天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

ほう……真の偉大さか

 ガブリエルの口元が小さく緩む。おもしろいと言った言葉通り楽しいのだろう。

 この歴史的ミステリーを前にして興味を持たないわけがない。

 神理が広がるよりも前の時代、人理時代。その時から存在する超越的な者。

 それは一体、なにを意味するのか。

 ミルフィアはガブリエルの問いには答えず背中を見せた。そのまま歩き出す。

「……どこへ行く?」

 ガブリエルの呼び止めに歩みを止める。けれどミルフィアに話し合いをする気はなかった。

 賭けも支点破壊も相手が勝手にやったこと、それに付き合う必要はない。自分がやるべきことはなにか。

 それは天界の門ヘブンズ・ゲートを阻止すること。

 なにより、

「あなたに言っておきましょう、ガブリエル」

 ミルフィアは背中越しに言う。一方的な言い方は話し合いを拒絶しながらも自分の考えを主張していた。

 ミルフィアのすべきこと。それは今も昔も変わっていない。

「神とは唯一絶対」

「…………」

 この世界を創造し、自分を創ったあの方へ尽くすこと。

 それが、この世界ができてから五千年、ずっと続いている彼女の使命であり名誉。

「あなたたちでは、真の偉大さを知ることは出来ない」

 あの方と共に過ごす時間の中で、あの方を支えること。

 それがミルフィアのすべきことであり、そして、なによりの幸福なのだ。

 ミルフィアは駆け出した。神愛の向かっていった東地区へと足を走らせる。

 ガブリエルはミルフィアを止めなかった。彼女の背中姿を見つめ、今しがた言われた言葉を振り返る。

「ほう……真の偉大さか」

 言ってくれる。ガブリエルの胸中に静かな熱が渦巻いていた。小さな火が灯もる。

 神造体である天羽に向かって、彼女は真の偉大さを知ることは出来ないと言ったのだ。

「ぜひ見てみたいものだ。だがな、覚えておくがいい、『ルフィアの系譜』」

 それは最大限の侮辱。お前たちの神は偉大ではないという言いがかり。認められるはずがない。

 真の偉大さだと? そんなものすでに知っている。誰よりも。その自負があるからこそあの捨て台詞は気に入らない。

 ガブリエルは決意する。いいだろう、そこまで言うのならいつの日か。真の偉大さがどちらか決めようではないか。

 だが覚悟するといい。

 ガブリエルはミルフィアの消えていった虚空へ向けて、冷ややかに言うのだった。

「私たちの父も、それはそれは偉大だぞ?」

 北地区の支点はなくなった。残りの支点はあと三つ。

 人と天羽の攻防は、まだ続く。

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