天下界の無信仰者(イレギュラー)
ありがとう。私のもう一人の友達。
「小僧もよくやっている。それほどお前が大切か、好かれたものだな。言われてみれば、お前を称える天羽は多くいたが、お前と友好だった者は少なかったか。そうでなくとも人々からは恐怖の対象でしかなかったというのに。これがお前の手に入れたもの、か。少しだが羨ましいよ、ウリエル」
隣で言われるガブリエルの言葉に恵瑠は胸の中で首肯する。
神愛は、過ちばかりの自分の人生で得た、数少ない友人。宝物だったから。
「うん……。ボクはワガママで、どうしようもなく向こう見ずだった。けっきょく、なにが正しいのか分かっていなかったんだ。欲しいものだけを見て、それ以外を見ていなかった。いつだってそうだ。そのせいでみんなを裏切った。悪いことしてるって分かってた。でも、諦めたくなかった」
細められていた双眸に暗澹とした色が混じる。その瞳が映すのは後悔だ。だが、なにを悔めばよかったのか。
神による秩序、それを以ってして地上を平和にすること。以前の自分はそれを是とし戦ってきたが、目の前に広がる戦火を目の当たりにして気づく。倒れた自分に手を差し伸べてくれた子供に思い知らされた。
平和とは、理想とは、正義とは、犠牲の上で成り立つものだと。すべてを救いたいと願いながらも自分が零してきた名も知らぬ命たち。それを必要悪だとして気にも留めていなかった。でも。それはまるで自作自演の勧善懲悪に思えてしまい、信じられなくなってしまった。
進んでいたのか、落下していたのか。そのときの自分には分からない。ただこの道が正しいと信じるしかなく、先の見えない暗闇に光を探すしかなかった。
結果重みに耐えられず、信念は瓦解した。
「ボクのせいだ。みんなに迷惑をかけた」
迷走する理想に道は揺れ、それによって多くのものを振るい落としてきた。そこには彼女、ガブリエルも含まれている。恵瑠は天羽を裏切った。天界への撤退命令を無視して地上に残り、人と交流を持った。仲間からの信頼を裏切ったのだ。
それだけじゃない。今も自分のために戦ってくれている彼もそうだ。たくさん傷つけた。たくさん心配をかけた。
友だと言ってくれた彼に、自分はどれだけ酷い仕打ちを与えたのか。それを思えばとてもではないが顔向けなんて出来ない。
恵瑠の顔が、悲痛に歪む。
「だが、やつは気にしていないようだぞ?」
「え?」
そこへ、ガブリエルから掛けられた言葉に目を広げ彼女を見た。
ガブリエルは空を見上げていた。自分の背よりも数段高い彼女がそこにいる。青いセミロングの髪が小さく揺れて、彼女はそっと恵瑠に振り向いた。
「おめでとう、友よ。見ているか? お前が得た代償が、お前のために戦っているぞ」
彼女はこんな自分を友と呼び祝ってくれた。いつも通りの平然とした態度で。口調こそ落ち着いているものの、彼女は恵瑠を友として認めている。
「うん」
恵瑠は小さく応えた。言葉にはしなかったが感謝した。共にあの戦乱を駆けた仲間として、その信頼は失われることなく続いていた。
ありがとう。私のもう一人の友達。
そして視線は彼方の戦場に戻る。
(神愛君)
視線の先。ここからでは見えないが、恵瑠が信じた恩人はこの先で間違いなく戦っているのだ。自分と一緒にいる日常を取り戻すために。
そのために彼はここまで歩んできた。真っすぐで、とてつもない信念の持ち主だ。まるで太陽。彼の輝きはその他の光を束にしても敵わないほど光り輝いている。
だが、彼ほどの輝きを以ってしてもなお、今度の敵は強大だ。なにより年季が違う。神愛が戦ったこの数日に比べ相手は二千年の長きに渡って燃え続けている猛者だ。
「しかし、相手が悪いな。あいつは退かんぞ。諦めの悪さなら天下一、いや、天界一だからな」
「うん」
先述と被るが相手はあのミカエルだ。いかに神愛といえど容易く勝てる相手ではない。
隣で言われるガブリエルの言葉に恵瑠は胸の中で首肯する。
神愛は、過ちばかりの自分の人生で得た、数少ない友人。宝物だったから。
「うん……。ボクはワガママで、どうしようもなく向こう見ずだった。けっきょく、なにが正しいのか分かっていなかったんだ。欲しいものだけを見て、それ以外を見ていなかった。いつだってそうだ。そのせいでみんなを裏切った。悪いことしてるって分かってた。でも、諦めたくなかった」
細められていた双眸に暗澹とした色が混じる。その瞳が映すのは後悔だ。だが、なにを悔めばよかったのか。
神による秩序、それを以ってして地上を平和にすること。以前の自分はそれを是とし戦ってきたが、目の前に広がる戦火を目の当たりにして気づく。倒れた自分に手を差し伸べてくれた子供に思い知らされた。
平和とは、理想とは、正義とは、犠牲の上で成り立つものだと。すべてを救いたいと願いながらも自分が零してきた名も知らぬ命たち。それを必要悪だとして気にも留めていなかった。でも。それはまるで自作自演の勧善懲悪に思えてしまい、信じられなくなってしまった。
進んでいたのか、落下していたのか。そのときの自分には分からない。ただこの道が正しいと信じるしかなく、先の見えない暗闇に光を探すしかなかった。
結果重みに耐えられず、信念は瓦解した。
「ボクのせいだ。みんなに迷惑をかけた」
迷走する理想に道は揺れ、それによって多くのものを振るい落としてきた。そこには彼女、ガブリエルも含まれている。恵瑠は天羽を裏切った。天界への撤退命令を無視して地上に残り、人と交流を持った。仲間からの信頼を裏切ったのだ。
それだけじゃない。今も自分のために戦ってくれている彼もそうだ。たくさん傷つけた。たくさん心配をかけた。
友だと言ってくれた彼に、自分はどれだけ酷い仕打ちを与えたのか。それを思えばとてもではないが顔向けなんて出来ない。
恵瑠の顔が、悲痛に歪む。
「だが、やつは気にしていないようだぞ?」
「え?」
そこへ、ガブリエルから掛けられた言葉に目を広げ彼女を見た。
ガブリエルは空を見上げていた。自分の背よりも数段高い彼女がそこにいる。青いセミロングの髪が小さく揺れて、彼女はそっと恵瑠に振り向いた。
「おめでとう、友よ。見ているか? お前が得た代償が、お前のために戦っているぞ」
彼女はこんな自分を友と呼び祝ってくれた。いつも通りの平然とした態度で。口調こそ落ち着いているものの、彼女は恵瑠を友として認めている。
「うん」
恵瑠は小さく応えた。言葉にはしなかったが感謝した。共にあの戦乱を駆けた仲間として、その信頼は失われることなく続いていた。
ありがとう。私のもう一人の友達。
そして視線は彼方の戦場に戻る。
(神愛君)
視線の先。ここからでは見えないが、恵瑠が信じた恩人はこの先で間違いなく戦っているのだ。自分と一緒にいる日常を取り戻すために。
そのために彼はここまで歩んできた。真っすぐで、とてつもない信念の持ち主だ。まるで太陽。彼の輝きはその他の光を束にしても敵わないほど光り輝いている。
だが、彼ほどの輝きを以ってしてもなお、今度の敵は強大だ。なにより年季が違う。神愛が戦ったこの数日に比べ相手は二千年の長きに渡って燃え続けている猛者だ。
「しかし、相手が悪いな。あいつは退かんぞ。諦めの悪さなら天下一、いや、天界一だからな」
「うん」
先述と被るが相手はあのミカエルだ。いかに神愛といえど容易く勝てる相手ではない。
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