天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

いいえ、どうやら厳しいようね

 加豪から解放され天和はボーとした目で見つめた。

「まったく、あんたは相変わらずね」

「まあね」

 むしろ戸惑う天和も見てみたい気もする。

 加豪は天和から地面に顔を向けた。派手に壊れ地盤がでこぼこだ。同時に支点も壊れている。

「天和が無事だったのは良かったけど、ここの天羽はどうしたの?」

「さっきと同じ。ここには誰もいなかったしはじめからこうだったわ」

「そうなの?」

 加豪は改めて周りを見渡してみた。荒れている以上戦闘はあったのだろう。

 護衛の騎士たちも倒れている。それに加豪は顔を悲しくした後教会を見上げた。

 一階部分が一部前に出ている。その屋根の上、壁がへこんでいた。瓦礫などが転がっている。

 しかし、そこには誰もいなかった。

「そう……」

 それで加豪は納得する。疑問はあるが天和がこう言う以上そう信じるしかない。

 天和はちらりと横目で教会を見上げた。

 そこにはラファエルが横になっていたはずだが、どうやら五十鈴が上手く働いてくれたらしい。

「どうも私たちの知らないことが起きてるようね。でもこれで支点の二つが破壊された」

「いいえ、それともう一つ。北の支点も破壊したようね」

「ほんとう? ならあとは一つね」

 結界の支点の三つは破壊された。順調なことに加豪は素直に喜ぶ。このままいけば天界の門ヘブンズ・ゲートの完全開放を防げる。

「この調子なら大丈夫そうね」

 希望が湧く。目的達成まであと一歩だ。

 だが、天和は無情にも加豪の期待を否定した。

「いいえ、どうやら厳しいようね」

「え?」

 見上げる。頭上に浮かぶ天界の門ヘブンズ・ゲートは聳え立つほど大きくまるで山のようだ。

 威容を誇る門には幾百にもなる天羽たちが回遊しながら守っている。

 その門が、とてつもない勢いで開いていくのだ。

 扉の動きが目で分かる。今までは動いているのか見ても分からないほどゆっくりだったのに。

「そんな!?」

 みるみると開いていく扉に加豪は凍りつく。この調子などと悠長なことは言っていられない。訪れようとしている、終わりの時が。

「開くわ。このままでは、確実に」

「早くしないと!」

 天和と加豪は天界の門ヘブンズ・ゲートから視線を外す。支点は残り一つ。

「残りの支点の場所は……」

 加豪は最後の一つがある場所を頭の地図に描き、そこへと顔を向けた。

「北区、ヴァルカン美術館」

 そこが最後の一つ。そして。

「神愛……!」

 神愛が向かっている場所だ。彼がそこを破壊できるかどうか。それにすべてが掛かっている。

「宮司君、間に合うかしら」

 時間は残りわずか。絶望の時はすぐそこだ。無限の軍勢はそこまで来ている。

 天界の門ヘブンズ・ゲートを巡る攻防。人類と天羽の戦い。

 それは、一人の少年に託された。

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