天下界の無信仰者(イレギュラー)
あと一秒
迫る刀身と大鎌の刃。先に到達するのは大鎌の刃だ、先が相手に向いている分早く届く。
しかしウリエルは振るった剣で防御せず、刃はすれ違い、
「ぐぅう!」
大鎌の刃はウリエルの左肩付近に突き刺さった。激しい痛みに声を噛み殺して我慢する。
このことにサリエルの顔がハッとなるがもう遅い。
ウリエルの攻撃は大鎌を受けたことで止まっており、左手で大鎌を掴んだ。そして右手で扱う長剣を突き刺し、サリエルの腹を貫通した。
「ぐああ!」
腹部に走る激痛に叫ぶ。
「また腹かよ!」
懐かしい痛みに忌々しい記憶までも蘇る。
しかしこれで空間転移は扱えない。痛みと引き換えに好機を得て、ウリエルは剣を引き抜くと同時に左手をサリエルに向けた。
「無価値な炎!」
猛る青白き炎。必滅の火が彼の中心に直撃し、サリエルは胸から下を失った。
「な、にぃい! ……ガァ!」
そこへウリエルは大剣を投げつけた。サリエルの胸を捕らえそのまま飛んでいくと建物に突き刺さった。
「ガッ、ああ……!」
サリエルから虫の息が漏れる。
ウリエルは地上に降りた。サリエルに刺された肩口の傷に右手を添えながら、外壁に磔にされたサリエルを見上げる。
「クッ、ククク……引き分けだな、ウリエル……」
サリエルの損傷は致命的でありもう助からない。にも関わらずサリエルは笑い、目を伏せて話していた。そこに悲観な響きはない。
「俺が死んでも当分その邪眼は終わらねえ。それで終わり。てめえはここで死ぬんだよ……」
頭上から空間全土を見下ろす最大の邪眼。その効力は今もウリエルの体力を奪っている。それにより彼女の表情は苦々しい。
ウリエルの苦しむ姿。確約された死。決着はついた。それを見れないのが残念だが、これが答え。
二千年もの間置き去りにされた決着の結末を知り、サリエルは満足そうな笑みを浮かべていた。
「お前を、お前をようやく……! はっ、はは、は、は、は…………は…………」
笑い声は次第に弱くなっていき、最後には途切れ終わっていた。
七大天羽サリエル。最後まで恍惚とした表情で、彼は意識を失い頭を下げた。体は光の粒子となって風に運ばれていく。
彼は答えを得た。結果に不満がないといえば嘘になるが、それでも。
その退場は、清々しいものだった。
彼が消えるのをウリエルは黙って見送っていた。彼の消滅を確認する。それでもウリエルの表情は晴れない。
脅威はまだ去っていないのだ。
見上げればそこには禍々しき月の邪眼。誰かに監視されるのが不快なように、その究極とも言えるこの邪眼が放つ精神攻撃は信仰者でも耐えれない。
ましてや見るだけで相手を殺すなどデタラメにもほどがある、隠れても無駄などめちゃくちゃだ。
サリエルとの戦闘を経て、タイムリミットはあと、五秒に差し迫っていた。
サリエルの言う通りこの邪眼は未だに消える気配を見せず健在している。自然消滅するにはまだ時間がかかる。
タイムリミットまであと四秒。
邪眼の視界の外まで空間転移しようかとも考えるがすぐに無駄だと分かる。視界そのものが結界のようになっており外に出ることが出来ない。空間が固定されている。
このまま死ぬのを待っているしかないのか。
ぎり、と拳が握り締められる音がする。
まだだ。死ぬわけにはいかない、こんなところで。
まだ理想は道半ば、愛する人の明日も守れていない。
ウリエルは背中を大きく反って、月を見上げた。
タイムリミットまであと三秒。
ウリエルは八枚の羽を動かし、パイルバンカーのように地面に突き刺した。
八枚の羽がそれぞれ地面に穿たれウリエルの体を固定する。彼女は左腕を月に向け、右手で左手首を持った。
青白い炎が手の平に出現し、その量を増やしていく。
あと二秒。
みるみると巨大化していく。膨れ上がった無価値な炎は三メートルを超え、膨大な出力を溜め込んでいく。
「はああああ!」
それを、天に浮かぶ邪眼目掛け発射した。
あと一秒。
しかしウリエルは振るった剣で防御せず、刃はすれ違い、
「ぐぅう!」
大鎌の刃はウリエルの左肩付近に突き刺さった。激しい痛みに声を噛み殺して我慢する。
このことにサリエルの顔がハッとなるがもう遅い。
ウリエルの攻撃は大鎌を受けたことで止まっており、左手で大鎌を掴んだ。そして右手で扱う長剣を突き刺し、サリエルの腹を貫通した。
「ぐああ!」
腹部に走る激痛に叫ぶ。
「また腹かよ!」
懐かしい痛みに忌々しい記憶までも蘇る。
しかしこれで空間転移は扱えない。痛みと引き換えに好機を得て、ウリエルは剣を引き抜くと同時に左手をサリエルに向けた。
「無価値な炎!」
猛る青白き炎。必滅の火が彼の中心に直撃し、サリエルは胸から下を失った。
「な、にぃい! ……ガァ!」
そこへウリエルは大剣を投げつけた。サリエルの胸を捕らえそのまま飛んでいくと建物に突き刺さった。
「ガッ、ああ……!」
サリエルから虫の息が漏れる。
ウリエルは地上に降りた。サリエルに刺された肩口の傷に右手を添えながら、外壁に磔にされたサリエルを見上げる。
「クッ、ククク……引き分けだな、ウリエル……」
サリエルの損傷は致命的でありもう助からない。にも関わらずサリエルは笑い、目を伏せて話していた。そこに悲観な響きはない。
「俺が死んでも当分その邪眼は終わらねえ。それで終わり。てめえはここで死ぬんだよ……」
頭上から空間全土を見下ろす最大の邪眼。その効力は今もウリエルの体力を奪っている。それにより彼女の表情は苦々しい。
ウリエルの苦しむ姿。確約された死。決着はついた。それを見れないのが残念だが、これが答え。
二千年もの間置き去りにされた決着の結末を知り、サリエルは満足そうな笑みを浮かべていた。
「お前を、お前をようやく……! はっ、はは、は、は、は…………は…………」
笑い声は次第に弱くなっていき、最後には途切れ終わっていた。
七大天羽サリエル。最後まで恍惚とした表情で、彼は意識を失い頭を下げた。体は光の粒子となって風に運ばれていく。
彼は答えを得た。結果に不満がないといえば嘘になるが、それでも。
その退場は、清々しいものだった。
彼が消えるのをウリエルは黙って見送っていた。彼の消滅を確認する。それでもウリエルの表情は晴れない。
脅威はまだ去っていないのだ。
見上げればそこには禍々しき月の邪眼。誰かに監視されるのが不快なように、その究極とも言えるこの邪眼が放つ精神攻撃は信仰者でも耐えれない。
ましてや見るだけで相手を殺すなどデタラメにもほどがある、隠れても無駄などめちゃくちゃだ。
サリエルとの戦闘を経て、タイムリミットはあと、五秒に差し迫っていた。
サリエルの言う通りこの邪眼は未だに消える気配を見せず健在している。自然消滅するにはまだ時間がかかる。
タイムリミットまであと四秒。
邪眼の視界の外まで空間転移しようかとも考えるがすぐに無駄だと分かる。視界そのものが結界のようになっており外に出ることが出来ない。空間が固定されている。
このまま死ぬのを待っているしかないのか。
ぎり、と拳が握り締められる音がする。
まだだ。死ぬわけにはいかない、こんなところで。
まだ理想は道半ば、愛する人の明日も守れていない。
ウリエルは背中を大きく反って、月を見上げた。
タイムリミットまであと三秒。
ウリエルは八枚の羽を動かし、パイルバンカーのように地面に突き刺した。
八枚の羽がそれぞれ地面に穿たれウリエルの体を固定する。彼女は左腕を月に向け、右手で左手首を持った。
青白い炎が手の平に出現し、その量を増やしていく。
あと二秒。
みるみると巨大化していく。膨れ上がった無価値な炎は三メートルを超え、膨大な出力を溜め込んでいく。
「はああああ!」
それを、天に浮かぶ邪眼目掛け発射した。
あと一秒。
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