天下界の無信仰者(イレギュラー)
ここは死に愛されし処刑場。黒と月光に彩られた世界に抱かれ罪人よ裁かれるがいい
「汝よ、休める時だ。傷ついた魂は休息し、新たな門出に備えよう」
瞬間、大気が静止した。
「ん?」
この異変にいち早くウリエルが反応する。八枚の羽を広げ宙から見下ろす動きが止まった。
これからなにが起こるのか、それは予感だが確信する危機感が警鐘を鳴らす。
まずい、まずい、これはまずい。迫ろうとしている、この身すら死に追いやる絶対的な猛威が。
死神の足音が聞こえるのだ。歌声も、抱擁も、すべてが死に繋がる最悪の存在が。
「私は汝を抱擁し、その疲れと飢えを拭い去ろう。汝のすべてを祝福し、汝に最愛の歌を贈ろう」
サリエルが言葉を紡ぐ度、この場を覆っていく不吉な空気。恐怖が肌に突き刺さる。真っ当な人間ならこの場に近づこうとは思わない。
事故現場や墓所、大勢の人間が亡くなった場所に人が寄りつかないように、この場はその究極である呪いの地に変貌していく。
「恐れるな、死とは旅立ちなのだから」
その準備は整った。
見るがいい、そして思い知れ。これこそが死の極地。両目に宿った呪いなどという受動的なものでなく、己の意思で扱う力。
七大天羽サリエルの、真の能力なのだ。
「絶対死の邪眼」
瞬間、空は昼から『夜へと変じた』。
「なに?」
日夜の変化にウリエルも驚く。曇天の空なため分かりづらいが、この場は一瞬で夜になったのだ。
それだけではない。
そのあまりの巨大さにウリエルは見上げたまま固まっていた。
空を覆う暗雲を押し退けて、月が顔を出したのだ。でかい、空が月によって蓋をされたよう。そもそもあり得ない、月がここまで接近するなど。
さらに月に変化が生じる。
わずかに振るえたかと思うと、真ん中に線が走り、瞳が開いたのだ。
「なんだと」
これは月であると同時にサリエルが保有する第三の眼、真の邪眼。
二人の直上に浮かぶ巨大な一つ目が地上を覗き込む。
その不気味さ、異様さ。身の毛がよだつ禍々しさだ。
これこそがサリエルの奥の手であり絶対の力。『絶対死の邪眼』。
能力は死の視線の上位互換。体力を奪い取るのも死に追いやるのは無論、これは『あらゆるものを殺す』。
それは無機物だろうが寿命を削るということ。あれほど燃え盛っていた炎が、熱が、急速に冷めていく。まるで首でも締め上げられていくかのように、急速に勢いを無くしていくのだ。
さらにこの視線は千里眼も備えている。屋内に逃げ込もうがすり抜けて対象を呪殺する。加えて効果は死の視線と重複する。
二つの邪眼で見れば効果は二倍。
三十秒で相手を殺せるのだ。
逃げ場はない、視界そのものとなった空間がサリエルの武器となって罪人を追い詰める。
ここは死に愛されし処刑場。黒と月光に彩られた世界に抱かれ罪人よ裁かれるがいい。
刑罰は当然、死、あるのみ!
「ぐうううう!」
今までの比ではない体力の減衰にウリエルは地上に降り、さらに片膝を付いていた。あらゆる効果が二倍であるため体力の減衰も半端ではない。
しかも街を覆っていた炎も熱も今は地面に少し残る程度だ、炎の柱はすべて掻き消えた。表情は歪み肉体と精神、両面からの攻撃に苦痛を強いられる。
そんな彼女の姿を見て、サリエルは大笑していた。
「アーッハッハッハッハ! アハ、アハ、ハーッハッハッハ! どうしたウリエル、苦しそうじゃねえか」
笑い声を上げるのは新たなここの主。死に愛されし、そして死に呪われた天羽ただ一人。
月とは古来より魔力を司るとされてきた。夜によって満ち欠けを繰り返し、海の満潮すら左右する神秘的な存在に人は不思議な力を感じていた。
その月を管理するのもサリエルの役割だ。月の出現と魔力を自在に操り、サリエルの怪我はみるみると回復していく。
数秒も経たぬうちに火傷も左腕も元に戻っていた。
「ようよーう。さっきまでの威勢はどうしよなあ? ああ、いいねえ~。お前が浮かべるそんなツラをずっと想像してたんだ」
想像の中だけで我慢してきた絵面が目の前にある。直に見るウリエルの姿に愉悦が止まらない。
快感に全身が痺れる。幸福の蜜に浸かっているようだ。
「だがなあウリエル、お楽しみはこれからだぜ。とは言ってもすぐに終わっちまうんだがよぉ。まあいいさ、それくらい流してやる。てめえに預けた利息に比べれば微々たるもんだ。気にしないで死んでくれや」
全身から漲る快感はそのままに戦意が迸る。
月の魔力で強化された肉体と新たな邪眼を引きつれて、宿敵ウリエルに刃を向けた。
サリエルは月夜と死を司る死の天羽。逃さない。命を刈り取る死神の空間、見逃すはずがない。
瞬間、大気が静止した。
「ん?」
この異変にいち早くウリエルが反応する。八枚の羽を広げ宙から見下ろす動きが止まった。
これからなにが起こるのか、それは予感だが確信する危機感が警鐘を鳴らす。
まずい、まずい、これはまずい。迫ろうとしている、この身すら死に追いやる絶対的な猛威が。
死神の足音が聞こえるのだ。歌声も、抱擁も、すべてが死に繋がる最悪の存在が。
「私は汝を抱擁し、その疲れと飢えを拭い去ろう。汝のすべてを祝福し、汝に最愛の歌を贈ろう」
サリエルが言葉を紡ぐ度、この場を覆っていく不吉な空気。恐怖が肌に突き刺さる。真っ当な人間ならこの場に近づこうとは思わない。
事故現場や墓所、大勢の人間が亡くなった場所に人が寄りつかないように、この場はその究極である呪いの地に変貌していく。
「恐れるな、死とは旅立ちなのだから」
その準備は整った。
見るがいい、そして思い知れ。これこそが死の極地。両目に宿った呪いなどという受動的なものでなく、己の意思で扱う力。
七大天羽サリエルの、真の能力なのだ。
「絶対死の邪眼」
瞬間、空は昼から『夜へと変じた』。
「なに?」
日夜の変化にウリエルも驚く。曇天の空なため分かりづらいが、この場は一瞬で夜になったのだ。
それだけではない。
そのあまりの巨大さにウリエルは見上げたまま固まっていた。
空を覆う暗雲を押し退けて、月が顔を出したのだ。でかい、空が月によって蓋をされたよう。そもそもあり得ない、月がここまで接近するなど。
さらに月に変化が生じる。
わずかに振るえたかと思うと、真ん中に線が走り、瞳が開いたのだ。
「なんだと」
これは月であると同時にサリエルが保有する第三の眼、真の邪眼。
二人の直上に浮かぶ巨大な一つ目が地上を覗き込む。
その不気味さ、異様さ。身の毛がよだつ禍々しさだ。
これこそがサリエルの奥の手であり絶対の力。『絶対死の邪眼』。
能力は死の視線の上位互換。体力を奪い取るのも死に追いやるのは無論、これは『あらゆるものを殺す』。
それは無機物だろうが寿命を削るということ。あれほど燃え盛っていた炎が、熱が、急速に冷めていく。まるで首でも締め上げられていくかのように、急速に勢いを無くしていくのだ。
さらにこの視線は千里眼も備えている。屋内に逃げ込もうがすり抜けて対象を呪殺する。加えて効果は死の視線と重複する。
二つの邪眼で見れば効果は二倍。
三十秒で相手を殺せるのだ。
逃げ場はない、視界そのものとなった空間がサリエルの武器となって罪人を追い詰める。
ここは死に愛されし処刑場。黒と月光に彩られた世界に抱かれ罪人よ裁かれるがいい。
刑罰は当然、死、あるのみ!
「ぐうううう!」
今までの比ではない体力の減衰にウリエルは地上に降り、さらに片膝を付いていた。あらゆる効果が二倍であるため体力の減衰も半端ではない。
しかも街を覆っていた炎も熱も今は地面に少し残る程度だ、炎の柱はすべて掻き消えた。表情は歪み肉体と精神、両面からの攻撃に苦痛を強いられる。
そんな彼女の姿を見て、サリエルは大笑していた。
「アーッハッハッハッハ! アハ、アハ、ハーッハッハッハ! どうしたウリエル、苦しそうじゃねえか」
笑い声を上げるのは新たなここの主。死に愛されし、そして死に呪われた天羽ただ一人。
月とは古来より魔力を司るとされてきた。夜によって満ち欠けを繰り返し、海の満潮すら左右する神秘的な存在に人は不思議な力を感じていた。
その月を管理するのもサリエルの役割だ。月の出現と魔力を自在に操り、サリエルの怪我はみるみると回復していく。
数秒も経たぬうちに火傷も左腕も元に戻っていた。
「ようよーう。さっきまでの威勢はどうしよなあ? ああ、いいねえ~。お前が浮かべるそんなツラをずっと想像してたんだ」
想像の中だけで我慢してきた絵面が目の前にある。直に見るウリエルの姿に愉悦が止まらない。
快感に全身が痺れる。幸福の蜜に浸かっているようだ。
「だがなあウリエル、お楽しみはこれからだぜ。とは言ってもすぐに終わっちまうんだがよぉ。まあいいさ、それくらい流してやる。てめえに預けた利息に比べれば微々たるもんだ。気にしないで死んでくれや」
全身から漲る快感はそのままに戦意が迸る。
月の魔力で強化された肉体と新たな邪眼を引きつれて、宿敵ウリエルに刃を向けた。
サリエルは月夜と死を司る死の天羽。逃さない。命を刈り取る死神の空間、見逃すはずがない。
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