天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

ただ、大切な友を救いたい。それだけのために二人は戦う

『神愛君だって、ボクのことを知ったらきっと離れていく。ボクの味方になんて、なってくれるはずがない』

 思い出せばいつだってそうだった。

『たとえなにがあっても、ボクたちは友達だって、そう言える?』

 彼はいつだって言ってくれていた。

 恐怖を、

 不安を、

 孤独を、

『たとえなにがあろうと、俺たちは友達だ!』

 いつだって消し去ってくれた。

(神愛君……!)

 ウリエルは言葉にはしなかったが、胸の中で感謝していた。溢れる想いが止まらない。

 二人の約束。いつまでも友達でいてくれるかという。

 彼は答えた。いつだって友達だと。

 その約束は果たされた。彼の答えは本当だったのだ。こんな状況で、こんな立場で、それでも彼は約束を守ってくれた。

 けれど、それは最悪の形だった。

「……そう、なら仕方がない」

 彼の気持ちは分かった。ここまで来たという気概も見事としか言いようがない。彼を諦めさせるのは不可能だ。

 だがしかし、ここにいてはどのみち殺される。その考えは変わらない。彼を救うためには、方法は一つしかない。

「君を倒して、ここから離脱してもらう」

 ウリエルは力を解放した。折り畳んでいた羽を広げ、彼女の霊的質量に大気が震える。

 鎧とドレスが融合した姿は美しく、彼女は剣を引き抜いた。

 ウリエルが剣を手にしたことで神愛も動く。第四の神理、王金調律を身に纏い、力づくでウリエルを取り戻す。

 二人は睨み合う。ウリエルの周囲では地上からいくつもの炎が噴火のように燃え上がった。

 負けず、神愛の背後でもいくつもの黄金の柱が上がる。

 炎熱の火柱と黄金の火柱がぶつかり合う。飛び散る火花と金粉が風に乗って漂った。

「来いよ。俺が勝つ!」

「いいや、勝つのは私だ! 君だけは救ってみせる。それが!」

 ウリエルは跳んだ。剣を両手に構え、階段から神愛目掛け剣を振り下ろす。

「君に返せる、想いのすべてだ!」

 神愛は走った。黄金の拳を構え、飛び掛かってきたウリエルに突き出した。

「うおおおおおお!」

「はああああああ!」

 剣と拳が衝突する。衝撃に地面はひび割れ、両者の想いが激突する!

 二千年前の使命も名誉も関係ない。人類と天羽の決戦も関係ない。

 ただ、大切な友を救いたい。それだけのために二人は戦う。

 今、神愛とウリエルの激闘が始まった。

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