前から存在したから』。

 宇宙が誕生するよりも前のことなど、いくら時間を遡っても分からない。想定できない。

 可能性ゼロパーセント。宇宙に存在しないもの。

 それが今、黄金に燃え上がる!

「天下界の無信仰者(イレギュラー)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く