天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

弱者では観戦すら許されない

「くっ!」

 神愛の襲撃にウリエルが顔を上げた。すぐに体を起こす。そして四枚の羽を動かした。羽の先を前に出し、それぞれが神愛の手足に巻き付いた!

「なに!?」

 白い羽がツルのように巻き付き動きを封じる。神愛は空中に固定されてしまった。

 ウリエルの残りの羽が地面に突き刺さる。それは彼女の体を支える杭であり、ウリエルは左手で右手首を掴み、右手を神愛に向けた。手の平のさきでみるみると炎が膨れ上がっていく!

 神愛はもがくが振り解けない!

「倒れろぉおおお!」

 逃れられない神愛へ、ウリエル渾身の爆炎が放出された。反動が羽を伝って地面を砕く。

「があああああああ!」

 全身を覆う業火、魂を焼却するほどの炎熱が襲う。それはウリエルの羽の先を一瞬で燃やし尽くし、神愛ははるか彼方へと飛んでいった。

 神愛は飛んでいく、文字通り空を飛んでいた。体の上には黒い雲、体の下には街の建物が見える。

 ウリエルは灰になった羽の先をすぐさに復元し、地面に刺していた剣を引き抜いた。そしてその場から姿を消す。

 空間転移によって神愛の頭上に現れ、両手で握った剣を振り下ろす!

「ぐぅう!」

 なんとか両腕でガードするが神愛は急降下、地面に落下した! 衝撃に爆音が起こる。

「なんだ、なにが起こった!?」「何事だ!?」

 そこはゴルゴダ軍と天羽軍で大混戦のサン・ジアイ大聖堂前だった。突然空から落ちてきた神愛に周りが騒然としている。

 神愛は煙が舞う地面から起き上がる。落下の衝撃で地面は砕け瓦礫の上に立ち上がる。

 見上げれば、空からゆっくりとウリエルが降下してきていた。

「ウリエル様?」「ウリエル様だ!」

 彼女の登場に天羽たちからも声が上がる。

 この場で一番の激戦区に現れた二人に人も天羽も驚いていた。みなが彼らに注目している。

 その中で、二人は激突した。

 全力で行われる拳と剣のぶつかり合い。その衝撃が生む空気の渦に騎士と天羽が吹き飛ばされる!

「ぐあああ!」「離れろ! 危険だ!」「退避ぃ! 退避ぃ!」

 ウリエルの剣が振るわれる。それを神愛は躱す。ウリエルの剛剣は地面を砕いていき神愛の背後にいた騎士が弾け飛んでいった。

 ウリエルの攻撃を躱し神愛も拳を打つ。攻撃した直後の姿勢、躱せない。だがウリエルは空間転移を用いこれを回避した。神愛の拳が生む風圧はウリエルの背後にいた天羽たちを吹き飛ばす。

 二人が戦うだけで周りは自然災害級の危険域だった。弱者では観戦すら許されない。普通の人でも動けば埃が舞うように、二人が戦えば人が舞っていく。

 ウリエルは剣を振るう。余波で地面や街を砕きながら。まるで竜巻の擬人化だ、剣を振った剛風が対する者に叩き付けられる。

 それを、神愛はねじ伏せる。彼の発する闘志は神気、物理的な脅威など意味をなさず前に出る。

 ウリエルの攻撃、それを躱していく。上段からの攻撃を横に躱し、横一線の攻撃を背中を反らし、渾身の突きを前に出て捕まえる!

「いくぞ!」

 神愛はウリエルの片腕を掴みながら彼女の頭を抱えると腹へと何度も膝蹴りを行なう。その威力、彼女の体が何度も衝撃に浮き重い打撃音がなる。

 さらに神愛は片足を持ち上げウリエルを跨ぐと、腕を巻き込みながら自分を回転して横になり、肘の関節技、腕挫十字固に繋いだ。ウリエルも地面に倒れる。

「オラぁ!」

「がああ!」

 剣を持つウリエルの右肘が可動域を超える負担に悲鳴を上げる。

 神愛は腕を持ったまま立ち上がった。ウリエルを起たせる。肘の痛みにウリエルは手を当てながら片膝を付いていた。その隙、神愛は体ごと回す大振りの回転蹴りを彼女に打ち付けた!

「があっ!」

 その威力に猛スピードで吹き飛んでいく。地面を何度も転がり、彼女が通った後には何枚もの羽が宙に散らばっている。

「終わりだ!」

 神愛は跳んだ。決めるならダウンしている今の内しかない。追撃の手を緩めずこのまま押し切る。右の拳を振り下ろさんとウリエルの場所まで十メートル以上を跳んだ。

「舐めるな!」

 だがウリエルは諦めていなかった。これほの痛手を負いながらも目はまだ負けていない。

 迫る神愛に向け四枚の羽を伸ばす。それぞれが手足に巻き付き縛り上げた。

「ちぃ!」

 攻撃が決まらず神愛から舌打ちが出る。

 ウリエルは右手を神愛に向け炎を充填していく。神の炎とまで呼ばれた極大の炎が完成へと形を整えていく。

「二度も食らうかよ!」

 それに合わせ神愛は叫んだ。神愛の正面に黄金の光が集まっていく。妨害の光は障壁となり神愛を守る。

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