天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

発現せよ、第六のセフィラー、ティファレト!

 ミカエルからの告白に怪訝な顔つきになる。傷つかないとはどういう理屈なのか。

「残念だったな! これが私の力だ! 発現せよ、第六のセフィラー、ティファレト!」

 神愛の疑問を他所にミカエルは剣を掲げた。光が迸り八枚の純白の羽が輝く。

 そして、全身は無敵の結界と化していた。

 今までの攻撃はいわば五次元の超越者オラクルのもの。彼固有の能力ものではない。

 これこそが、天羽長ミカエルのみが持つ天より天羽が授かった十の力の一つ。

 完成された美へと至る第六の力シックス・セフィラー・ティファレト

 その能力は傷つかない、ただ一点。それもそのはず。傷ついたものなど美とは呼ばず、また、完成と銘打ったこれはあらゆる手段を以ってしても破壊は不可能。

 傷つくという、『あらゆる可能性が存在しない』。さらに能力は二千年前と比べ成長し、痛みもとうの前に消えている。完全無欠の完成美なのだ。

 ミカエルは突撃した。輝く聖剣を片手で振り下ろす。

『させません!』

 が、その一撃はミルフィアの片手で弾かれた。ここにいるのは二人一組だ。剣と腕が衝突しミカエルの姿勢が崩れる。そこへ神愛は渾身のボディーブローをお見舞いした。

「無駄だ!」

 だが勢いは止まらない。怪我どころか痛みすらなく剣を振るってきた。

 完成された美は傷つかない。これにはウリエルの無価値な炎ファイア・オブ・ノーライフですら消滅せず、ラファエルの輪廻する栄光たる第五の力エイス・セフィラー・ホドですら死を与えることができない。さらにはミカエル自身が支配耐性を持っているため全能者ですら存在を消すことが出来ない。

 誰も倒せない。もし倒そうと思えば宇宙ごと破壊するしかないが、ミカエルは五次元のオラクルだ。単一宇宙だけでは他の平行世界に逃げられる。

 そのため、ミカエルを倒そうと思えば平行世界すべてを壊さなければならない。

 ミカエルは強い。たしかに強い。だがそれ以上に厄介なのだ、この完成された美へと至る第六の力シックス・セフィラー・ティファレトは。

 神愛の攻撃は効いていない。だが、神愛にも防御の術はある。

 ミカエルの攻撃を妨害の光が阻む。剣筋の前に黄金のオーラが伸びると硬化し刀身を受け止めた。これにはミカエルも顔を顰めるが、すぐに次の攻撃を放つ。ミカエルの斜め上からの剣撃を黄金が受け止め、その隙に神愛は前進し右フックを直撃させた。その衝撃にミカエルの体が宙を走る。止まることのない追撃、この勢いのまま潰しにいく。

 だがミカエルの姿が消えた。空間転移により神愛の攻撃が空振りに終わる。

「ちぃ!」

 苛立ちとともに辺りを見渡すがミカエルの姿は見えない。

「あっちか」

 神愛はミカエルの気配を感じた数億光年先の空間へ転移した。

 周囲には眩い星々の輝きで満ちている。だがそこに目的の姿はない。

 そこへミルフィアがいち早く気づき背後に振り返った。

『はッ』

 発声とともにミルフィアが裏拳を放つ。そこにはすでに振り下ろされていた剣があり拳と剣が衝突する。

「やるな」

 一言残すとミカエルは再び姿を消した。高速のヒットアンドアウェイだ。全方位から次々と攻撃してくる。その勢いは電光石火で目が回るほどだ。

 ミカエルの連撃が襲いくる。背後からの攻撃はミルフィアが防ぎ、前方は妨害の属性が阻んだ。潜り抜けてきた攻撃は神愛自身が躱す。攻撃しようと拳を振り上げるが標的が消えてしまえば不発に終わる。

 どこだ、次はどこから現れる。次々と出現と消失を繰り返す敵に的が絞れない。

 ミカエルが正面に現れた。すでに剣を振りかぶっており戦意をむき出しにしている。それに反応して神愛の足元に燻っていた黄金のオーラがミカエルの剣に殺到する。

 だが、直後ミカエルは再び姿を消し黄金のオーラをすり抜ける形で出現していた。構えは突きに変わっており、神愛の胸部を一点に狙っている。黄金のオーラは急いで戻るが遅い。

 ミカエルは剣先を突き出した!

(間に合わない!)

 至近距離からの刺突、躱せない。ミカエルの表情が勝利に笑う。

(させるか!)

 だが、神愛は片手で剣先を掴んだ。

「なっ!?」

「うらあああ!」

 さらには掴んだ刀身を引き寄せ空いた手で腹部を殴りつけた。数少ない機会でようやく当てた一撃。その攻撃がミカエルの体を打ちつける。直撃など次あるかないか。

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