天下界の無信仰者(イレギュラー)
最初の奇跡
  かつて、まだ神理がなく、後に人理時代と呼ばれる時の中。そこには神も、信仰も、奇跡もなかった。
だが、
しかし、
それは現れた、空高くから。
「多いなる人よ、聞きなさい」
地上で暮らしていたすべての者が見上げていた。そこには青空、白い雲。そして大いなる翼があった。
「神が誕生しました。貧しき者よ、飢える者よ、もうあなたは苦しむことはありません。大いなる愛があなたを救いましょう」
空から無数に舞い降りるそれは天の使い。
無数の羽、一つの奇跡。
天羽降臨。人類が初めて奇跡を目撃した日だった。
それから数年後。
天羽による人類への布教は順調に行われていた。奇跡を前にして信じないという選択肢はなく、受け入れるか受け入れられないかの違いだった。
半分近くの国と民は彼ら天羽を受け入れ大使を常任させ、布教の拠点とし人類の救済に努めていた。
ここ数年で受け入れる国はほぼ受け入れてもらえたと言っていいだろう。
目下の課題は、反対国をどう説得するかであり、
「……んー」
黒髪の天羽は木製の机に座り、頭を悩ませていた。
「さて、どうするか」
天羽長室の白い部屋に彼の独り言が漂った。
天羽長、ルシフェル。人間でいう、二十代後半ごろの男性だった。
黒い髪は磨いたように美しく腰まで伸びているが毛先までも柔らかい。高身長に鍛えられた体は神の傑作と名高く、細い眉に切れ長の瞳、整った鼻筋と細部にまで作り込まれた美天羽だった。
また実力も天羽のトップであり、名実ともに天羽の一番だ。
しかし本人はそれを鼻にかけることはせず、誰にでも明るく接する性格と天羽長としての自覚と気品を併せ持ち、そのあり方から『完璧なる善性』と呼ばれ、天羽はもとより人々からも賞賛されていた。
彼が座っている机も人間から献上された、職人が心血注いで作った芸術品だ。それは今でもルシフェルお気に入りの机として愛用されている。
しかし、解決の糸口が見つからない課題に、彼の気分は落ち込むばかりだった。
「悩んでいても仕方がない、か」
気分を変えよう。ルシフェルは悩みの種を机上に置いておくことにして立ち上がった。ロングコートの白衣。机に立てかけてあった剣を腰に差し、ベランダへと続く扉を開ける。
瞬間、視界に飛び込むのは幻想的な景観であった。
天界。青空に漂う白い雲に並んで、いくつもの島が浮いている。彼が立つ天界中央指令局も一つの島の上にあり、その他にもいくつもの島が浮いているのだ。
空中には天羽たちが翼を広げ移動し、島々を行き来している。特に中央指令局のあるこの島は一番上にある島にあるため天界をよく見渡せる。
ルシフェルはベランダに立ち吹き抜ける気持ちのよい風を受け止めた。
「いい天気だな、部屋で悩むばかりではもったいない」
ルシフェルは翼を広げた。背中には一二枚の羽が現れ足がベランダから離れる。ゆっくりと降下し島の地面を目指した。
中央指令局は巨大な建物群が集まっている。その中でも天羽長室のあるこの建物は最も高い。
ルシフェルは降りていくが、その姿にも優雅さがある。その途中、三体の天羽が話しかけてきた。
「ルシフェル様、おはようございま~す」
「ああ、おはよう」
赤ん坊に羽をつけた姿をしたキューピット。白いワンピースを来た彼、彼女らはルシフェルと同じ速度で降りていく。
「ルシフェル様はどこかにお出かけですか?」
「いや、特に目的があるわけじゃなくてね。ただの散歩だよ。君たちは気分転換に向いてる場所を知らないかい?」
「だったら!」
その中の一人がちょうどいいと手を合わせた。
「これからラファエル様が歌を披露してくれるんですよ。僕たちこれから向かうところだったんです」
「ほう、彼女の歌か」
キューピットたちの興奮に併せて彼の表情にも関心が現れる。彼女の美声が奏でる歌はさぞかし心に響くだろう。
「でももう始まってるよ」
「お前が遅刻してくるから」
「それさっき謝っただろう!」
キューピット同士で言い争いが始まるのをルシフェルはやれやれと優しい目で見つめた。
「じゃあ、私も拝聴させてもらおうかな」
「こっちですよ!」
三体のキューピットは言い争いを止め、急ぎ気味にルシフェルを案内した。
だが、
しかし、
それは現れた、空高くから。
「多いなる人よ、聞きなさい」
地上で暮らしていたすべての者が見上げていた。そこには青空、白い雲。そして大いなる翼があった。
「神が誕生しました。貧しき者よ、飢える者よ、もうあなたは苦しむことはありません。大いなる愛があなたを救いましょう」
空から無数に舞い降りるそれは天の使い。
無数の羽、一つの奇跡。
天羽降臨。人類が初めて奇跡を目撃した日だった。
それから数年後。
天羽による人類への布教は順調に行われていた。奇跡を前にして信じないという選択肢はなく、受け入れるか受け入れられないかの違いだった。
半分近くの国と民は彼ら天羽を受け入れ大使を常任させ、布教の拠点とし人類の救済に努めていた。
ここ数年で受け入れる国はほぼ受け入れてもらえたと言っていいだろう。
目下の課題は、反対国をどう説得するかであり、
「……んー」
黒髪の天羽は木製の机に座り、頭を悩ませていた。
「さて、どうするか」
天羽長室の白い部屋に彼の独り言が漂った。
天羽長、ルシフェル。人間でいう、二十代後半ごろの男性だった。
黒い髪は磨いたように美しく腰まで伸びているが毛先までも柔らかい。高身長に鍛えられた体は神の傑作と名高く、細い眉に切れ長の瞳、整った鼻筋と細部にまで作り込まれた美天羽だった。
また実力も天羽のトップであり、名実ともに天羽の一番だ。
しかし本人はそれを鼻にかけることはせず、誰にでも明るく接する性格と天羽長としての自覚と気品を併せ持ち、そのあり方から『完璧なる善性』と呼ばれ、天羽はもとより人々からも賞賛されていた。
彼が座っている机も人間から献上された、職人が心血注いで作った芸術品だ。それは今でもルシフェルお気に入りの机として愛用されている。
しかし、解決の糸口が見つからない課題に、彼の気分は落ち込むばかりだった。
「悩んでいても仕方がない、か」
気分を変えよう。ルシフェルは悩みの種を机上に置いておくことにして立ち上がった。ロングコートの白衣。机に立てかけてあった剣を腰に差し、ベランダへと続く扉を開ける。
瞬間、視界に飛び込むのは幻想的な景観であった。
天界。青空に漂う白い雲に並んで、いくつもの島が浮いている。彼が立つ天界中央指令局も一つの島の上にあり、その他にもいくつもの島が浮いているのだ。
空中には天羽たちが翼を広げ移動し、島々を行き来している。特に中央指令局のあるこの島は一番上にある島にあるため天界をよく見渡せる。
ルシフェルはベランダに立ち吹き抜ける気持ちのよい風を受け止めた。
「いい天気だな、部屋で悩むばかりではもったいない」
ルシフェルは翼を広げた。背中には一二枚の羽が現れ足がベランダから離れる。ゆっくりと降下し島の地面を目指した。
中央指令局は巨大な建物群が集まっている。その中でも天羽長室のあるこの建物は最も高い。
ルシフェルは降りていくが、その姿にも優雅さがある。その途中、三体の天羽が話しかけてきた。
「ルシフェル様、おはようございま~す」
「ああ、おはよう」
赤ん坊に羽をつけた姿をしたキューピット。白いワンピースを来た彼、彼女らはルシフェルと同じ速度で降りていく。
「ルシフェル様はどこかにお出かけですか?」
「いや、特に目的があるわけじゃなくてね。ただの散歩だよ。君たちは気分転換に向いてる場所を知らないかい?」
「だったら!」
その中の一人がちょうどいいと手を合わせた。
「これからラファエル様が歌を披露してくれるんですよ。僕たちこれから向かうところだったんです」
「ほう、彼女の歌か」
キューピットたちの興奮に併せて彼の表情にも関心が現れる。彼女の美声が奏でる歌はさぞかし心に響くだろう。
「でももう始まってるよ」
「お前が遅刻してくるから」
「それさっき謝っただろう!」
キューピット同士で言い争いが始まるのをルシフェルはやれやれと優しい目で見つめた。
「じゃあ、私も拝聴させてもらおうかな」
「こっちですよ!」
三体のキューピットは言い争いを止め、急ぎ気味にルシフェルを案内した。
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